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派遣労働者の声を聴け!~当事者の声を無視した派遣法改悪の採決は許されません~

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
5月26日に開催された厚生労働省での派遣労働者の会見の様子

派遣法改悪の問題

派遣法改悪の国会審理が山場を迎えていて、衆議院厚生労働委員会での採決が近いとの報道もでています。

ですが、国会の場に、当事者である派遣労働者の生の声が、全く伝わっていません。

簡単にまとめると、今回の派遣法改悪は、2つの大問題に集約できます。

1つが、一生派遣の問題

これまで派遣は、一応臨時的・一時的なものとされてきました。ですが、今回の改悪はこれを事実上取っ払い、一生派遣を合法化してしまいます。

2つめが、「3年でクビ切り」の問題

これは、あまりこれまで注目されてきませんでしたが、派遣労働者の職を奪うことにつながる、重大問題です。

これまで(多くの方は正社員の道がなく生活のためやむを得ず)専門26業務で派遣を続けてきたのに、3年で雇用を失わせることになってしまうという問題です。

派遣労働者はどう感じているのか?

今回の改悪の2つの問題について、肝心の当事者である派遣労働者の声が、ほとんど国会には反映されずに、審議が進められています。

この間、私も参加した日本労働弁護団の緊急派遣ホットライン結果や、非正規労働者の権利実現全国会議で実施中のアンケート には、様々な派遣労働者の声がよせられています。

いくつか、派遣労働者の声を紹介したいと思います。

【男性・父親の介護中・一般派遣・倉庫事務】

父親の介護の必要性があることを伝えると、どこも正社員では雇ってくれない。

父(73歳)の介護の必要があるが、そのことをいうと正社員の仕事は採用を断られてしまう。

今、勤務している倉庫業務の仕事は、契約内容がわからない。労働条件を明示してもらえない。

「今日休んでくれ」と突然言われる。手取り月額14〜15万円で賃金が低い。

*6月2日・日本労働弁護団ホットラインより

【女性・シングルマザー・特定26業務】

昨年夏から少しでも長く働ければと思い、派遣で出版関係の仕事で働きはじめた。

本当は正社員が良かったが仕事は見つからなかった。

3年後正社員にしてもらえるというのは、現場で働いている感覚からすると、考え難い。

正社員の採用は、面接してもらえても相手にされなかった。3年で派遣を打ち切られたらどうやって生活していったらいいのか。

*6月2日・日本労働弁護団ホットラインより

【40代・男性・現在の職場で2年半派遣継続】

派遣労働は、職業選択の自由ではない、それしか選択肢が無いから、選択せざるを得ないだけ。派遣法改正は、労働基準法と職

業安定法を骨抜きにしている、労働者にとっては、全く良い所が無い。

*非正規全国会議のアンケートに寄せられた声より

よく、「好きで派遣をやっている労働者もいる」という意見がありますが、そう評される労働者の典型的な声です。

(できれば首切りを心配せず安定していて、賞与も昇給もある正社員が良いけど、みつからないので)派遣を選んでいるという方。これが、「好きで派遣をやっている」方の実体です。

派遣を含め非正規労働に対する導入規制がほぼ皆無の日本では、企業が正社員採用を狭めています。

ですから、介護・育児など家庭責任を負っている方が、正社員としての労働市場から排除され、不本意ながら派遣を続けています。

こういった方の多くは、これまでの経験から、最初から正社員での仕事探しの道を諦めざるを得ず、好きで派遣を選んでいるかのように評されることも多いのです。

【女性・6ヶ月更新・一般派遣・学校事務】

9年前から派遣で現職場に勤務している。

今年9月に出産予定。

平成28年2月には育休から復帰したいという要望を派遣元に相談したところ、同じ派遣先には戻せないと言われた。

*6月2日・日本労働弁護団ホットラインより

この方は、現行法の派遣期間を超えています(派遣期間制限の違反)ので、現状であれば、平成27年10月1日には雇用申し込みみなし規定の適用対象となる(派遣先の直接雇用が実現)するはずの方です。

