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Go To キャンペーンと時短要請 ~ 「正直者が馬鹿を見る」?

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:西村尚己/アフロ)

・「納得がいかない」

 大阪市内で飲食店を営む40歳代の男性は、「納得がいかない」と言う。「Go Toトラベルで、飲食店が得したとか、損したとか言いますけど、うちら、もともと観光客相手じゃないし、むしろ、Go Toのおかげで迷惑したと思ってます」と言う。

 マスコミの取り上げ方の多くは、Go Toトラベルで観光客が増加し、それで「ホテル、旅館、飲食店」が恩恵を被ったと一括りにして説明する。もちろん、観光地や観光客を主要な客層としてきた一部の飲食店には、大きな恩恵があったことは確かだ。

 しかし、「大阪市内と一括りにされても、うちのような店は地元の会社員などが主要な客層。9月、10月とだんだんと在宅勤務から出勤に替わってきて、忘年会も頼むねと言われていたのが、全部吹き飛んだ。この怒りをどこに持て行けばいいのか」とこの男性は言う。

・「正直者が馬鹿を見る」

 札幌市内で飲食店を経営する30歳代の男性は、「クラスターが出たと騒ぎになって、ススキノを守れなんて言い出したけど、発生した店名は隠した。地元じゃみんな知ってるんですよ、どこのどんな店だか、ああ、あそこか、やっぱりって」と言う。そして、「私が店を出している地域は、地元の飲食店の組合がちゃんとしているんです。必要なコロナ対策やら、そのための助成金の情報とか、ちゃんと流してくれている。同業者を悪く言ったら悪いけど、組合に入らなかったり、対策をしなかったりという店が問題を起こしているんじゃないですか」と怒る。また、同じ札幌市内で別の飲食店の60歳代の経営者は、「Go To トラベルで感染拡大してないって言いますけど、本当ですかねえ。あれが始まってから、団体で街に繰り出して、風俗店などに行く人が多かったですよ。ここまでなっても旅の恥はかき捨てなんだなあと思ってましたし、感染拡大もああやってしまったと思いましたが」と言います。

 「正直者が馬鹿を見ている」と言うのは、首都圏で飲食店を経営する40歳代の男性だ。さらに「うちの近所でも、ホストクラブまがいの店が、非常事態宣言の時にも平気で営業していた。ハロウィンの時も終夜営業だとネットで宣伝していた。区役所の職員や議員に文句を言っても、強制力はないし、風俗営業の届けが出てないからと言う。この店のSNSとか見てみれば、どういう店だから判るだろうと言ってもだめ。自粛とかに真面目に付き合って、対策に金を使っているのが、バカバカしくなる」と怒る。

 大阪市内でやはり飲食店を経営する60歳代の男性は、「なんでもかんでも飲食店と一緒くたにするのはおかしいんじゃないのか。性的なサービスを対策もせずに行ったり、感染する可能性が高いと言われているのにカラオケをしたり、そういうことをやっている店と、完璧だとは言わないけれど、苦しい中で席数を減らし、休業中に換気装置も入れ、時短要請も受け入れてやってきている店を一緒にするのかと納得いかない。ルールを守らない、守れない経営者には、それなりのペナルティーを課すべきだと思う」と言う。

・忘年会クラスター?

 大阪で飲食店を経営する50歳代の女性は、「ニュースで忘年会クラスターってテレビで騒いでいるの見て、終わったと。でも、ニュースをよく見たら、一部の人たちが二次会でカラオケして感染したと。それって、無いよなあと。今、カラオケしますか。カラオケさせますかって。きっと一次会を受けた飲食店さんは、一所懸命準備もしたのだろうなあと悲しくなりました。忘年会クラスターなんて騒がれても」と言う。

 そんな中で山梨県は感染拡大の初期段階に、やまなしグリーン・ゾーン認証制度を運用している。他府県市町村で見られるような自己申告だけではなく、業態別に詳細な申請書類提出に加えて、県職員による店舗への訪問調査を経て認証される。すでに県内の2560の宿泊業、飲食業、ワイナリー、酒蔵が認証施設となっている。飲食業に関しては、「風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律に規定する接待を伴う飲食店」は、そもそも認証対象外とされている。

 ここまで厳しくしても、12月に入り、取得した施設の利用者に初めて感染が確認された。これに対して、山梨県の長崎幸太郎知事は、店側は認証制度にのっとって、対策を講じており、落ち度はないと認証の取り消しは行わないとした。さらに、知事は、店側だけでは感染は防げず、利用者がルールを無視しては感染拡大リスクを排除することは困難だと客側の責任も指摘している。こうした毅然とした対応ができたのも、5月以降、山梨県の制度運用や修学旅行再開などの取り組みを地元市町村と取り組んできたことが背景にあるからこそだろう。

 Go Toトラベルや飲食店の問題というと、北海道、東京、大阪ばかりがマスコミをにぎわす傾向があるが、山梨県のように地道に取り組んでいることこそ、共有し、各地で実践すべきだろう。

・不公平感を放置すれば、分断に繋がる

 Go ToトラベルもGo Toイートも、緊急的に実施したからという理由で、様々な問題が噴出した。実施しながら修正するという方式は、間違ってはいないが、「なぜ最初に判らなかったか」という点が多いために、一部の企業や個人の利権を優先したからではないかという不満が起こる原因になっている。さらに、そうした不信感に加えて、多くの経営者が口にする不公平感が高まっている。

 ある地方議員は、「例えば風営法で規制されているべき飲食業が申請もせず、全くルールも守らず、自粛要請にも応じないところがある。さらに警察に相談しても、風営法そのものがザル法のようなもので、今回のような時にちゃんと取り締まりすらできず、事実上野放し。そんな店舗でもマスコミで報道される時は、どこそこの飲食店だと言われて、エリア一体が迷惑する」と言う。さらに、「こうした状況が続けば、協力した自分たちだけが損をする、商店街組合などに加盟していても意味がないなどと感じる経営者が増える。ルールを守れない者を保護することで、守っている人たちの関係が崩れ、地域の中で分断が起こりかねない」と危惧する。

・悪質な店舗は店名公開やペナルティーを課すべき段階

 自己申告だけで自治体が「感染防止協力店」などというお墨付きを与えてしまうのではなく、山梨県のように、訪問調査も含む厳格な認証制度を適用すべきだ。

 さらに、こうした認証も受けず、対策を講じず、自粛要請にも応じない店舗や経営者に対しては、行政の支援制度や低利・無利子融資制度の利用制限を行うなどのペナルティーを課すことも必要となるだろう。

 認証もなく感染症対策を講じずにクラスターを発生させるなどした場合は、強制的に店名の公開なども行うべきだろう。警察も風営法に基づく取り締まり強化を通じて、対策に協力することが求められる。

 もちろん、対策には完璧なものはない。だからこそ、山梨県が行ったように、認証制度に基づく対策を講じていて、感染が起きた場合には、むしろ経営再開への支援を行えばよい。

 自粛に協力しても、しなくても、ルールを守っても、守らなくても同じでは、多くの真面目に対策を講じ、時短などのに協力している飲食店経営者にとっては納得がいかない。「正直者が馬鹿を見る」ようなことを続けていても、新型コロナの感染拡大は克服できず、ずるずると長引かせ、さらに経済の回復に時間が無駄に費やされるだけだ。

風営法=風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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