雨のち第一級の寒波 年末には高齢者が多い故郷の家族に安心・安全のための呼びかけを
自然の恵みが豊かな国
日本は自然災害が多い国ですが、自然の恵みも豊かな国です。
夏の暑さや多くの雨は、災害をもたらすと同時に豊富な農作物という恵みを与えてくれます。
台風では災害が発生しますが、干ばつを救う恵みの雨となることもあります。
冬の大雪でも、この雪が布団代わりとなり、寒波が農作物や建物に決定的なダメージを与えるのを防いでくれます。
また、昔から「雪は豊年の瑞(しるし)」とか、「雪は豊年の貢物(みつぎもの)」「雪は五穀の精」などといわれてきました。
稲作には春先に多くの水を必要としますが、山に降った雪が多いと、雪解けの水が豊富となり、豊作が見込まれるからです。
また、大雪が降るほど寒いと、越冬する害虫の卵も死滅してくれるからです。
災害は人間生活との関係で決まる
古代大きな災害だった干害は、ため池や用水路の整備により減ってきました。
冷害は北の地方で稲作をするようになってから始まりましたが、最近は農作物の改良や農業技術の進歩によって減っています。
水害は、稲作等のために低地に住み始めることで増え始め、低地に都市が発達するにつれ拡大しています。
特に明治以降の都市化によって大災害が発生していますが、戦後、堤防等の整備によって少し減っています。
しかし、中小河川の氾濫や、がけ崩れなどの増加によって、現在も大きな災害であることにはかわりがありません。
このように、災害は人間生活との関係で決まり、人間生活が変化すれば災害も変化します。
最近の災害は、都市化、過疎化、高齢化、ネットワーク化の4つによって、従来の災害とは違った面がでています。
ここで、ネットワーク化というのは、他の地域との結びつきが非常に増えてきたため、一部の地方でおきた災害でもその影響は全国に及ぶ例が出始めていることをさします。
4つの大きな変化のうち、特に問題となんているのが高齢化です。
最近の大きな災害における死者を、年齢別にみると、高齢者の割合が特に大きくなっています。
近年は、過疎化が進んでいる地方では高齢化がかなりすすみ、それに比して災害における高齢者の死者の割合が増えていますが、災害の高齢化が最初に指摘されたのは、今から16年前、平成16年(2004年)7月13日に発生した「新潟・福島豪雨」です。
「新潟・福島豪雨」では、1万棟以上の家屋が被害を受け、新潟県と福島県では死者がでています(表)。
死亡した16人の約8割、13人が70才以上ですが、災害当日と災害翌日に判明した10人は、全員が70才以上であったことが、災害による犠牲者の高齢化を強く印象付けました。
現在は、個人情報保護の観点から、災害による死者についての情報を発表しない自治体が増えています。
そこで、著者は大災害の新聞記事から死者の性別・年齢を集計しています。
従って、全てではなく、誤差もありますが、大体の傾向がつかめると思ったからです。
令和2年(2020年)7月豪雨について調査すると、70才以上の割合が68パーセントもあります(図1)。
熊本県球磨村の特別養護老人ホームの入所者14人が亡くなり、高齢者の割合を引き上げていますが、これを除いても、61パーセントが70才以上です。
現在の防災対策においては、高齢化対策が最重要課題の一つとなっています。
そして、雪害も他の災害と同じように時代とともに変化し、高齢化などが問題になっています。
変化する雪害
江戸時代までは、人々は雪を災害とは考えませんでした。
日本海側の雪の多い地方では、雪が降る前に食料を貯え、閉じこもった生活をしていましたし、太平洋側の雪が少ない地方では、雪が降ったときは仕事を休んでいました。
雪は季節のできごとであり、特に災害という意識はありませんでした。
雪害が意識されるようになったのは、鉄道や電気が普及する明治以降です。
大雪による鉄道の不通や、着雪や雪崩による送電線の切断によって、生活に支障をきたす人が多くなったからです。
そして、雪害は、戦後、車社会の到来とともに大きくなっています。
雪が降っても、雪が降っていないときと同じような生活をするためには、道路除雪をまめに行い、車の通行を円滑にしないと大災害となる事例が相次いでいます。
約半月前の12月14日にも、西高東低の冬型の気圧配置が強まり、群馬県みなかみ町藤原では12月15日16時から17日16時までの48時間に199cmも降るなど、日本海側を中心に記録的な集中豪雪となっています。
