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『日本には、ガザで起きていることに「NO」と言える道徳的な力がある』ノーベル平和賞受賞者のことば

堀潤ジャーナリスト

パレスチナ自治区ガザへの熾烈な攻撃が始まって1ヶ月以上が経過した。

OCHA=国連人道問題調整事務所は一連の衝突が始まってからガザ地区ではすでに人口の6割を超える150万人以上が住まいを追われているとしている。

これまでの戦闘で、ガザでは1万1078人が死亡。イスラエルでは少なくとも1200

人以上がハマスの攻撃などにより殺害された。

10日に開かれた国連安保理の緊急会合では、WHO=世界保健機関のテドロス事務局長が報告し「10分に1人、子どもが死亡している」と改善されない人道状況に危機感を募らせた。

あらためて「国際社会」とは何か、その存在意義が問われている。

そもそも、国際社会とは「誰」のことを指すのか。イエメン出身のタワックル・カルマンさんに聞いた。カルマンさんは、2011年、32歳の若さでイエメン人の女性として初めてノーベル平和賞を受賞したジャーナリストだ。

カルマンさんは、2001年から新聞や雑誌で記事を書き始め、一貫して女性の権利や表現の自由を求めてきた。2005年に「束縛のない女性ジャーナリスト(Women Journalists Without Chains,WJWC)」を設立。

2007年から毎週火曜日にイエメンの政府庁舎前で独裁政権に抗議する座り込み運動を開始し、政府の抑圧,不正,その他社会的,法的不平等の撤廃を求めた。

2011年の「アラブの春」では、サーレハ大統領(当時)退陣と民主化を求め,青年革命運動の先頭に立ち、支援者から“革命の母”“鉄の女”と呼ばれた。

同年民主化が遅れる地域で女性の地位向上に尽力したとして、リベリア大統領のエレン・サーリーフ、同国の平和運動家リーマ・ボウイーとともに、32歳の若さでノーベル平和賞を受賞した。

そのカルマンさんに、国際社会の「主語」は誰か、日本政府、日本国民は今何をすべきかお話を伺った。

◆機能していない「国際社会」の主語は誰か?

堀)

私からの質問はととてもシンプルです。国際社会とは「何」か、国際社会とは「誰」か?

実は、以前、ガザを訪ねた際にこうした市民の声を聞きました。「国際社会は何をしているのか。なぜ誰もこの問題を解決しようとしないのか?」と。国際社会とは誰のことなのでしょうか?

カルマンさん)

とてもいい質問です。国際社会について語るとき、私たちはまず、人権を守るために設立された国際NGO、すなわち国連について語ります。国連は、世界中の人々の生活と権利を守るために活動すべき最も重要な機関です。

アメリカやイギリス、西側諸国の政府のように「自分たちは民主的で、人権の価値観にコミットしている」と主張する国や、日本のような強い国、とても良い国、そういった国々はすべて、ガザで起きていること、パレスチナ全般で起きていることに対して、とても強い声を上げなければならないと思っています。


イスラエル国内で起きていること、民間人を攻撃することについて非難します。パレスチナ人であろうとイスラエル人であろうと、民間人を攻撃することに反対です。

同時に、ガザで今起きていること、特にガザで起きていることは、一種の大量虐殺であり、民族浄化です。 それこそ、国際社会とは何か?国連とは何か?各国は何をしているのか?という事態です。

だから私たちは、今ガザで起きていることを非難します。即時停戦を求めます。

パレスチナ人とイスラエル人を問わず、すべての人質と捕虜の解放を求め、ガザ封鎖の解除を求めます。ガザで何が起きているのか見てください。ガザを封鎖し、一般市民を殺害しています。

現在、9,000人以上の市民が殺されています。2万3千人以上の女性や子どもたちが苦しんでいます。水、電気、食料、医療を遮断することは人道に対する罪であり、戦争犯罪です。この封鎖と殺戮をやめるべきです。

最も重要なことは、すべての原因、すべての問題、パレスチナとイスラエルの紛争を解決することです。 


解決策とは、この対立の根源に対処することです。紛争の根源はイスラエルの占領です。パレスチナ人の自決権と、イスラエルとパレスチナの2つの国家を持つ権利を謳った国際決議(国連決議)の実行です。

残念ながら、今に至るまで、このようなことは起こっていません。このままでは、パレスチナ・イスラエル紛争に関する国際決議が履行されず、さらなる大量虐殺、民族浄化、紛争、戦争が起こるでしょう。 今すぐ止めるべきです。

カルマンさんとの対話は30分あまり 日本は4度目だという 撮影:白井浩太郎(TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG」)
カルマンさんとの対話は30分あまり 日本は4度目だという 撮影:白井浩太郎(TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG」)

◆国際社会としての「国連安保理」機能不全をどう考えるのか?

