「同一労働・同一賃金」推進?~派遣法のどさくさ紛れに解雇自由化へ(定額¥クビ切り放題法)~
派遣法改悪の国会審議が紛糾していると、様々な報道がなされています。
でも、なぜこのように国会審議が荒れているのか、肝心の法案内容についての説明が、テレビでは少なかった様で残念でした。
もみ合い、怒号…派遣法改正案めぐり混乱 日本テレビ系(NNN) 6月12日(金)21時40分配信
既に、今回の派遣法改悪の問題点については、Yahoo!個人ニュースでも嫌と言うほど記事が出ているので、そちらをご覧下さい。
与党が派遣法案の成立を急ぐ理由はこれだ!~違法派遣の合法化~(佐々木亮)
【派遣法改悪】専門26業務で「雇い止め」続出が見えているのに成立を急ぐ必要はない
派遣労働者を襲うパワハラ・セクハラ、厚労省相談は正社員・パートの3倍、派遣法改悪で人が壊れてゆく職場(井上伸)
派遣労働者の声を聴け!~当事者の声を無視した派遣法改悪の採決は許されません~(嶋崎量)
ちなみに、今回の紛糾した国会運営に対して、与党が野党に対して陳謝しています。
誤ったのは、野党ではなく、強引な審議を進めた与党です。
ここ、以外と知られていませんが大事ですね。
さて、ようやく本題。
派遣法改正について、維新の党により、「同一労働・同一賃金」を推進する法案の修正案がだされるとの報道がでています。
この報道をみると、あたかも維新の党の力で、同一労働・同一賃金の実現が近づく法案が出るかのように思えますが、間違いです。
もう一回、はっきりと書きますが、間違いです。
この記事にも、維新内には「修正で骨抜きになる」との懸念もあった と書いてありますが、正に骨抜きになりました。
もともと、民主、維新、生活の野党3党で出ていた「同一労働同一賃金推進法案」は、その名に恥じない程度の中身を伴ったものと言えましたが、今回の修正で完全に骨抜きになりました。
この修正により、同一労働同一賃金原則の実現など到底期待できません。
骨抜きポイント1
時期を1年以内 → 3年以内
まずは、軽いところから。
もともと、改正案の施行後1年以内に、正規労働者との均等実現の措置を講じるとなっていましたが、3年先に先送り。
派遣労働者の待遇改善は、待ったなしの課題なのに、何故3年も待たされるのでしょう。全く意味不明です。
骨抜きポイント2
「法制上の措置」(法律)ではなくて良い
修正によって、原案では「法制上の措置」を講じるとされていたのに、「法制上の措置を含む必要な措置」で良いことになりました。
要するに、「法制上の措置」は講じなくても、法律ではなく他の「必要な措置」を講じれば良いとされました。
この修正は、法律を作ることを、禁じてはいません。
でも、作らないですよ(自信あり)。わざわざ法律で無くても良いと修正したのだから(そうでなければ、修正の意味が無いです)。
法制上の措置が講じられない様な生ぬるいやり方で実現できるほど、同一価値労働同一賃金の問題は、軽いテーマでは無いです。
お役所の得意技、(現場の労働者は見ずに)「やれることだけはやったフリ」する行政通達でも出しておいて、後は知らんぷりでしょう。
ちなみに、今も派遣労働者に関してメリットのある行政通達は幾つかありますが、それに従わない企業に対して裁判所で争えず、実効性がないことが問題になっています。
骨抜きポイント3
【修正前】職務に応じた待遇の均等の実現(厳格)
→
【修正後】その業務の内容及び当該業務の責任の程度その他の事情に応じた均等な待遇および均衡のとれた待遇の実現(緩やか)
ここが、一番の大きな骨抜きポイントです。
もともと、「均等」(厳格な言葉)だけだった表現に、「均衡」(緩い言葉)でも良いものへと変更しました。
難しい法律用語ですが、この「均等」→「均衡」の言葉は、法解釈上は極めて重大な意味を持ちます。
さらに、「均等」が求められる場合を、「その業務の内容及び当該業務の責任の程度その他の事情に応じた」という長い枕言葉を付けています。
この長い枕言葉を付けることで、完全に骨抜きが完成します。派遣と正社員では「業務の内容」(例:労働時間や休日)が違うから、「責任の程度」(例:部署での地位)が違うからという理由で、違いを正当化されてしまうのです。
これだけ骨抜きにしてしまえば、派遣社員が正社員と同じ仕事をしていても、何か理由を付けて、賃金の差異を正当化できてしまいます。
これで、骨抜きの完成です。
なお、この修正によって、比較対象者として「正規労働者」(期間の定めがない直接雇用の労働者)を定義していましたが、そこも「通常の労働者」へと変えられました。ここも実は大切です。
害悪もある!
