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持続可能な医療のための10年プラン(2)

加藤秀樹構想日本 代表

前回のおさらい

  • かつては社会に適合していた日本の医療制度が、生活習慣病の増加、高齢者医療と介護のニーズの増加などによって、現在の状況にあわなくなってきている。
  • その結果、「患者」「医療機関」「医療財政」それぞれが不満や問題を抱え、今や持続不能になりつつある。
  • 診療科の自由標榜、フリーアクセス、介護保険と医療保険が別の制度であることと、それらとセットになった大学の医療教育、診療報酬制度などが背景にある。

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― これらの問題を解決するための手段として構想日本が提案しているのが「地域健康管理医(家庭医)」ですね。これは具体的にどのような役割を担う人なのでしょうか?

「地域健康管理医」とは、次のようなイメージです。

あなたの体の具合が悪くなったと仮定してください。

大ケガや心臓発作など緊急に治療が必要な場合を除いて、「地域健康管理医」に行きます。欧米などで「地域健康管理医」に相当する医師(日本では家庭医とか総合医として紹介されている)の診療所はカーペットを敷いたサロンのようなオフィスの雰囲気です。そこには高度な検査機器もほとんどありません。

地域ごとに一定の数の「地域健康管理医」がいて、この地域の人たちにとっては彼らが「主治医」となり何かあったら彼らの診療所に行き、診察や相談をします。そうやって継続的な関係が構築されます。丁寧な問診とともに、過去の病歴、家庭や職場の環境なども含めて総合的な診察を行うのです。疾病の診察をするのではなく、全人的な診療と継続的な健康管理を担うのです。

「地域健康管理医」は、このように一次医療や予防医療を担い、二次医療(入院治療を主体とした疾病ごとの専門的な医療)、三次医療(先進的、特殊な技術、機器を必要とする専門性の高い医療)は「地域健康管理医」の紹介により、疾病ごとの専門家である「病院専門医」が担います。一次と二次、三次の担当医を分けるところがミソなのです。こうすることで、患者が自らの疾病に対する自己診断を行い、行く病院も自分で探すことなく、的確な診断、治療を受けることができるようになります。

日本は他国と比較して高齢化の進展が急速に進んでいるため、「地域健康管理医」は医療、介護、福祉の連携の司令塔としての役割も担います。

介護の予防にも取り組み、医療だけでなく他の制度によるケアとの調整をする役割も担います。そうすることで、医療、介護、福祉の制度の垣根を越えた一貫したケアの実現を図ります。これが「全人的で継続的な健康管理」の意味なのです。

― 一次医療の担い手という点では厚生労働省が検討している「総合診療医」と似ていますね。

基本的な問題意識は共通していると思います。しかし大きく異なっているのが専門性と養成課程です。

厚労省は外科専門医、小児科専門医などの医療の専門領域を定めていますが、2013年4月に総合的な診療能力を持つ医者をなどと同様に19番目の基本領域として加えることを決め、この新たな専門医の名称を「総合診療専門医(略称:総合診療医)」としました。

しかし、これは上述した「地域健康管理医」のように問診、触診を中心に患者を全人的かつ継続的に診る養成課程を経たわけではなく、「総合診療医」という科目を従来の専門領域に一つ付け加えただけです。一次医療は二次、三次を担う医者が誰でも出来る簡単なものではなく、患者とその環境をよく観察することによって本当の病気をつきとめるという異なる専門性を持ったプロなのです。

このように「地域健康管理医」の養成課程は、「病院専門医」とはそもそも求められる能力が異なるため、他の専門分野と同列の一専門分野ではなく、全く別の過程による教育、養成が必要なのです。

― 医療、介護、福祉の連携という点では、厚生労働省の「地域包括ケア構想」とも共通しているのではないでしょうか。

こちらも大きな方向性では共通しています。

2005年の介護保険法改正で「地域包括支援センター」が市町村に設けられ、医療と介護の連携を行う中核機関として位置づけられました。しかし、現在の市町村の実態は、医療と介護の相互調整をするほどのリーダーシップを発揮することができておらず、単純な高齢者の健康づくり指導や相談事業などが中心となってしまっているケースが多いのです。ほとんどの市町村では、医療や介護の専門知識を持たない職員が2~3年担当し人事異動で変わってしまうため、医療、介護、福祉の連携を図るというような大きな動きを起こせずに、自分たちにできることを細々と行っているということなのだと思います。

だからこそ、「地域健康管理医」のように家庭、職場を含めて継続的に診る医師が、医療だけでなく他制度によるケアとのつなぎや分担などの総合調整を行い、患者の健康管理全てに責任を持つことの意義が大きいのです。

「地域健康管理医」が育てば、彼らが「地域包括ケア」の中核を担い、この仕組みが回りはじめると思います。

― 現在の医療の仕組みを大きく変える提言ですね。実現のハードルはかなり高そうですが、どのように考えていますか?

まずは、「地域健康管理医」を育てるところからスタートさせないといけません。したがって、構想日本の提言は10年かけて全体を実現することを目指しています。

現在の医療体制を否定するのではなく、これと併存する形で徐々に新しい仕組みが浸透していくようにするためには以下の4つのポイントが重要です。

(1)地域健康管理医に必要な要件の決定、人材育成の開始

例えば専門家集団である学会が、地域の一次医療を担う医師に必要な診療の能力、医療だけでなく、介護や福祉などの制度上の理解など「地域健康管理医」に必要な要件を定め、大学が都道府県などと連携しながら、その要件にそった養成プログラムを作成し人材の育成を行います。また、従来の専門医制度に関する学会の試験制度と同様に「地域医療管理医」にも試験を行い、質を担保します。

(2)地域ごとに必要な地域健康管理医の人数の確定

今後都道府県の定める「地域医療機能ビジョン」の中にその地域の地理的、あるいは高齢化の状況を踏まえ二次医療圏ごとに必要な地域健康管理医の数について定めます。

(3)患者が「地域健康管理医」を受診するよう行動の変化を促す

患者と医師が全人的かつ継続的な関係をつくっていくには、まずは患者に地域健康管理医を受診してもらう必要があります。そのために次の2点が重要です。

1.「地域健康管理医」資格を取得していない医師の標榜の制限

医師なら誰でも診療科を自由に標榜することができる仕組みを改め、「地域健康管理医」の資格を取得した医師だけがこの標榜科を掲げることができるようにします。

こうすることで、患者にとって「まずは、ここで診てもらい、相談すれば良い」という場所がわかりやすくなるのです。

2.診療報酬体系の見直し

治療や検査等医療の行為に応じた「出来高払い」が中心の現在の仕組みを変え、「地域健康管理医」には(2)で定めた地域ごとの人口や高齢者数等に応じ、また、問診などを十分に評価した診療報酬が払われる仕組みとし、点数評価をしにくい一次医療の診断と健康管理に力を注ぐインセンティブを高めます。

(4)介護、福祉との連携

地域健康管理医は「地域包括ケアシステム」の司令塔として、市町村やケアマネージャーと連携する必要があります。その際に、地域健康管理医、市町村、ケアマネージャーがどのような役割分担で、地域の医療、介護、福祉をみていくのかを決めなければならないですが、市町村やケアマネージャーの人数や質は、地域によって大きく異なるため、地域ごとにその役割分担を定めます。

これらを、まずは特定の地域(都道府県単位)をモデルケースにして実践し、同時に制度面の抜本的な改正を進めていくことが必要です。

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ご意見や感想は、info<at>kosonippon.orgまでご連絡ください。

※<at>は@に変えてください。

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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