科学雑誌に未来はあるか~「ニュートン」出版元経営破たんの衝撃
突然のニュース
青天の霹靂ともいうべきニュースだった。
2月17日、科学雑誌ニュートンの出版元であるニュートンプレスの元社長らが逮捕された。
理科少年だった私に科学者へのあこがれを植え付けた、いわゆるビジュアル科学雑誌のニュートン。私は1982年以来35年にもわたり定期購読してきた。そんな私のような定期購読者に、ここ数年、出資をお願いする手紙がたびたび届いていた。iPADで科学教材を開発するための資金だという。
一口100万円と書かれており、そんな余裕のない私は無視していたが、若干の違和感は感じていた。それがまさか逮捕につながるとは…
それだけでも衝撃的だったが、それは序章にすぎなかった。この事件の背景には、ニュートンプレスの経営難があった。
逮捕のニュースの3日後の2月20日。ニュートンプレスは民事再生法の適用を東京地裁に申請し、経営破たんした。
倒産といっても再建を目指す民事再生法が適用されるため、雑誌ニュートンは刊行されるようだ。ひとまずほっとした。また、生命科学を学んだことある方々にとっては、教科書「細胞の分子生物学」の翻訳版の発行も気になるところだが、無事と解釈してよいのだろう。
ビジュアル科学雑誌ブームを生んだニュートン
1980年代前半にビジュアル総合科学雑誌ブームがあった。そのきっかけはなんといってもニュートンだった。「ナショナルジオグラフィック」誌をモデルにしたといわれ、宇宙を中心とするカラフルなイラストが魅力だった。故竹内均編集長のキャラクターも味わいがあり、小学生の私は夢中になって読んだものだ。
我が国の科学雑誌に関する調査(2003年5月)によれば、クオーク、オムニ、ウータンといった雑誌が創刊され、それ以前から刊行されていた雑誌も含め、科学雑誌全体の売り上げが伸びた。
しかし、その時代は長くは続かなかった。クオーク、オムニ、ウータンは休刊。歴史ある科学朝日やその後続のサイアスも21世紀まで生き残れなかった。
新しい世紀まで生き延びた総合科学雑誌のなかで、もっとも元気がいいと思っていたのがニュートンだった。コンビニなどでも売られており、電子版や各国版の発行も行っていた。研究歴のある知人が編集部員になるなど、人材獲得にも積極的な印象だった。
近年では、生命科学の特集も多くなり、バランスもとれてきたと思っていたその矢先…
ひそかに進んだ経営難
実態は火の車だったようだ。
こうして民事再生法適用の申請に至ったわけだ。
ウェブ上には動画も含め科学に関する様々な映像がアップされており、グラフィック誌が持つ優位性は失われていた。また、モデルとなったナショナルジオグラフィックの日本語版も刊行されており、読者の奪い合いになっていたかもしれない。
しかし、老舗の「科学」(岩波書店)や「日経サイエンス」の数倍の4-5万部の発行部数があったと言われる。かつてニュートンの発行部数は40万部もあると聞いていたが、それよりは減っている。とはいえ、それだけの読者がいたわけだ。取引先会社に融通したデジタル教材の開発費が回収できなかったことが痛い。
私は「科学」も「日経サイエンス」も毎月読んでいるが、ビジュアルの面ではニュートンが抜きんでていた。若者を科学に惹きつける力はこれらより勝っていただろう。愛読者としては、経営破たんは残念だが、雑誌がこれからも生き残ることを願う。
科学雑誌に未来はあるか
ニュートンプレスの経営破たんは、大きな問題を投げかけたといえる。それは「科学雑誌は売れないのか」という問題だ。
2003年に日本の科学雑誌の動向を調査した科学技術政策研究所(現科学技術・学術政策研究所)は、報告書のなかで以下のように述べる。
日本はそもそも科学雑誌が売れない国なのだろうか。ニュートンプレスの破たんは、それを裏付けるかようにみえる。
しかし、日経BP社が刊行する多数の専門誌の売り上げは好調だと聞く。このYahoo!ニュース個人の科学記事も時々100万ページビューを超えるような「バズる記事」が出ている。科学記事が読まれないわけではないはずだ。
総合科学雑誌というポジショニングの難しさが、今回の破たんにつながったのかもしれない。
雑誌という形態にこだわらず、まだまだできることはあるのではないか。経営破たんという厳しい現実が突き付けるものは大きいが、私はあきらめていない。
フェイクニュースが跋扈するいま、科学記事の重要性はますます増している。
頑張れ科学雑誌!