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「キラキラ」から「ざらざら」へ、法政大学社会学部がパンフを変えた理由

藤代裕之ジャーナリスト
大きく変わったパンフレットの表紙。左から2015年版、16年版、17年版

入試シーズンが本格化し、私が所属する法政大学も入試の真っ只中。ありがたいことに2017年入試で首都圏の大学で志願者数トップとなり、人気が上昇しています。しかしながら、大学人気が高まったからといって、学部・学科が選ばれるかは別の話。いかに社会学部を選んでもらうか考えた結果が、パンフレットを「ざらざら」にすることでした。なお、この記事は大学や学部の見解ではなく、パンフ制作に関わった一教員としての考えを示したものです。

学部・学科で選ばれる難しさ

大学の志願者トップは近畿大学。「マグロ大学」や大学の枠組みを「早慶近」と打ち出すなど刺激的な入試広報が話題です。

上記の記事のように、各大学の取り組みは注目されてマスメディアに紹介されることも多くあります。しかし、ランキングはあくまで大学単位で、学部や学科の話題は乏しい状況です。六大学やMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)、関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)など大学名でくくられがちな入試にあって、学部・学科を打ち出すのは難しく、受験生から選んでもらうというのは思った以上に大変です。

保護者、教員、予備校の講師など受験生の進路選択に影響を持つ人々の多くが、大学名別のイメージで捉えているからです。大学ランキングによるイメージが向上するのはいいですが「法政ならどこでも」では、学びとミスマッチが起きてしまいます。

パンフレットは「重厚さ」か「楽しさ」か

大学側は、オープンキャンパス、模擬授業などを活用し、より詳しく学部・学科での学びの内容を知ってもらおうと取り組みを進めています。中でも、パンフレットは大規模な説明会やウェブサイトでも配布できるので、重要なツールです。

大学の受験生向けパンフレットのイメージはどんなものでしょうか。伝統や歴史を紹介する「重厚さ」重視タイプ。緑の芝生、笑顔の大学生、キャンパスライフを取り上げる「楽しさ」重視のタイプ、があります。下の写真だと、早稲田と立教は「重厚さ」で、明治と青山は「楽しさ」と言えるでしょう。

左から早稲田大社会科学部、明治大情報コミュニケーション学部、青山学院大社会情報学部、立教大社会学部のパンフレット表紙
左から早稲田大社会科学部、明治大情報コミュニケーション学部、青山学院大社会情報学部、立教大社会学部のパンフレット表紙

楽しさ重視のタイプは「キラキラ」していて、多くの場合使われている紙の質感が「ツルツル、スベスベ」なのですが、法政大学社会学部のパンフレットの表紙は学生の写真なし、「社会課題を解決しよう。」の文字、紙の質感は「ざらざら」です。他大学、学内他学部と比較しても、かなり「ヘンな目立つ」デザインになっています。

実は、2016年版以前は法政大学社会学部のパンフレットも「キラキラ」路線でした。

18歳人口が大幅に減る2018年問題、都心回帰する大学人気の高まりを受け(社会学部のある多摩キャンパスは大変アクセスが悪い)、差別化を図ろうとリニューアルすることになり、私を含む教員で構成される広報委員会と、職員、入学センター、パンフ制作を担当する企業が協力し、半年以上かけて議論しました。

「ざらざら」の意味するところ

法政らしさ、社会学部らしさ、を考えコンセプトを練り直し、出てきたのが「社会課題の解決」でした。社会のことを考え、問題意識がある受験生に来てもらいたいと、表紙はイメージではなく学びの目的を軸に置き、内容はゼミや授業に重点を置いた、ものになりました。

法政大学社会学部のパンフレット。左から2015年版、16年版、17年版
法政大学社会学部のパンフレット。左から2015年版、16年版、17年版

例えば、メディア社会学科は、入試説明を担当する職員の皆さんからは「将来マスコミ希望の学生」に分かりやすいという意見を頂いていましたが、「社会課題の解決」を軸とするなら、単にマスメディアに入りたいではなく、社会の課題を解決する一つのアプローチとしてメディアを使いたいという人に入ってもらうようになるはずで、それは以前ブログに下記のような記事を書いた自分にとっても、歓迎すべき方向性でした。

紙の質感を「ざらざら」にしたのは、生きていく中で何か引っかかりがある人、社会に対して何か疑問を持っている人に、社会学部を選んでもらいたいとのメッセージを込めたものです。オープンキャンパスや模擬授業で、パンフレットを出してもらい、実際に触ってみてもらうことで、コンセプトを感じてもらえるようになりました。

学部・学科で選んでほしい

パンフレットの効果はどのようなものか、新入生に簡単なアンケートも行いました。その結果、入学を決める際に最も参考にしたのは大学の入試サイト、次は高校の教員、パンフレットは3番目でした。「異なる素材で印象が残った」「内容が学部の授業について詳しく書かれていて、とても参考になった」との評価がある一方、「特に覚えていない」「インパクトがなく地味」というコメントもありました。浸透には、もう少し時間がかかりそうです。

大学は「パラダイス」ではなく、学びが重視されるようになっています。入れば終わりではないからこそ、大学だけでなく、学部・学科を見て選んでもらえるとありがたいです。寒い日が続いていますが、受験生の皆さん、頑張ってください!

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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