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健康寿命に関心があっても動けない人に伝えたい!自然に親しむ山歩きが生み出す9つのメリット

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
長寿の象徴である屋久島 縄文杉 *記事中の写真は筆者が撮影

 私の父母と兄は実はすでに亡くなっています。父と兄の長くつらい闘病生活や看護、母の認知症など現代社会において避けることができない人生の終盤戦をみてきました。

 山岳ガイドという仕事柄、健康意識が高いお客様に接する機会も多く、この記事を通じて自然の中を歩くだけでも健康に良いと知っていただければ大変うれしく思います。

 9月も下旬になるとあれだけ騒がしかった蝉の声も急にしなくなり、虫の音が聞こえるようになりました。街路の木々も落葉の準備をしだす季節の変わり目です。まだまだ残暑の日もありますが、身体を動かすには良い時期の到来です。

 運動不足を感じているビジネスパーソンや健康寿命を延ばしたい中高年の皆さんにお勧めする自然に親しむ山歩きが生み出す9つのメリットのご紹介です。

小梨の実が色づきだした上高地の9月 *記事中の写真は筆者が撮影 
小梨の実が色づきだした上高地の9月 *記事中の写真は筆者が撮影 

1:遊びと仕事はコインの裏表、どちらも大切 

 社会にでると運動やスポーツは「遊び」で、生活や家族のために「仕事」ときっちりと分けて考えがちです。休日に山歩きなんかしたら、翌日は疲れて仕事に行くどころじゃない!と考えたことはありませんか。

 実はこの二つ、二者択一ではなく「遊び」も「仕事」もどちらも大切。バランスをとる必要があります。特にパソコンなどの前での頭脳労働が多いお仕事の方は一日中デスクに座っていることが多いはずです。座っている時間は病気が静かに忍び寄っている時間でもあります。遊びは良い仕事の成果の為に欠かすことができない大切なことだと考えてみませんか。

白根三山 *記事中の写真は筆者が撮影 
白根三山 *記事中の写真は筆者が撮影 

2:歩くことは生きること、歩けるうちは大丈夫!

 心臓と全身の筋肉によるポンプ作用で血液は全身に酸素と栄養素を送り届け、老廃物や不要物を全身から回収しているわけです。運動で血流も活発となり脳も活性化します。

 大事なことを決めたり、アイデアが浮かんだり、一日の出来事を振り返ったり、整理したりできるのは有酸素運動領域での散歩のおかげだったという経験はあるのではないでしょうか。便利で効率的な現代に生きるからこそ、肉体と精神のバランスをとる運動が必要なのです。

北アルプス朝日岳 湿原を行く *記事中の写真は筆者が撮影 
北アルプス朝日岳 湿原を行く *記事中の写真は筆者が撮影 

3:山道はバリアフリーでないから丁度よい

 車いす生活や歩くことがすでに困難になった様々な障がいを抱えた方にとって大切なバリアフリーという社会基盤ですが、不自由なく歩くことができる人にとって、バリアフリー仕様は歩行能力と脳機能を衰えさせることになり易いので要注意です。

 健康寿命を延ばし生涯現役を目指すなら、自らの意思でバリアフリーではない自然の山道を歩いてみると良いでしょう。目で見て、手を使い、足裏からの感覚、脚力、動的バランスを意識しながら、転ぶことなく山道を登ったり下ったりすることで脳機能も向上していきます。足腰への適度な衝撃は筋力向上と共に骨密度を増す作用も期待できます。

4:感動できる自分がいる、それがうれしい

 自然の中に入っていけば、私たち人間が作り出したり演出したものでない季節の変わり目や草木の芽吹きや花、そして紅葉、様々な雲の表情や陽の光などに心を奪われることでしょう。

 美しい!きれい!と感じて、それを声に出すと本当にそのように感じてくるのも不思議なものです。今度出かけた時、恥ずかしがらずに非日常の自分を試してみてください。ストレス解消にもなります。

立山室堂の初秋 *記事中の写真は筆者が撮影 
立山室堂の初秋 *記事中の写真は筆者が撮影 

5:新しいことに挑戦するワクワク感がたまらない

 初めてやったこと、最初はうまくできなかったことがドンドンできる様になる。そんな素晴らしい体験はもう過去のものと思わないでください。

 苦手だった運動が上手にできるようになることは脳にある脳細胞とそれらを繋ぐ伝達経路を元気に成長させます。

 お金は使えば減りますが、脳機能は使わないと減ってしまうのです。好奇心を感じたら、先ず行動に移してみませんか。

群馬県妙義山 *記事中の写真は筆者が撮影 
群馬県妙義山 *記事中の写真は筆者が撮影 

6:コミュニケーションのドキドキ感が癖になる

 人は誰しも社会や家庭の事情を背負っていますが、自然の中では社会の肩書は役に立ちません。またそれを前面に出す必要はありません。入学や入社など新しい人との出会いにすっかりご無沙汰でも心配はいりません。

 自然が舞台で先生です。程よい距離感をもって新しい出会いに少しドキドキしながら挨拶を交わしてみましょう。

伯耆大山きれいな紅葉に話が止まらない *記事中の写真は筆者が撮影 
伯耆大山きれいな紅葉に話が止まらない *記事中の写真は筆者が撮影 

7:楽しいと思うことが大切だ

 何事もまじめに取り組むことが良いことであると私は教えられてきた気がします。現代ならそれに加えて”楽しく”を加えると良いかと思います。楽しいから継続できる恵まれたケースもありますが、同じ仕事でも改善したり人に喜んでもらえたりすることで前向きになれます。

 しかし楽しいと思って行動すると段々と本当に楽しくなってくるから、人って不思議なものです。

山でつくる御飯はすべてが美味しい *記事中の写真は筆者が撮影  
山でつくる御飯はすべてが美味しい *記事中の写真は筆者が撮影  

8:御飯が美味しいという幸せ

 運動で筋肉を使うと身体は筋肉を再生増強していこうとします。当然、栄養が必要となりますから御飯も美味しくいただくことができます。空腹になればすべてがご馳走になりますけれど、たんぱく質豊富な肉類とビタミンと繊維質豊富な野菜類を組み合わせた栄養バランスを考えるとなお良いですね。

北アルプス涸沢 *記事中の写真は筆者が撮影 
北アルプス涸沢 *記事中の写真は筆者が撮影 

9:ぐっすり寝られるという幸せ

 疲労には精神的なものと肉体的なものがあります。運動によって精神的な疲労やストレスが軽減され、心地よい肉体疲労は質の良い睡眠に導いてくれます。素晴らしい感動の景色を歩いた日の夜、質の良い睡眠がもたらす翌朝の清々しさにびっくりすることでしょう。

陽は沈み、また昇る。*記事中の写真は筆者が撮影
陽は沈み、また昇る。*記事中の写真は筆者が撮影

 山登りは何もアルプス登山や富士登山といったジャンルだけではありません。頂上を目指さず、陽の光と風を受ける高原の山散歩というジャンルもあります。

 老若男女問わず楽しめる生涯スポーツ、それが山登りです。

 日本列島という豊かで四季のある多様な自然環境の国土に住んでいるのですから、50歳60歳の現役世代から野山を歩く習慣を身に付け、70歳80歳になっても自分の足で歩いていきましょう。

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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