一律初任給はもう古い?「新卒エンジニア」採用合戦が激化中。
厚生労働省が出している「賃金構造基本統計調査」によると、2017年の大卒初任給の平均は20万6100円。2016年と比較すると1.3%上昇した。
同調査によると大卒者の約6割は初任給が19〜22万円の範囲内に収まっており、初任給が30万円を超えるのは全体の1%程度だという。
大卒と大学院卒で差が付けられているケースもあるが、基本的に同じ年に入社した新卒者は一律の初任給になっている事が多い。
採用競争の激化に伴い全体的にはわずかな上昇が見られるが、依然として「横一線スタート」の印象は強い。
しかしそんな中、この初任給に差を付ける動きが最近話題になりつつある。
【IT業界で相次ぐ一律初任給の廃止】
特にエンジニア系の職種で競争が激化しているのが、IT業界だ。
「一律の初任給を廃止」すると謳う企業も出てきており、優秀な学生を採用するために少しでも優位に立ちたいと考える各社の意欲が見受けられる。
以下では新卒初任給が一律適用ではなく、月額30万円以上となる可能性がある企業をいくつか事例として紹介する。
〜サイバーエージェント〜
サイバーエージェントは、エンジニア向けに一律の初任給を廃止し、能力に応じた給与体系にする事を発表した。
またデザイナーにおいても能力別給与体系となる事を明記している。
〜LINE〜
LINEは企画系職種やデザイナーでは固定年俸408万を提示する一方、エンジニアには500万円以上の報酬を提示している。
前述のサイバーエージェントとは違い、年俸が一律提示ではないのはエンジニアのみ。
同社がエンジニア採用にそれだけ注力しようとしている事が読み取れる。
〜ヤフー〜
本記事を掲載しているヤフー株式会社に於いても、実績を持つエンジニアに対して650万円以上の年俸を提示するという。
「エンジニアリングに付随する起業経験」など、やや曖昧な条件が含まれる一方で「自身が開発したアプリのDL数100万以上」など非常にハードルが高い条件も含まれている。
おそらく、ヤフーとしてもスペシャリスト認定の基準については手探りなのではないだろうか。
ネット上では「100万DL以上のアプリが開発できるなら新卒で就職するべきではない」との意見も出ている。実際、アプリの内容次第では就職ではなく事業譲渡を持ちかけ買収してもらう方が得策だろう。
参考になりそうな例として、過去にヤフーが「DECOPIC」というアプリを運営会社ごと買収した事がある。
このアプリは買収当時600万DL、買収価格が10億円程度と言われていた。創業者の松本氏はそのままヤフー子会社の社長になり、今は後述のメルカリに転職されている。
参考:ヤフーがDECOPICで知られるコミュニティファクトリーを10億円で買収
新卒者が参考にするにはハイスペックすぎる事例だが、DL数100万単位のアプリとなるとそのくらいの評価額になる事もあるのだ。
ただしアプリの100万DLと言ってもピンからキリまであり、必ずしも億単位の評価額になるというものではない。
「ラッキーパンチでDL数が伸びただけ(再現性が低い)」「DL数が多くても収益性は低い」という場合、売却しても二束三文にしかならない可能性はある。
様々なケースを考慮すると、採用時の評価対象になるだけマシという考え方もできる。(そもそも650万という金額は下限額として記載されており、上限が650万というわけではない)
〜ドワンゴ〜
ニコニコ動画などを運営するドワンゴでは、すでに数年前からスペシャリストな新卒に「横並びではない金額」の提示をしているという。
みなし残業時間なしで700万円以上の初年度年収を提示した事例もあるようだ。
採用ページにおける「スペシャリスト枠」に該当するようだ。
〜メルカリ〜
フリマアプリ大手のメルカリでも、18卒入社の新卒者から「内定者ごとに適切なオファーを学年・時期不問で提示」すると発表した。
ベンチャーでは入社前から内定先アルバイト・インターンをする事も多いが、一般的には内定先アルバイトをしたからといって初任給が上がる事は少ない。
その点、内定期間中でも昇給の可能性があるというのは非常にフェアな制度だと言える。
学生側に「入社までの期間でスキルアップしよう」というインセンティブが働くため採用する企業にとっても合理的だ。
