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SMの女王様から親孝行の娘まで豹変する女優、菜葉菜と共に。他がひるむ汚れ役もためらわないのが彼女

水上賢治映画ライター
「ワタシの中の彼女」より (C)2022 T-artist

 SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。

 「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて驚かせてくれる。

 いまそのような活躍を見せてくれているのが女優の菜 葉 菜だ。

 バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。

 そんな彼女のこれまでのキャリアをひとつ振り返る特集上映「女優 菜 葉 菜 特集」が横浜のシネマノヴェチェントにて開催に。

 彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映した本特集は、連日盛況の中で10月1日(日)に終了した。

 特集上映は終了したが菜 葉 菜本人が作品とともにここまでのキャリアを振り返るインタビューは現在も連載継続中。

 そのアナザーサイド編として始めた「ワタシの中の彼女」(※10/22日(日)に中村監督トーク付き無料上映あり)で菜 葉 菜とタッグを組んだ中村真夕監督が「女優・菜 葉 菜」の魅力について語るインタビューの最終回をお届けする。全三回。

中村真夕監督  提供:中村真夕
中村真夕監督  提供:中村真夕

菜 葉 菜さんは、どんな役もためらいなく飛び込む

 前回(第二回はこちら)「ワタシの中の彼女」で菜 葉 菜とタッグを組み、彼女を同じ志をもつ表現者として敬意を表した中村監督。

 敬意を表するのは、次のようなことも含むという。

「菜 葉 菜さんは、どんな役もためらいなく飛び込むところがある。

 まあ、役者さんてだいたい『いろいろな役をやりたい』とおっしゃる。

 実際、ひとつのイメージに固まりたくない、幅広い役をやりたいというのが、ほとんどの役者さんの本音だと思うんです。

 これまでのイメージを裏切るような役に、いままでにないキャラクターに、挑戦してみたい気持ちがある。

 ただ、そうであっても限度みたいものはあって、『ここまでの汚れ役はイメージを崩すからちょっと遠慮したい』とか、『ここまで過激な役はちょっと遠慮を……』とか、実際のところあると思います。事務所の意向でNGという場合もあると思います。

 でも、菜 葉 菜さんは、そういう役もためらいなく飛び込んでいける気概がある。

 たとえば、今回の特集で上映された『鋼-はがねー』はいい例で。

 ずた袋をずっとかぶったままで、菜 葉 菜さんの生の顔は一切出てこない。脚しか出てこない。

 当時、彼女はまだ駆け出しのころですから、それこそ顔を売らないといけない。

 映画ファンはもちろん映画関係者に顔を知ってもらうことが重要で、スクリーンにできるだけ登場したいのが本音だし、普通はそう思う。

 顔を知られないとなかなか次へとつながらない。顔を知っていただいて、はじめてその後につながっていくところがある。

 だから、あまり損得で話したくはないですけど、役者としては自分の顔が映らない役はうまみがないと思うんです。

 顔が出ないのに出演する意味があるのか、と考えても不思議ではない。変な話、脚だけなら役者じゃなくてもいいかもしれない。

 でも、菜 葉 菜さんはそういう損得勘定がまったくなくて、『脚には自信があるから、これは絶対にやりたい』と思った。

 こう思える役者さんてどれぐらいいるのかなと。ほとんどいない気がする。

 彼女の出演作をみていくと、ちょっとほかの役者さんだと二の足を踏むような役にためらわず挑戦していることがわかる。

 ちょっとほかの俳優さんだとたじろぐような役や世間的にハレーションを起こしそうな役も、自分の気持ちが動いて『やりたい』と思えば果敢に飛び込んでいく。そういう度胸というか、守りに入らないところがある。

 事務所サイドもそんな彼女の気持ちを尊重している。

 これは、できそうで実はなかなかできないことではないかと思います。

 作家性の強い監督や同業の役者さんから愛される俳優っているじゃないですか。

 わたしは、菜 葉 菜さんもそのひとりだと思うんです。

 その愛される理由は、そういう彼女の真の意味での挑戦を厭わないところにあるのではないかなと思っています」

「ワタシの中の彼女」より (C)2022 T-artist
「ワタシの中の彼女」より (C)2022 T-artist

菜 葉 菜という女優は一夜にして出てきたわけではない

 また、菜 葉 菜のようなキャリアの在り方もあっていいのではないかという。

「菜 葉 菜さんは、何かの作品で若くして一気にブレイクした役者さんではない。

 一作品ごとに役者として成長して、年齢非公表なので何歳とはいえないんですけど(苦笑)、ある程度のキャリアを積んでいって、映画界に欠かせない存在になっていた。

 つまり、菜 葉 菜という女優は一夜にして出てきたわけではない。若さやかわいさからある意味開放された大人の年齢に達したとき、その役者としての才能を開花させた。

 役者としては一夜にしてブレイクするに越したことはない。でも、当然のことですけど、みんながみんなそうなれるわけではない。

 その才能が花開くのは、人によって違うはず。もちろんスターの資質を生まれ持っている人もいるでしょうけど……。

 だから、若い女優さんには、菜 葉 菜さんをいいお手本にしてほしいというか。

 彼女のようなキャリアの歩み方もあることを知ってほしい。

 というのも、実のところ、菜 葉 菜さんのようにいい意味でブレイクにとらわれることなく、役者の仕事を続けるのはけっこう難しい。

 30歳の手前ぐらいで、とくに女優さんは仕事に見切りをつけてしまう。30歳前後の時点、中には25歳ぐらいで、自分の理想とする形、スターになれていなかったら辞めてしまう。

 最近、わたしは俳優のワークショップで講師を務めることが多いんですけど、それぐらい早く結果を出さないといけないといった意識がいまの若い役者にはある気がする。現実問題として食っていかないといけないですから、それは仕方ないことかもしれない。

 ただ、実は、若さやかわいさが通用しなくなり、役者としての力量や人間力が試される30代からが女優としてのほんとうの勝負のとき。そこでこそ女優としての真価が問われる。

 なので10代、20代でチャンスに恵まれなかったとしても、それより上の年代で花開くチャンスはある

 だから、わたしはよくワークショップに来た若い俳優たちにこう言います。『30歳過ぎてもまだ役者を続けたい気持ちがあったら、それは本気。その気持ちを大切にしてほしい』と。

 一歩一歩、歩みを着実に重ねて、役者の道を切り拓いていけば、若くしてスターになれなくても、役者として生き残る道はきっとある。独自のキャリアを築くことができる。

 そのことを菜 葉 菜さんのキャリアはある意味、物語っている。

 ほんとうに菜 葉 菜さんに続くような独自のキャリアを築く女優さんがどんどん現れてほしいです」

(※本編インタビュー終了)

【中村真夕監督インタビュー第一回はこちら】

【中村真夕監督インタビュー第二回はこちら】

「ワタシの中の彼女」ポスタービジュアル (C)2022 T-artist
「ワタシの中の彼女」ポスタービジュアル (C)2022 T-artist

オムニバス映画「ワタシの中の彼女」

監督・脚本 中村真夕

『4人のあいだで』 

出演:菜葉菜 占部房子 草野康太

『ワタシを見ている誰か』

出演:菜葉菜 好井まさお

『ゴーストさん』

出演:菜葉菜 浅田美代子

『だましてください、やさしいことばで』

出演:菜葉菜 上村侑

10月22日(日)14:30~原宿・東急プラザ5階「LOCUL」で無料上映

※上映後、中村真夕監督トークあり

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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