ここまで書いてきても、
さほど実益が無くても、有害では無いなら、労働者にとっても一歩前進だ
と思った方。
間違いです。
維新が成立させようとしている「同一労働・同一賃金」案と同時に成立させようと、解雇規制の緩和(解雇の金銭解決制度)の実現を目論む、政府の悪巧みが反映した派遣法改正案に対する修正案が既に国会に出されています。
派遣法改正案に対する新たな修正として、附則でしれっとこういった修正が盛り込まれ既に提出され、成立されようとしているのです。
長々と分かりづらく書いてありますが、要するに、労働者の解雇に関する法制度について、抜本的な見直しを図るということ。
今、実際に政府で検討されている、労働者の解雇に関する法制度(抜本的な見直し)とは、解雇の金銭解決制度(定額¥クビ切り放題法)です。
現在の制度では、不当に解雇された労働者が裁判所で「解雇無効!」と勝訴判決を取れば職場に戻る余地がありますが、会社がお金さえ払えば、クビにできる制度です。
会社に対して何かしら「物言う労働者」は、気にくわなくても金を払って切られてしまうことになります。
そんな労働者に大きな不利益のある制度の実現を、どさくさに紛れて導入の足がかりを作ってしまおうとしているのです。
この制度は、「日本再興戦略」改訂2014(平成26年6月24日閣議決定)で、既に、日本の労働紛争解決手段として活用されている事例の分析・整理や、諸外国の関係制度・運用に関する調査研究が開始されていて、既に調査報告もまとめられています。
「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」に関する調査結果の公表について(厚労省)
国会で何も審議されていない、解雇の金銭解決制度をこっそり導入する足がかりを作る。
これは、国会での審議無視、労働政策審議会の役割を無視した、余りに酷い手法です。
本来、労働法については、ILO第144号条約及び第152号勧告で、政府委員・使用者委員だけでなく労働者委員も含む三者構成による協議(労働政策審議会)を経て行うことが求められています。
ですが、この間の労働者派遣法改悪では、労働者委員の影響が入る労働政策審議会を形骸化させようと、まず先に産業競争力会議や規制改革会議で審議を進め、その結論を労働政策審議会に押しつける悪辣な手法がとられてきました(詳細は、日弁連の「公労使三者構成の原則に則った労働政策の審議を求める会長声明」をご覧下さい)。
今回の、派遣法のどさくさに紛れた、解雇の金銭解決制度(定額¥クビ切り放題法)導入に向けた足がかりは、これまで以上に、労働政策審議会の審議を形骸化させようとするもの。
その結果、労働政策審議会での審議を、結論先にありきで終わらせて(「国会で導入を決めてますよ!」)、労働法改悪を実現しようとするモノです。
今回の派遣法修正案が、派遣労働者にとどまらない大きな問題を含む、大きな害のある制度だとご理解いただけたでしょうか。
派遣法と合わせて、解雇の金銭解決制度(定額¥クビ切り放題法)にも、みんなで反対していきましょう!
(2015/06/16 8:26)
1「同一労働・同一賃金」法案への修正案(提出予定)と、解雇の金銭解決制度(定額¥クビ切り放題法)に触れた派遣法改正案への修正(提出済)との関係が曖昧でしたので、整理して訂正致します。
2「同一労働・同一賃金」法案への修正予定箇所について、骨抜きポイント3の箇所に追記しました。「均等及び均衡」という修正内容と齟齬が生じたため、その点を追記しました。