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実は身近にたくさんいる珍虫「ヒモミノガ」。木々を縛り上げるような紐状の蓑#みのむし

天野和利時事通信社・昆虫記者
樹皮からたくさんぶら下がる紐状の奇妙な物体の正体は?

 虫を探して木々の樹皮を見て回ると、時々紐状の物体がたくさんぶら下がっている光景に出会う。それは、ヒモミノガの幼虫が作った蓑(みの)だ。

 イベント会場の天井に万国旗をつるすロープのようでもあり、小人国に流れ着いたガリバーを小人たちが縛り上げた縄のようでもあり、客船が港を離れる際の別れのテープ(美化しすぎ)のようでもある。

 ヒモミノガはミノガの仲間とされているので、その幼虫はミノムシの仲間だ。なので、ヒモミノガの幼虫は、ヒモミノムシと呼んでもいいだろう。

 ヒモミノガを珍しい虫と思っている人もいるので、見出しで「珍虫」と書いたが、実は東京近郊の野山でも、ヒモミノムシは探せばいくらでも見つかる。

蓑から顔を出したヒモミノガの幼虫、ヒモミノムシと呼んでもいいかも。
蓑から顔を出したヒモミノガの幼虫、ヒモミノムシと呼んでもいいかも。

放射状に広がっていたヒモミノガの蓑。幼虫は蓑の一方を固定し、もう一方から頭を出して食事をするという。
放射状に広がっていたヒモミノガの蓑。幼虫は蓑の一方を固定し、もう一方から頭を出して食事をするという。

 ヒモミノムシはクヌギやサクラの木に多い気がするが、シデの木でもよく見かけるし、スギの木にたくさん付いていたこともある。

 ヒモミノガの分類に関しては、まだあまり研究が進んでいないようで、「ヒモミノガ」という名前自体、学術的に確定したものではなく、一般的な名、俗称のようだ。ヒモミノガの分類に入る種が何種ぐらいいるのかも分かっていない。そうした点からは、ヒモミノガを珍虫と呼んで差し支えないのかもしれない。

 一応ミノガの仲間とされているが、メスの成虫に翅がないオオミノガ、チャミノガなどとは違って、ヒモミノガの成虫はオス、メスともに立派な翅があって飛べる。

ヒモミノガの成虫。オス、メスともに立派な翅がある。
ヒモミノガの成虫。オス、メスともに立派な翅がある。

トップ写真の全体図。まさに小人国で小人たちがガリバーを縛り上げた縄のように見える。
トップ写真の全体図。まさに小人国で小人たちがガリバーを縛り上げた縄のように見える。

サルノコシカケなどキノコに付いているのは、一般にキノコヒモミノガと呼ばれるミノガの蓑。
サルノコシカケなどキノコに付いているのは、一般にキノコヒモミノガと呼ばれるミノガの蓑。

樹皮上を移動中のキノコヒモミノガの幼虫。
樹皮上を移動中のキノコヒモミノガの幼虫。

 ただヒモミノガの成虫はゴミのように小さいので、野外で見つけるのは難しく、たとえ見つけたとしても本当にヒモミノガかどうか特定するのも難しい。

 なので、ヒモミノガの成虫を見るための確実な手段は、幼虫のヒモミノムシを飼って羽化させることだ。しかし、ゴミのように小さい地味な蛾の成虫を見るために、そんな面倒な作業に取り組もうと思う者は、学者、研究者と、昆虫記者以外にはほとんどいないかもしれない。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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