堀)

国連安保理には失望しています。フランス、アメリカ、そしてロシア、中国をはじめ、彼らは市民を助ける決断ができません。どうすれば国連安保理を再建できるのでしょうか?

カルマンさん)

私たちには、今、世界政府が必要です。世界政府とは、国連そのものであるべきです。国連は加盟国や各国政府を本当に拘束する力を持つ組織に改革されるべきです。

まず、母なる地球に対するあらゆる有害な行為、有害な活動を止めさせる必要があります。地球の資源を悪用することは、地球の生態系を破壊し、母なる地球の多様な生物学的多様性を破壊し、地球温暖化につながります。

その結果、この土地における将来のあらゆる存在の可能性が失われることになります。ですから、国連を非常に強力にし、加盟国を縛り、あらゆる種類の危害を阻止できるようにする真の改革が必要なのです。 


第二に、国連という「組織」が必要です。安全保障理事会だけでなく、国連全体、つまり機関としての国連が必要です。すべての加盟国、特に豊かな国々を縛る力を持つべきです。国連加盟国のうち、豊かな国々は、国民所得の一定割合を国連に参加させ、貧しい国々に分配すべきです。

貧富の差を縮めるためです。

最後は、世界の平和と安全保障を維持し、保全するために、あらゆる紛争を阻止する力を持つことです。 紛争が起こる前にまず問題を解決する力です。

また、戦争をしたり、クーデターを起こしたり、人権を攻撃したりする国々を追放する権限もあります。 この権限は、このために設置された安全保障理事会の手に委ねられるべきです。

しかし現在、残念なことに、安保理は5カ国の拒否権に基づく制限的な権限しか持っておらず、彼らはその拒否権を、人々を破滅させ、国を破滅させ、自分たちの利益を守るためだけに使っています。

つまり、安全保障、拒否権を持つ国のメンバーは、結局、自国第一なのです。国民を救うための国際機関である本来の安全保障理事会のメンバーではありません。

ですので、安保理を改正してその権限を与える必要があります。拒否権を行使することで、その一国が利益を得るような仕組みではいけないのです。

これは、ガザやウクライナで起きていることです日、世界中の多くの国で起きていることです。

だらかこそ、本当に、本当に、改革が必要なんです。本当に必要なんです。 


国連には「歯」がなければなりません。その歯があれば、国連加盟国、つまり世界中の国々に、人権、世界平和、母なる地球の安全性と完全性、そして開発と貧困との闘いを約束させることができます。 


◆「日本には特別な力がある」その力とは?

堀)

同意します。一刻も早く変わらなければならないと思います。先週、イスラエルの駐日大使にお会いしました。大使は、明確に「国連の決定を拒否する」と言っていました。121カ国が戦争をただちに止めろ、という内容を拒否すると言っていました。国連安保理が決められなくても、私たちにはG7のサポートがある、とも言っています。日本はG7のメンバーです。カルマンさんは、日本には何を期待しますか?

カルマン)

日本は、ガザで起きていることにノーと言える「道徳心」を持った、最も重要な国なんです。 特に、日本は長崎と広島の原爆で被害を受けた国です。そして皆さんは、その戦争の後、経済や政治、あらゆる面で台頭した国です。 だから私は、この分野で日本が非常に大きなモデルを示してくれたことに敬意を表したいのです。

日本には、ガザで起きていることにノーと言う道徳的な力があります。ガザで起きていることは、まさに大量虐殺であり、民族浄化なのです。 それはハマスに対する戦争ではなく、パレスチナの人々に対する戦争です。

そして今、日本が、そして日本のような偉大な国々が、仕事をすべきなのです。残念ながらアメリカやイギリス政府を待っていてはいけないのです。彼らは残念ながら、大変残念ながら、政府としてイスラエルを支持しています。

これは、私たちの人間性が試されている事態です。 だから私は、日本がこの戦争を止めるために声を上げることを本当に心から奨励します。今すぐ停戦すべきです。そして最も重要なことは、この問題は今すぐ解決されるべきだということです。パレスチナ・イスラエルに関する国連決議を実行に移すべきです。

