パリ写真月間
11月はパリの写真月間。「Paris Photo(パリフォト)」をはじめ、さまざまな写真関連のイベントが恒例になっている。開催にさきがけて先日記者発表があった「Salon de la Photo(サロン・ドゥ・ラ・フォト)」もそのひとつ。10回目を数えるこの見本市、ことしの開催は11月10日〜14日で、最先端のカメラ機材メーカーなど150のスタンドが出展予定だが、ハード面の展示だけでなく、写真作品の展示が充実度を増しており、写真展としての魅力が今年は強調されそうだ。
いちばんの目玉になりそうなのは、Jean Marquis(ジャン・マルキ 1926〜)の写真展。北フランスはリール近郊の出身で、庶民の営みにフォーカスしたヒューマニスト的な写真をはじめ、モード、社会運動など、被写体のフィールドは幅広く、いずれの分野でも時代のモニュメント的な作品を残している。日本でも有名な写真家、ロバート・キャパの親戚でもあり、写真家集団「マグナムフォト」の重要人物のひとりにも挙げられる。
かくいう私もじつをいうと、これまで彼のことをほとんど知らなかったが、記者発表の壇上に投影されたいくつかの写真、とくに羊の群れを撮ったものにはっとさせられた。なんということはないフランスの田舎の風景なのだが、モノクロ写真の圧倒的なパワーが腹の底にずしんと響くような衝撃をうけた。画面の多くを占める陰の部分の黒。これが有機的な質感をもつように感じられ、無機質な平面から溢れ出て、観る者をも漆黒に染めてしまいそうな気さえする。そして底知れない深い黒の海からぽおっと浮かび上がるような無数の羊たち。それがまるで神の光の化身のように見える、と言ったら、ちょっと形容が過ぎるだろうか。ともあれ、どうということのない平凡なものが、神々しいまでの風景に昇華した一級の写真を目の当たりにした思いだ。
いったいどうやってこんなモノクロの世界を創り出せるのか…。
私を含め、写真を愛する者たちの問いの答えにつながりそうな彼の言葉のいくつかを、出展予定の写真とともにここにお届けする。
「Un Regard Lumineux」。「光の視線」とでも訳せそうなこの展覧会は見本市の会期中のみと短いのが残念だが、ジャン・マルキの代表作約100点が並ぶ。さらにもうひとりのフランスの巨匠、レイモン・ドパルドンの作品約40点も同時に展示される予定だ。
ちなみにこの「サロン・ドゥ・ラ・フォト」は、横浜で2月に行われるcp+(camera &photo imaging show)と連携しており、The Editors’ Photo Award受賞者の日本人写真家二人の作品もパリの見本市会場で発表されることになっている。また記者発表の会場となったマレ地区のヨーロッパ写真美術館そのものも、施設や展示に日本企業の「大日本印刷」が寄与しており、写真の世界でのパリと日本の密接な関係が感じられる。