ですが、改悪されてしまうと、派遣期間制限が違法ではなくなるため、引き続き派遣労働が可能となってしまい、派遣期間満了時に派遣打ち切りとされてしまう可能性が高いです。

育児介護休業法上は、育休取得による不利益取扱いは禁止されているのですが、派遣労働者は立場が弱く、なかなか権利主張できません。

なお、この平成27年10月1日には雇用申し込みみなし規定の適用対象となる(派遣先の直接雇用が実現)のを阻止しようとするのが、派遣業界と、その意向をうけた与党のホンネです。

いわゆる、10.1ペーパー問題として、取り上げられました。正に、業界の利権そのものです。

詳細は、渡辺輝人弁護士のYahoo!個人ニュースの記事「違法な派遣企業を救済するための派遣法改正法案だった」をご覧下さい。

厚生労働省自らも、今回の改悪を通さないと「訴訟が乱発するおそれ」(派遣先への雇用を求める派遣労働者の訴えのことですね。これを阻止したいという事です)「派遣事業者に大打撃」(直接雇用されてしまえば、中間搾取で派遣会社は儲けられません)など、派遣法を変えたいと考えるホンネが記載されています。

【30代・女性・Webデザイナー・現在の職場で5年派遣継続】

今の職場が気に入っている。働く仲間にも恵まれていて、業務もやりがいがある。雇用形態は関係なく、ここで働いていたい。

でも、法改正されれば、去らなくてはならないかもしれない。直接雇用される保証もない。企業側には、業務はないのだから。

次に移ればいい?簡単に言うな。直ぐ見つかる保証だってない。年齢的にも難しいだろう。運よく見つかっても、今ほど良い

環境かどうかわからない。見つからない間、収入はない。これが3年毎に必ずやってくるなんて地獄だ。何の為に働いている

のか、分からなくなる。

どうか、私から、好きな仕事と、働く仲間を取り上げないでほしい。

*非正規全国会議のアンケートに寄せられた声より

【50代・女性・事務用機器操作・現在の職場で15年派遣継続】

専門擬制で、専門業務でもないのに受け入れ期間の制限のない事務用機器操作で同じ派遣先で15年働いています。しかし、つ

い最近、派遣先の社長から「あなたはもういい年だから、3年後の年齢なって、次の仕事をここでしてもらうわけにはいかな

い。よほど優秀なら別だが、あなたは自分が思っているほど優秀ではないので、3年後には辞めてもらう」と言われました。「優

秀でない」のなら、なぜ15年も使用継続しているのか。3年後には18年勤務したことになります。そのとき、退職金を一銭も払

わずお払い箱になります。派遣元も次の派遣先を紹介するのは年齢的に難しいと言っています。使い捨てとはこのことで

しょう!私の15年は一体なんだったのか!自分の人格、人生を踏みにじられたような気がします。派遣という働き方が呪わしいです。

*非正規全国会議のアンケートに寄せられた声より

【50代男性・専門26業務ビルメンテナンス】

かつて正社員だったがリストラになり派遣労働をして5〜6年になる。

派遣法が改正されるとどうなるのか?

3年で派遣契約を打ち切られるなどまったく知られていない。非常に困る。大きなビルで、6人ぐらいでメンテナンスをしている。3年たっても5年たってもまだまだ分からないことがある。キャリアアップのために職場を変えるなんてとんでもない発想だ。大迷惑だ。法改正は絶対止めてほしい。

処遇が低いから、ビルメンテナンスのほかに、空いた時間に日雇い派遣を入れている。日雇いの仕事が減って困っている。

*6月2日・日本労働弁護団ホットラインより

これらの声は、いずれも3年後に職場を奪われるかも知れないという、切実な声です。

「別の仕事を探せばいい」とか、「直接雇用してもらえる可能性がある」などという意見を述べる方もいますね。

ふ~ん、そうですか。

ぜひとも、

派遣労働者にその言葉、直接伝えて下さい!!