このため、新潟・群馬県境の関越自動車道では、16日夜からの交通障害で約1100台の車が立ち往生したことから、新潟県では自衛隊に災害派遣を要請しました(関越道を管理する東日本高速道路は、のちに、最大約2100台が立ち往生したと発表しました)。
道路除雪が、幹線道路だけでなく生活道路まで拡大して行うようになった結果として、雪下ろし中の死者が急増しています。
屋根から雪下ろし中によく落下したものだと、雪国に住んでいた祖父母から聞きましたが、昔は、雪下ろし中に落下しても、雪の上への落下でした。
このため、死亡には至りませんが、今は、雪下ろし中に落下すると、除雪された地面に直接落下しますので、死に直結します。
元気な高齢者が、経験が十分あるので大丈夫というのは通用しません。
気持ちは若くても体力がついてゆかないということはさておいても、雪下ろしは、便利な生活と引き換えに危険度が増した作業です。
屋根からの雪下ろしは、命綱をつけるなど、昔以上に安全対策が必要です。
年末年始の一級の寒波
12月27日(日)は、西高東低の冬型の気圧配置がゆるみ、28日(月)にかけて2つの低気圧が日本列島を通過する見込です(図2)。
このため、気温が上昇し、雨の所が多くなります。
そして、年末年始にかけ、一級の寒波が南下してきます。
日本列島に南下する寒気の目安として、上空約5500mと、上空約1500mの気温が使われます。
上空約5500mの気温が氷点下30度以下なら強い寒気、氷点下36度以下なら非常に強い寒気で大雪の可能性もあります。
12月28日(月)の週明けから南下してくる寒気は、北海道では、氷点下36度どころか、氷点下42度以下という、真冬でもなかなか出現しない強烈なものです(図3)。
そして、氷点下36度という非常に強い寒気は北陸まで、氷点下30度という強い寒気も関東南岸まで南下してきます。
日本列島は、今冬一番の寒気におおわれる、寒い年末年始となる見込みです。
気象庁では、5日先までに大雪警報を発表する可能性を「高」「中」の2段階で示した早期注意情報を発表しています(図4)。
これによると、12月30日以降は東北地方の日本海側から九州北部までの広い範囲で、大雪警報が発表となる可能性が「中」という情報です。
また、平地で雨として降るか、雪として降るかの判断の目安が、上空約1500mの気温が氷点下6度です。
降水現象が、上空約1500メートルの気温が氷点下6度未満であれば雪、氷点下6度以上であれば雨として降ることが多いからです。
この上空約1500メートルで、氷点下6度という寒気は、12月31日朝には、東日本から西日本の南海上まで南下する予想です(図5)。
北日本や北陸だけでなく、沖縄・奄美地方を除く全国で降水現象があれば雪として降る寒い年末年始の見込です。
西高東低の冬型の気圧位置ですので、太平洋側の地方は概ね晴れますが、日本海地方に大雪を降らせた雪雲が脊梁山脈の間から流入し、雪が降るとこともあります。
地元気象台の発表する気象情報に注意してください。
==年始をまたずに故郷の家族に電話を==
テレビなどのマスメディアでは伝えきれない大量の情報が氾濫していますが、情報が必要なところに届いていないという現状があります。
また、きめ細かい防災情報がインターネット等で提供されていますので、取りに行けば情報が入手できますが、取りに行く方法が意外と知られていません。
また、取りにいっても情報が多すぎて使いこなせないという意見もあります。
とはいえ、いろいろな問題があっても、自分の身を守るのに役立つ情報が、どこかにある時代になっています。
積極的に情報をとりにゆき、それを役立てるのが大事であると思います。
ただ、これらは、そもそもインターネット等を使いこなせない高齢者にとっては、非常に高いハードルです。
そこで提案です。
新型コロナウイルス対策で、帰省をとりやめた人が多いかと思いますが、年始の挨拶電話(アケオメ)は例年通りにすると思います。
今年は、それに加えて、安心・安全のために、年末の挨拶の電話をしてみてはいかがでしょうか。
高齢者が多い故郷の家族が住んでいる場所の防災情報を、インターネット等で調べてからです。
最新の道具を使って、自分のために調べてくれた子や孫からの電話は、うれしいと思いますし、この積み重ねが年末年始の減災につながるのではないかと思います。
タイトル画像の出典:アフロ
図1の出典:新聞記事より著者作成。
図2、図4の出典:気象庁ホームページ。
図3、図5の出典:ウェザーマップ提供。
表の出典:消防庁ホームページをもとに著者作成。