カルマンさんの言葉は力強かった
カルマンさんの言葉は力強かった

パレスチナの人々に、自国を建国するため、そして2つの国家に基づく解決策を実行するための権利を与える決議を行うべきです。そして日本はそれに貢献すべきです。


私は東京にいる日本に、日本政府にそのような仕事をするよう働きかけています。もし日本人が権力者として、また国民として立ち上がらなければ、パレスチナ人全員が自国から追い出されてしまいます。

今こそ声を上げなければならない。

日本は、人類を守るための非常に大きな、大きな試練にさらされています。これが第一です。

そして第二に、私は日本が国連を世界政府にするために、また、私が申し上げたように、母なる地球の安全、人権擁護、世界平和の維持、貧困との闘いのために、世界中の政府を縛る国際的なメカニズムにするために、国連に力を与える活動をすることを奨励します。 それはとても重要なことです。

私は本当に日本を信頼しています。日本の評判は非常に高く、日本がこのような取り組みをリードするにふさわしいと考えています。

日本が後手に回って自国の経済だけに集中している場合ではなく、日本の発言力を高める必要があります。


世界の全ての人々が必要としてる、人権、国民の権利、尊厳、自由、民主主義、繁栄の中で生きることを支持する声が必要なのです。

それが日本の役割です。

そして、日本がこの役割をリードしてくれることを期待しています。

私は、明確なポジションを持たない国に留まる人々が好きではありません。

「私たちは中立だ」と言いう立場です。

それは、中立ではない。あなたは歴史の正しい側にいるべきです。人権、尊厳、自由、民主主義、そした価値の側に立って、大量虐殺や民族浄化、戦争そのものを止めなければなりません。


日本がこの努力をリードしてくれることを願っています。私たちは日本を信頼しているし、その努力を待っています。

アラブ地域の人々、特にアラブ地域の人々は、誠実な声を、信頼できるあなたの国の新しい存在を待っています。

西側諸国に対する信頼はますます薄れています。今や欧米は、解決策の一部である以上に、問題の一部となっています。

日本がこのような解決策やイニシアティブを提供するようになれば、日本という国、国家、組織、国民に対する信頼は非常に高まると思います。

対談は30分余り 水を飲む暇もなく一気に思いを語り伝えてくれた 8bitNewsより
対談は30分余り 水を飲む暇もなく一気に思いを語り伝えてくれた 8bitNewsより

◆「独裁」と闘ってきたカルマンさんからの提言とは?

堀)

最後の質問ですが、「市民の力」は世界にとって非常に重要です。人々の状況を変えるために、私たち市民は何をすべきでしょうか? 


カルマンさん)

この質問の答えは、今世界中で起きている大規模なデモを見るとわかると思います。今、アメリカの歴史にはなかったような大規模なデモが起きている。今、アメリカの人々は、ガザの停戦を求め、パレスチナ問題の解決を求め、平和的に街頭に立っています。 ドイツでも同じことが言えるし、日本でもデモが起きています。世界中のデモがそうです。

人々の声を封じ込めるべきではありません。

人々は、真実を言うことを恐れてはいけませんし、あらゆる努力を惜しんではいけません。非暴力的に、あらゆる手段を使って政府を説得し、戦争をやめさせ、人々の命を救うのです。 


だから私は、このことのために、そしてこのことが正しいことであることのために、世界中で何百万人、何千万人という人々がデモを行ったこと、そしてこのことが政府に対する意識の向上と、最も重要な圧力につながっていることを、とても誇りに思います。


人々はメディアを利用し、ソーシャルメディアを利用し、平和的なデモや座り込みなどあらゆるものを使って声を上げる必要があります。 人々の努力、圧力、そしてそれが政治の言葉にも変化をもたらしています。

例えば、アメリカやイギリス、そして今ではフランスの政治家たちが、停戦はすべきだと言い始めています。 


人々の力ほど重要なものはありません。

ですから、自分の力を信じ、自分の声を信じ、沈黙してはいけません。黙っていないで、常に真実を口にし、その結果を恐れないでください。

そして、今、私たちは恵まれていて、21世紀を迎えていて、世界中の人々を支援するために使える巨大なテクノロジー、素晴らしいテクノロジーを持っています。

占領、独裁、貧困に苦しむ人々、そのような人々と共にあり、彼らの舌となり、彼らの声となり、彼らを支援し、個人としての力を過小評価してはなりません。


これはあなたの戦いであり、あなたの周りには多くの人々、仲間がいる。

声を上げれば、あなたの声はいつか届きます。

ありがとう。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2021年、株式会社「わたしをことばにする研究所」設立。現在、TOKYO MX「堀潤LIVE Junction」キャスター、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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