納得してもらえるとは、到底思えません。

というより、まともな神経していたら、そんなことは、ご本人達を前には話はできません

派遣法改悪は、社会全体に害悪をまき散らす

派遣法改悪による格差貧困の固定化、不安定雇用の拡大は、少子化・女性の活躍阻害・中高年層の雇用悪化、生活保護の拡大など日本社会の将来から、希望を奪うものです。

当事者である派遣労働者の声を聴いていただいきましょう。

【40代・女性・現在の職場で6ヶ月派遣継続】

パソナの会長・竹中平蔵氏が労働者の7割以上が派遣を望んでいると、愚かな事を言っている。この改正案だとワーキングプ

アーが増える事、女性が子供を持てないこと、優秀な人材は日本に見切りをつけるでしょう。

女性は多様な働き方をしたいのであって、三年毎に新入派遣社員になりたいのではない。これから社会に出る人達も派遣社

員に一度踏み込むと、キャリアを積むことも出来ない。労働者人口が減る中で、三年毎に就業先があるかどうかの不安を抱え

て働かされるのはおかしい。そして三年毎に時給が下がる。これは奴隷化です。

*非正規全国会議のアンケートに寄せられた声より

「正社員=長時間労働」の図式が崩れないため、育児介護などの負担を正社員での負担を背負った労働者が、正社員の労働市場から排除されているのです。

この流れを更に加速させようとするのが、長時間労働の歯止めである残業代をゼロにする、「定額使い放題法」(残業代ゼロ法)です。

両者合わせて考えると、安倍政権の労働政策の問題点がより一層明確になります。

【20代・女性・現在の職場で6ヶ月派遣継続】

こんなんじゃ、自分を養うので精一杯で結婚なんてできないですし、子供なんて考えられません。

将来も心配です。私は、若い人を虐げる以上もう、少子化は避けられないでしょう。もっと、若い人を支えてあげてください。

*非正規全国会議のアンケートに寄せられた声より

【40代・女性・過去に8年、3年と派遣就労】

好き好んで派遣を続けている人はほとんどいません。安定雇用形態の崩壊は国力の低下に直結します。

*非正規全国会議のアンケートに寄せられた声より

一番の少子化対策は、雇用政策です。

不安定雇用・低処遇で、将来展望が描けなければ、結婚なんて考えられない、子どもなんて作れないというのは、多くの国民の声です。

こんな社会で、本当の豊かな社会や経済成長が望めるのでしょうか?

【30代・女性・経理・現在の派遣先での就労期間2年半】

賃金を安くする企業側のメリット、切り捨てできる労働者としての企業側にメリットだけで、法律を改正しないで頂きたい。

私は、派遣社員は、低賃金で一生働かなくてはいけなくなります。 主人の転勤に併せて、7年間毎に居住地を換えていおりま

す。よって正社員にはなれません。せめて、派遣から直接雇用で、期間社員または、契約社員に慣れたら、と希望をもっており

ます。 今回の改正内容になれば、一生派遣社員で低賃金でしか、選択肢が無くなります。

*非正規全国会議のアンケートに寄せられた声より

私たちみんなが出来ること(2つ)

1つは、記事でご紹介した、派遣労働者の方々への緊急アンケートへのご協力です(派遣労働者の皆さん)。

是非、ご協力ください。

【派遣労働者の皆様へ】★緊急アンケート★派遣で働く労働者の不安を国会議員にぶつけるためのアクション

2つめは、改悪案が成立してしまうかのキャスティングボードを握っている維新の党へ、私たちの声を届けることです。

下記URLのフォームから声を届けられるようです。

これは、誰もができるアクションです。

ご意見・ご質問

みんなで、国会に声を届けていきましょう!

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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