まだまだこうした制度を導入する企業は多くはないが、合理性が認められれば他の企業にも波及していく可能性はあるだろう。
〜DeNA〜
DeNAでは、「AIスペシャリストコース」にて
年俸:¥6,000,000 ~¥10,000,000(月次支給+年2回の賞与)
が設定されている。
通常のエンジニアは
エンジニア職 年俸:¥5,000,000(月次支給 + 年2回の賞与)
となっており、AIスペシャリストの採用に注力しようとしているようだ。
参考:http://dena.com/jp/recruit/students/
同社は、ガラケー向けソーシャルゲーム全盛期にも「新卒者の年俸最大1000万採用」を実施していた過去がある。
当時はソーシャルゲームにおける競合だったグリーも追随し「最大年俸1500万採用(エンジニア以外を含む)」を打ち出したが、現在は1000万円以上の年俸があり得るかどうかは明言されていない。
ただし「学部卒:4,200,000円~ 院卒:4,500,000円~ ※実績と能力に応じて個別に対応いたします」と記載しているため一律初任給ではない。
参考:http://jobs.gree.net/jp/ja/graduate/
〜ソフトバンクテクノロジー〜
オンラインビジネス向けのソリューション事業を行う「ソフトバンクテクノロジー」でも役割に応じた初任給の適用が可能になった。
ヤフーにも言える事だが、ソフトバンクグループ一括での採用ではない点に注意していただきたい。
〜リクルート〜
リクルートにおいても、「グローバルエンジニアコース」で年600万円以上の初任給の適用者が出ている。
このコースはIndeed Tokyoに配属され開発に携わる事が想定されている。
【過去には「1000万採用」が流行った事も】
こうした動きは、以前にも無かったわけではない。
例えば東証マザーズに上場する「アクセルマーク」では、自社の選考を兼ねたビジネスプランコンテストでの優勝者に対して初任給1000万での内定を付与していた。
参考:新入社員で年俸1000万円--アクセルマーク、新卒採用でビジネスコンテスト(2007年)
ビジネスプランコンテストでの賞金とは違い、実際に入社しなければ恩恵はないが通常の初任給との差額を考えれば数百万円なので今思えば「オイシイ」制度だったと言える。
ただし残念ながら、現在は実施されていない。同社の2019卒採用の募集要項で初任給は「23万円/月(月45時間分の固定残業手当代含む)」と至って平均的な水準となっている。
今回の各社の動きが一時的な採用PRに終わるか、継続的な採用設計になっていくかはわからないが注目すべき動きではある。
【初任給はそんなに大事なのか?】
こういった話題に対して、「大事なのは初任給ではなく生涯年収だ」と考える方もいるかもしれない。
その考え方も一理あるが、今や定年まで1つの会社で働こうとは考えていない学生も多い。
本人が定年まで勤続を希望していたとしても、入社した企業が40年先まで安泰であるかなど誰にもわからないだろう。
特に本記事で取り上げたような企業におけるエンジニアは転職もしやすい職種であり、生涯年収を重視しすぎると逆に機会損失してしまうリスクも高い。
20代のうちから高い収入が期待できる企業と、生涯年収が高い企業のどちらを重視するかはキャリアプラン次第であり、前者を重視する考え方は確実に増えている。
〜資産形成にも転職・起業にも有利〜
資産形成をするにしても自己投資をするにしても、若い頃から可処分所得が多い方が何かと有利なものだ。
特に将来起業したいと考えている場合、定年間際に高給になる事はむしろ足かせになり得る。
若いうちから実力に応じた高い給与を受け取っておけば、独立時の資金にもなる。
自宅を購入するにしても、頭金を多くする事ができれば最終的なローンの利子総額も少なく済む。
生涯年収が同じであっても、総額が同じならなるべく若い内に受け取る方が有利なのだ。
(なお、自制できず浪費してしまう可能性は考慮していない)
また転職する事になったとしても、スペシャリスト枠で採用されていたとあれば転職市場では箔がつくものだ。
転職時の給与も「前職考慮」を基本とする事が多いので初任給が高ければ、転職時に不当に安く買い叩かれるリスクも減る。
転職するにせよ起業するにせよ、ファーストキャリアでの収入は多いに越した事は無い。