ヤングなでしこ、失意の敗戦は起爆剤になるか。「腹を割って議論した」選手ミーティングで示した「本気度」
【今大会初失点が決勝点に】
勝った時ではなく、負けた時こそチームの真価が試される。残り2試合、U-20日本女子代表(ヤングなでしこ)は、最後に真の勝者になることができるだろうか――。
AFC U20女子アジアカップに出場しているヤングなでしこは、3月10日に行われたグループステージ第3戦でU-20朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)女子代表に0-1で敗れた。2勝1敗でグループ2位となり、準決勝の相手は、グループA1位のU-20オーストラリア女子代表に決まった。
U-20北朝鮮女子代表は、20歳以下で過去2大会世界王者になった強豪国。日本は20歳以下のアジアカップでは2015年から3大会連続で決勝戦を戦い、毎回、紙一重の好勝負を演じてきた。だが、グループステージでの対戦となったこの試合で、両国が置かれた状況は対照的だった。
2連勝でノックアウトステージ進出を決めていた(負けても準決勝進出できる)日本と、1勝1分で、自力での進出には引き分け以上の結果が必要だった北朝鮮。北朝鮮にとっては、負ければU-20ワールドカップ出場権を失いかねない一戦でもあった。
北朝鮮のリ・ソンホ監督は出場停止のハン・ホンリョンを除き、ベストに近いメンバー構成で挑んでいる。一方、狩野倫久監督はメンバーの過半数を変更。日本はGK鹿島彩莉、右サイドバックの岡村來佳、左サイドハーフの樋渡百花が初出場。トップの笹井一愛、ボランチの白沢百合恵が初先発というフレッシュなメンバーで臨んだ。
試合後、狩野監督はこの変更について、中2日の連戦や7日の中国戦がハードな戦いになったことを踏まえて「コンディション面を考慮した」と明かした。また、「GS3戦目ということでチャレンジしました」とも語っている。
代表ではサイドバックを主戦場としてきた小山史乃観をトップ下におく4-5-1のフォーメーションを選択したことも、一つの“チャレンジ”だった。
「小山選手はWEリーグのデータから見ても、サイドバックを起点に深いエリアへのパスが多く、アシストやゴールも多くありました。現在所属しているチーム(スウェーデンのユールゴーデンIF)ではトップ下や前線のポジションもやっていますし、元々攻撃的なセンスはあったので、前線のリンク役としてうまく攻撃に関わってもらいたいという狙いがありました」(狩野監督)
序盤の15分は両者の激しい主導権の奪い合いが続いたが、日本はそれまでの2試合に比べると、パスのずれやサポートの遅れが目立った。「雨でグラウンドが少しぬかるんで、滑りやすくなっていました」(辻澤亜唯)という芝の状態も影響したようだ。
その中でも、北朝鮮はハイプレスとミドルプレスを使い分け、奪うとサイドチェンジを織り交ぜて日本の守備を揺さぶり、1対1で強引にはがされる場面も見られた。そして、セットプレーでは持ち前の強さを見せた。
そして、北朝鮮に流れが傾いていた前半22分、日本が相手のコーナーキックのピンチを凌いだ直後のプレーでミスは起こった。GK鹿島のパスを受けようとした米田博美に対し、左からチェ・ウンヨンが凄まじいプレスをかけてボールを奪い、そのままゴールに流し込む。これが日本の今大会初失点となった。
思わぬ形でリードを許した日本は樋渡のドリブル突破などで反撃を試みるが、北朝鮮は無理をせず、守備的な戦いにシフト。前がかりになった日本は、29分の攻撃ではカウンターの餌食になりかけた。
だが、狩野監督の動きも早かった。36分に今大会3ゴールの土方麻椰を前線に投入。小山を右SBに、笹井を右サイドにスライドさせ、樋渡も含めた長身3トップのスピードを活かした打開にも期待が高まった。
だが、相手の対応が一枚上手だった。前半終了間際には、中央を破られて、あわやPK献上かというシーンを作られている。
後半は途中出場の大山愛笑のワンタッチパスや、左サイドに投入された辻澤亜唯の積極的な攻撃参加でリズムが生まれ、54分には笹井のクロスに辻澤が飛び込む決定機があったが、スコアには至らず。終盤は途中出場の松永未夢が果敢なドリブルで見せ場を作ったが、最後まで1点は遠かった。
【戦術面でも手強かった北朝鮮】
狩野監督は敗戦を受けて、「失点の前の2分程度の時間は非常に悪く、不用意な形から失点してしまいました。チーム全体の流れを構築するために何が必要だったか、ということは私の責任でもあります」と振り返っている。
