とんねるず・石橋貴明の助言を守り続けて10年、大阪の「プロ素人」が演歌歌手としてデビュー
「とんねるずの石橋貴明さん、さまぁ〜ずの三村マサカズさんが自宅に泊まりに行きたことがあって。『とんねるず×さまぁ〜ずの一文無しジャーニー』(フジテレビ系)のヒッチハイク企画で大阪の心斎橋へいらっしゃったとき、歩いている私を見つけて『今から飲みに行かない?』と声をかけてくださったんです」
現在、関西を中心にキャンペーンモデルなどの活動をおこなっている、ようようさんは2013年の出来事についてそのように振り返る。
「そのあと、私の自宅でおふたりが一泊する流れになったんです。スタッフさんも帰られてカメラもまわっていないなか、お酒を飲んで、そのまま一緒に寝て。そこで人生相談をしていたら、石橋さんから『ようちゃんは前髪がない方が良いよ』と言われ、おでこを出すようになったんです。もしかするとあの日が、今の自分につながる転機だったのかもしれません」
同年には大阪で開催された『NHKのど自慢』(NHK)にも出演。中原めいこの『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。』(1984年)を歌唱した。小さいときから「ずっと『大人になったら歌手になりたい』と思っていて、民謡を習ったりしていたんです」という彼女にとって、『のど自慢』のステージは大きな一歩だった。
でんぱ組.incの「えいたそ」に似ていると話題に
さらにこの時期、ようようさんは居酒屋でのアルバイト中、広告代理店に勤務する客から「将来、なにになりたいの?」と尋ねられた。咄嗟に「歌手です」と答えたものの、自分の今後についていろいろ迷いがあった。その客は「声に自信があるのなら」と、CMなどのナレーションの仕事を紹介してくれた。そして2014年にはウェブCM『ポケモンバトルトローゼ』の紹介映像の声も担当した。
「今からちょうど10年くらい前、いろんな出来事が重なっていましたね。『のど自慢』に出たときは、ネット掲示板に『セミプロ』と書かれていましたし(笑)。ただ、自分が果たして何者なのか分かりませんでした。ミスコンで『ミス道頓堀』にもなったりして、バンドもやって、芸能関係の仕事もちょっとやらせてもらえるようにはなっていましたけど、でも堂々と『タレントです』と言えるほどでもなかったので」
2016年、ようようさんの「自分は何者であるのか」という模索はさらに深まっていく。ファンであるアイドルグループ、でんぱ組.incのライブへ行ったときに、メンバーの「えいたそ」こと成瀬瑛美に見間違えられてちょっとした騒ぎになった。
「『なんでこんなところにえいたそが?』みたいな雰囲気になって。自分が移動したら人が付いてくるような感じでした。それから『えいたそのそっくりさん』と言われて、ライブへ行けば一緒に写真を撮って欲しいと頼まれたり、ファンが集まるイベントやグループの公認イベントにも呼ばれたり。2017年には『でんぱの神神』(テレビ朝日系)の『えいたそにプロデュースされたいアイドル』のオーディション企画に応募して、番組にも出ました。そこでも、えいたそさんとのツーショットが反響になったりして。すごく光栄なことでしたが、一方で複雑な気持ちもありました。私はそもそもベタベタの大阪弁ですし、性格だって『いかにも大阪』って感じ。だから『見た目は似ているけど、えいたそとは違うね』と言われることもあって。ますます『自分らしさってなんなんだろう』と考えるようになりました」
限りなくタレントに近い「プロ素人」「名物素人」
ただ、街中で石橋貴明や三村マサカズに声をかけられたり、声の仕事が決まったり、「えいたそのそっくりさん」として注目を浴びるなど、どこにいても目立つ「素人」であることには間違いなかった。
その後も『メッセンジャーの○○は大丈夫なのか?』(MBS)で、売れていないタレントの暮らしぶりをリサーチするために見取り図が自宅を訪問することもあった。これもやはり、芸能関係者たちが「どこかにおもしろい人はいないか」と探すなかでようようさんの名前が挙がったのだという。
「いろんなお店へよく飲みに行くんですけど、私はめちゃくちゃお喋りなので、その場にいる人とすぐ仲良くなれるんです。そこで出会う人の友だちがキャスティングの仕事をやっていたりして、話がいろいろ回って自分のところへ出演オファーがくるんです」
胸を張って「タレント」とは言えなかったが、かといって純粋な「素人」でもない。ようようさんはその狭間にいる、言わば「プロ素人」「名物素人」だった。
演歌歌手としてデビュー「10年前の自分に筋を通すことができた」
そんな彼女は2023年、テレビ演出家・マッコイ斎藤さんと格闘家・芦澤竜誠選手のイベント『ぶらり喧嘩ライブ』(7月7日開催)にゲスト出演するなど、「タレント」としてオファーが増えてきた。その理由は、「淀川蘭子」名義で演歌歌手としてデビューしたからだ。7月26日にデビューCD『なにわ珍道中/金の寝待月』が全国発売され、さらに今後、芸能人のYouTubeチャンネルへの出演も予定されているという。
「演歌歌手デビューの話をもらったとき、やっと『自分』が見つかった気がしました。誰かに似ているとかではなく、街中でテレビ番組からよく声をかけられる『プロ素人』『名物素人』でもない。ちゃんと『タレント活動をしています』と言える日がきました。『自分とはなんなのか』と考えていた一方で、私自身、自分で自分の活動を誤魔化していたところがあったと思います。『好きなことをやっているフリーター』と自己紹介するなど、ヌルッとしていたんです。10年前に居酒屋のアルバイトでお客さんに『なにになりたいの?』と尋ねられて『歌手です』と答えましたが、そんな自分にやっと筋を通すことができました」
10年に及んだ自分探しの珍道中。少し時間を要したが、これからの視界は良好だ。目標は「『のど自慢』にゲスト歌手として呼ばれること」。もちろん、そんなようようさんのデビューCDのジャケット写真も、おでこに前髪はかかっていない。