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ビッグ、ミドル、スモールの布陣を駆使する川崎 佐藤HCが“新戦力”をPGで試した意図とは?

大島和人スポーツライター
藤井祐眞(左)とマット・ジャニング(右)写真=B.LEAGUE

東地区首位で中断期間入り

B1(Bリーグ1部)は11月13日・14日の第8節を終え、3週間の中断期間に入る。11勝3敗で東地区の首位に立っているのが川崎ブレイブサンダースだ。

川崎はB1を代表する強豪&人気チームながら、2016年の開幕からチャンピオンシップ制覇の経験がない。さらに今季は辻直人、青木保憲が揃って広島ドラゴンフライズに移籍。藤井祐眞、篠山竜青の2ガードは健在だが、新戦力との融合が一つのハードルだった。

11月13日の茨城ロボッツ戦は新たな“チャレンジ”が見えた一戦だった。

Bリーグの外国籍選手枠はベンチ入りが3名で、同時起用が2名。川崎は2018年4月にニック・ファジーカスが日本国籍を取得し、他の外国籍インサイドプレイヤー2人と合わせた“3ビッグ”を同時にコートに立たせられる編成になった。

ファジーカスとジョーダン・ヒース、パブロ・アギラールのトリオは単に大型なだけでなく、それぞれが違う強みを持っていて相性もいい。3ビッグが同時にプレーするオプションは川崎の強みで、今年3月の天皇杯制覇にもつながった。

新戦力ジャニングをPGで起用

ただし今季の川崎は「ミドル」「スモール」のラインアップに切り替わっても面白い。例えば13日の第2クォーター(Q)にはファジーカス、ヒースを下げてこの5人をコートに立たせた。

鎌田裕也(197センチ)

パブロ・アギラール(203センチ)

熊谷尚也(195センチ)

増田啓介(194センチ)

マット・ジャニング(196センチ)

つまり普段はシューティングガード(SG)、スモールフォワード(SF)、パワーフォワード(PF)として起用される「中型」の選手たちを揃えた。このラインアップなら守備ではミスマッチを作らず、相手に激しくプレッシャーを掛けられる。攻撃面の肝はマット・ジャニングのポイントガード(PG)起用だろう。

33歳でアメリカ生まれのジャニングは、2011-12シーズンからヨーロッパでキャリアを積んできたシューティングガード(SG)。レベルの高いスペインリーグでも、3ポイントシュートの成功率はコンスタントに40%前後を記録してきた。

課題解消のオプションに

もっとも彼は“シュートだけ”の選手ではない。佐藤賢次ヘッドコーチ(HC)はこう説明する。

「今日はポイントガードでも使っていますけど、コートビジョンが広いし、IQも高い。パスのスキルも相当に高い選手なので、ポイントガードの時間帯を作って、その時間帯に出ている他の4人の選手を活かすところを期待して使いました」

13日の川崎は第1Qを22-27のビハインドで終えた。このミドルラインアップで入った第2Qの冒頭3分30分を11-6で終え、33-33とタイにした。第2Q残り8分51秒に増田啓介、続く7分41秒は熊谷尚也とオープンな形からの3ポイントシュートも決まった。

佐藤HCはジャニングのPG起用について、こう手応えを口にする。

「今日はマット(ジャニング)とクマ(熊谷)と増田を出している時間帯が前半にありましたけど、あの時間帯に良いシュートが生まれてました。ジャニングには周りを活かす能力があるので、そういうプレーも作っていきたい。ニック(ファジーカス)がコートから離れたとき、点数がピタッと止まってしまう傾向がこれまでの試合でもありました。そこをどうしようかな……というオプションの一つとして考えていて、(茨城戦で)だいぶ整理できてきました」

佐藤賢次HC (C)KAWASAKI BRAVE THUNDERS
佐藤賢次HC (C)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

守備で流れを変える「スモール」

第4Qに佐藤HCがぶつけたのは「スモールラインアップ」だ。78-77と1点差に詰められていた第4Q残り8分31秒。川崎はファジーカスとジャニングを下げ、藤井と篠山の2ガードを同時に起用した。

二人はフロントコートから激しくプレッシャーをかけ、茨城のボール運びを苦しめた。しつこいチェックで相手のオフェンスファウルやターンオーバーを誘い、守備で試合の流れを川崎に引っ張った。最終的には川崎が105-96で13日の試合を制した。

体力が「余っていた」理由

藤井はこう振り返る。

「終盤、勝負どころなら1本1本が大切というのは理解していますし、僕自身もそこでしっかり仕事をしたいと思っています。逆を言うと僕のところでずっとボールを運んでこなかったので、体力的にはその分余っていました」

藤井は2季連続でBリーグのベストディフェンダー賞に輝いている選手で、展開の中では相手チームが彼を避ける状況も起こる。実際に茨城はマーク・トラッソリーニ、チェハーレス・タプスコットといったガードでない選手にボール運びを託す傾向があった。ただインサイドプレイヤーがリバウンド、ゴール下の競り合いに加えてガードの役目まで担うと、そこに無理が生じる。

藤井は説明する。

「(茨城は)ずっとビッグマンが運んでいて、(第4Qに)疲れてきていました。前節の富山戦も同じように前半リードされて、でもマブンガ選手がずっとボールを運んでいた中で疲れて、最後は僕らが走り勝った展開でした。今日も(茨城が)本来と違うポジションで(外国籍選手を)プレーをさせていたので、やはり疲れも見えました。第4クォーターはウチがプレッシャーを掛けて走り勝った印象です」

しつこい守備を見せる藤井祐眞 写真=B.LEAGUE
しつこい守備を見せる藤井祐眞 写真=B.LEAGUE

「2ガードみたいなイメージ」

川崎は藤井がメインのPG、ハンドラーだ。茨城戦では短時間ながらジャニングがPGとして起用され、SGとして起用された時間帯もハンドラーとして機能していた。

藤井は言う。

「流れの中で(ボールが)入ったときはどちらもハンドラーができますし、どちらもスペースを考えてシュートを狙えます。今シーズンの川崎はボールと人が動く形を作りたいと言っています。(攻撃が)ファーストサイドだけで終わるのでなく、セカンドサイド、サードサイドと変わっても展開の中でどんどんピックを使えて、(PG以外が)ハンドラーの仕事ができる。そういうところは、2ガードみたいなイメージでやっています」

多彩で魅力的な川崎のオプション

川崎は当然ながら前日本代表主将の篠山も健在で、攻守両面で藤井に負担が集中することはない。試合の終盤に突き放す展開が多い一因は、川崎が攻守の負荷を上手く分散させられているからだろう。

川崎は1試合の中で「ビッグ」「ミドル」「スモール」と全く違うスタイルを繰り出せる。2021-22シーズンはまだ序盤で、戦術的な調整は更に進んでいく。川崎は可能性を感じるオプションが多く、シーズン中盤以降の進化が楽しみだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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