結果的にボール支配率は日本が69%と上回ったが、枠内シュートは少なく、有効な打開策は見出せなかった。北朝鮮は前からの圧力や、球際の迫力というイメージが先行しがちだが、先のパリ五輪アジア最終予選でもなでしこジャパンが苦戦したように、戦術面でも手強い。左サイドで奮闘した佐々木里緒はその点を実感していた。
「北朝鮮は相手の強度も戦術も高くて、自分たちが思うようなサッカーをさせてもらえなかった印象です。個々にテクニカルな選手もいて、そういう部分は最初の2戦とは違いました。(日本は)それぞれの距離感が少し遠かった印象があるので、そういうところからミスにつながってしまったのかなと思います」
後半から投入されて流れを変えた辻澤は、「前半の早い段階で失点してから取り返せる時間も多くあった中で、決めきれなかったことは課題です」と、決定力を課題に挙げた。
【試合後に提案された選手ミーティング】
初戦、第2戦のメンバーや配置を固定して臨んでいたら結果は違った可能性もある。だがその場合、出場機会が少なかった選手は飛躍の機会を失い、主力の消耗もピークに達していただろう。
勝った場合は準決勝でU-20韓国女子代表と対戦することになっていたが、この年代では、日本が対戦するオーストラリアよりも韓国の方が実績は上。結果的に、グループ2位で準決勝に進出した日本にとっては悪くない組み合わせになったという見方もできる。
狩野監督はさまざまな可能性を含めて決勝までの5試合を見据え、個々やチームが最も成長できる道を選択したのだろう。
「私の中では、選んだ選手を信頼して(起用して)いるということが一番です。その上で、しっかりとピッチ上で表現してほしい。(試合前には)初出場の選手も含めて、『ピッチで失敗してもいいから迷いなくチャレンジしよう』と伝えました。それが勝利につながれば、選手たちの自信にもつながったと思います」
その自信を積み上げることはできなかったが、北朝鮮とは決勝で再び対戦する可能性がある。そうなれば、この敗戦はむしろ成長の起爆剤となりうる。
「いくら悔やんでも結果は変わらないので、選手たちには『前を向いてポジティブに、もっとチャレンジしていこう』と話しました。つまずいて、こけて、どうやってそこから立ち上がるのか。何かを掴んで立ち上がらないといけないし、今回の負けがさらに自分たちを強くしていくきっかけにもなると思います」(狩野監督)
その言葉を裏付けるように、試合が終わった後には、林愛花キャプテンを中心に、経験のあるメンバー数名から「選手だけのミーティングをさせてほしい」と提案があったという。狩野監督が場所を設定し、夕食後にスタッフも見守る中でミーティングは行われたようだ。
「(優勝という目標に対して)自分たちにもっと必要なことが何か、腹を割って議論したと聞いています。思いをぶつけ合って、再確認をして、次に向かうサイクルを作る。歳の差もある(選手もいる)けれど、腹を割って話すことができたことはいいことだと思います。決意や覚悟も含めて私も感じるところがありましたし、選手たちの本気度を感じました」(狩野監督)
選手同士のミーティングはこれまでにもあったそうだが、「腹を割った選手同士の話し合い」は、これまで狩野監督が見てきた世代ではなかったという。その成果が準決勝と決勝のピッチで示されることに期待したい。13日の準決勝・オーストラリア戦では、これまで前線でチームを牽引してきた松窪真心が所属クラブ(ノースカロライナ・カレッジ)の事情で途中離脱することになり、その点でもチームの底力が試される。
オーストラリアは、グループステージで韓国(2-1)、ウズベキスタン(2-0)、チャイニーズタイペイ(3-0)を下して勝ち上がってきた。
A代表は直近のワールドカップと五輪でベスト4に入った強豪で、昨夏のワールドカップでは総観客動員数や国内のテレビ視聴者数を記録するなど、マチルダス(オーストラリア女子代表の愛称)旋風を巻き起こした。A代表はほとんどの選手が欧米の強豪リーグでプレーしているが、育成年代の選手たちは大半が国内組で、国際大会での実績は少ない。
ただし、フィジカル面ではA代表同様、長身プレーヤーが各ポジションに揃っているため、今大会でリーチ差に苦戦している日本にとってはやりづらい相手となりそうだ。
156cmと小柄ながら、スピードとアジリティに長けた辻澤は、その差を武器に変えて戦うつもりだ。
「オーストラリアの選手は大きい選手ばかりで、小さい選手には対応が鈍くなると思うので、その小ささを逆に生かしたいと思っています」
北朝鮮戦の敗戦を意味のあるものにするためにも、この試合が持つ意味は非常に大きい。
U-20オーストラリア女子代表戦は、日本時間3月13日の20時キックオフ。DAZNでライブ配信される。