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Buzzfeedが「チャットGPTメディア」への転換を急ぐ、切実な理由とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
「チャットGPT」導入を急ぐ(Bing Image Creatorで筆者作成)

米バズフィードが「チャットGPTメディア」への転換を急いでいる――。

チャットGPTの大波が押し寄せるメディア業界で、その導入の先陣を切っているのが米バズフィードだ。

5月23日には、新サービスとして、傘下のレシピサイト「テイスティ」にチャットAI「ボタトゥイユ」を公開。レシピ検索のナビゲーション機能をチャットGPTが担う。

クイズ、ゲーム、旅行ガイド……矢継ぎ早にチャットGPTをメディアに展開してみせる。

バズフィードが転換を急ぐ切実な理由とは?

●レシピサイトのAI副料理長

テイスティのAI副料理長であるボタトゥイユは、テイスティが開発した最初のAIユーティリティプロダクトで、AIの力のメリットを発揮しています。料理やレシピのアイデアの検索から、1週間の食事の計画、冷蔵庫の中の食材を使ったレシピの発見まで、ボタトゥイユがサポートします。

米バズフィードは5月23日のリリースで、そう述べている。

ボタトゥイユは、レシピサイト「テイスティ」のモバイルアプリ(まずiOS)に搭載されたチャットAI機能だ。

「冷蔵庫の食材で簡単につくれるイタリアンのレシピは?」といった質問に対して、瞬時に3つのレシピをお薦めする。

そのチャットAIを駆動しているのが、オープンAIのチャットGPTだ。

テイスティの編集部とテックチームは、バズフィードの機械学習チームとともに、テイスティの社内機械学習システムとオープンAIのチャットGPTテクノロジーを組み合わせ、テイスティの編集部の知見と膨大なコンテンツライブラリの広範なネットワークと組み合わせて、シェフボットを開発しました。AIと独自データの統合により、テイスティは大規模言語モデル(LLM)の機能を活用した独自の製品を提供し、テイスティのロイヤルユーザーに共鳴するコンテンツをお届けすることができます。

その背景には、バズフィードCEO、ジョナ・ペレッティ氏のAI戦略がある。

●崩壊するソーシャルの波、成長するAIの波

崩壊するソーシャルメディアの波から、成長する生成AIの波への移行は、私にとってエキサイティングな移行だ。そして、テクノロジーのトレンドからより持続的な価値を獲得するため、私たちが確実に学べることがあると思う。

ニューヨーク・タイムズの5月23日付の記事の中で、ペレッティ氏は、バズフィードの戦略を、そう説明している。

バズフィードは2010年代を通じて、台頭するソーシャルメディアでのコンテンツ拡散に最適化した戦略「分散型モデル」を掲げて、ネットメディアの雄としての存在感を示した。

※参照:フェイスブックの「コンテンツ抱え込み」はメディアにとって悪魔の誘いか(03/29/2015 新聞紙学的

NBCユニバーサルがバズフィードに2億ドルの追加投資を行った2016年の評価額は、17億ドルだったという。

だがその後、バズフィードは、ソーシャルメディアのニュース離れ、2021年12月の上場の失敗など、逆風を受け続ける。

※参照:フェイスブックがニュースを排除する:2018年、メディアのサバイバルプラン(その3)(01/13/2018  新聞紙学的

※参照:1日で株価41%急落、米BuzzFeedの盛衰が示すネットメディアの行方とは?(06/13/2022 新聞紙学的

バズフィード、現在の時価総額は9,000万ドル足らずだ。

リストラの波の中で、2023年4月には、中国政府によるウイグル族弾圧についての一連の報道でピュリツァー賞受賞(2021年)の業績も残したニュース部門、バズフィード・ニュースの閉鎖が明らかになった。

ペレッティ氏の言う「崩壊するソーシャルメディアの波」とは、このような波乱の経緯を含んでいる。

●矢継ぎ早の展開

そして、「成長するAIの波」こそがチャットGPTの登場が引き起こした大波だ。

「我々はAIを活用したコンテンツの未来をリードする」。ペレッティ氏は2023年1月27日の声明でそう宣言。ウォールストリート・ジャーナルは、その提携先がオープンAIであると報じていた。

その4日前には、マイクロソフトによるオープンAIへの数十億ドル規模の追加投資が明らかにされ、チャットGPTの大波が社会の注目を集めていた。

そしてバズフィードは2月14日、チャットGPT活用の第1弾としてAIクイズ「インフィニティ・クイズ」を公開する。

あなたを主人公にしたラブコメ作成」「別れのメッセージ作成」など、クイズ形式の質問にユーザーが回答していくと、そのユーザーにカスタマイズされたコンテンツが表示されるという仕組みだ。

※参照:「AIが選ぶ」から「AIが作る」へ、BuzzFeedの戦略転換が示すメディア環境の変化とは?(02/01/2023 新聞紙学的

このほかにも、3月13日からはチャットGPTと連動したゲーム「アンダー・ジ・インフルエンサー」を公開

その数日後には、チャットGPTと連動した40本を超す自動生成の世界のトラベルガイドも掲載している。

ブルームバーグによると、バズフィードは投資家説明会で、「インフィニティ・クイズ」が従来型のクイズコンテンツに比べて40%以上の利用時間を獲得しており、「アンダー・ジ・インフルエンサー」は従来型クイズの4倍の利用数に上っていることを明らかにしたという。

●メディア業界の懸念

メディアのAI導入では、失敗事例もある。

独自開発のAIによってコンテンツの自動生成に取り組んでいたCNETのケースでは、その開示方法が不十分だった上、間違いも多数発見されたことから、大きな批判を浴びることとなった。

一方、チャットGPTなどの生成AIの広がりが、メディアに与えるダメージについても懸念されている。

一つは、ネット検索などを経由した広告収入への影響だ。

現在は、検索結果に表示されたリンクから、ユーザーがニュースを配信したメディアサイトを訪れ、ニュースの本文とともに広告を閲覧する、という流れがある。

だが、生成AIがニュースの要点をまとめた回答を示してしまえば、ユーザーはわざわざメディアサイトを訪れたりしないのではないか、という懸念だ。

さらに、コンテンツが生成AIの学習データとして使われ、生成コンテンツとして利用されることへの著作権と使用料をめぐる懸念も広がる。

ワシントン・ポストが調査したグーグルが公開している学習データでは、データ元のトップ10のうち、5つがニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズといったメディアサイトであることが明らかになっている。

※参照:チャットAIの「頭脳」をつくるデータの正体がわかった、プライバシーや著作権の行方は?(04/24/2023 新聞紙学的

米国メディアの業界団体「ニュース/メディア連合」は、4月20日に「AI原則」を公開。「コンテンツを使用する権利についてメディアと協議する必要がある」と述べている。

また日本新聞協会も5月17日に見解を公表。ニュースコンテンツの利用実態の透明化が必要だとした。

●利用と検証の両輪

チャットGPTなどの生成AIの広がりが、メディアに大きなインパクトを与えるのは間違いない。

その利用と検証の両輪を、素早く回していくことが、メディアの課題として突き付けられている。

(※2023年5月29日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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