濃厚なつくね芋の風味と旨味「たねや」さんからは色鮮やかで優雅な早春の上生菓子が三つの意匠で新登場
お正月の雰囲気も影を潜めはじめ、七草がゆのセットがスーパーに並び始めるといよいよ本格的に年始のあわただしさが到来するのだなと身が引き締まる思いになります。おせち料理で疲れた胃をいたわる、というよりも、気合を入れるといったほうが私にとっては適切かなと。
同時に、和菓子の世界では春の到来を待ちわびるような意匠が登場しはじめ、若々しい桃色や萌黄色がショーケースに並び始めます。
今回はその春の意匠三つからなる作品、滋賀県を拠点に全国にその名を馳せる「たねや」さんより、「早春譜」をご紹介。
「春一輪」は椿。椿は春という文字が使用されていますが、春真っ最中に咲くというよりも、真っ白な雪景色の中に、無言ではあるものの声高らかにその鮮やかさを謳歌するような、可憐かつ強かな花だと思います。それゆえに、古来より日本人は惹きつけられてきたのではないでしょうか。くっきりとした輪郭と立体的な形を保ちつつも、一度口にいれるとさらさらと溶けていく感覚に思わず眉が上がります。つくね芋が効いた練り切り餡はいくらでも食べられそうな軽やかさです。
お皿へと移す際に手も指先も震えてしまったほど、淡く儚い佇まいの「雪割桜」。山野草の一種なのですが、あまりにも春が恋しすぎて、小さな体で下から雪を割って顔を出してしまうほど。そこまで恋い慕われる春って、偉大な存在ですね。
つくね芋のまろやかさ、粘り気、旨味のすべてが濃厚な薯蕷きんとんは、ねっとりとした舌触りが魅力。丹念に手を施されているからこそ、素朴ではなく楚々とした佇まいの優雅なきんとんに。中のこし餡も主張しすぎず、あくまで主役は薯蕷きんとんなのではないかなと。
女の子の名前としても用いられる「初音」はうぐいす餅。初音は、その年一番最初の鶯などの囀りの意。耳を澄ませて待っている間に、冬が終わってしまいそうな予感。ふんわり、ぽってりとした伸びの良い餅皮には、なんと粒餡がたっぷり!一般的なうぐいす餅にはこし餡を包むことが多いのですが、たねやさんはしゃきっとした皮の音を耳で感じられるタイプ。
完全に潰しきっていない、かといって半殺しほど粗くはないお餅というのも新しい!味わいではなく、糯米や小豆の粒感や食感で素朴さの一面を表現しているというのも、なるほどと思わず頷きながら食べていました。青大豆のえぐみはほとんど感じられず、優しい豆の青さに目を細めてしまうことでしょう。
うららかな日差しを浴びることができる春へのはやる気持ちを一旦落ち着かせ、暖房が効いた温かな部屋で雪景色を眺めながら甘露に酔いしれるのも悪くありませんね。
<たねや近江八幡日牟禮ヴィレッジ(本店)>
公式サイト(外部リンク)
滋賀県近江八幡市宮内町日牟禮ヴィレッジ
0748-33-4444
9時30分~17時
年中無休