『ジョジョの奇妙な冒険』DIOのスタンド「世界」は時間を止める! それはどれほどすごい能力か?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
『ジョジョの奇妙な冒険』第3部のラスボス・DIOは、つくづくオソロシイ。食物連鎖で人間の上に位置する吸血鬼。体も大きく、力も強く、スピードもあり、配下もいっぱいいて、気化冷凍法というすごいワザも使えるうえに、驚異的な再生能力まで持っている。
この時点でもう反則レベルのヒトなのに、彼のスタンド「世界(ザ・ワールド)」は時間を止められる! DIOが「時よ止まれ!『世界』!!」と叫ぶと、周囲の時間が数秒間だけ止まり、まったく動かない相手を好き放題に攻撃できるのだ。もう完全に反則だよね……。
この恐るべき能力、いったいどうなっているのだろう?
エンヤ婆は「あなた様はこの世の帝王ッ! 時を支配して当然ですじゃあああああ――ッ ケケケケケケケケケッ」と言っていたが……。
◆時間は止められるのか?
そもそも時間とは何だろうか。
『広辞苑』の「時間」の項には、こうある。
「一般に出来事の継起する秩序で、過去から未来への不可逆的方向をもち、前後に無限に続き、一切がそのうちにあると考えられ、空間とともに世界の基本的枠組を形作る」(たくさんある記述の一部)。言われてみれば、確かに……。
では、科学における定義は?『物理学辞典 三訂版』(培風館)によれば「自然現象を記述する重要な独立変数の一つで、現象の経過を表すのに使われる」。要するに「物事の変化を見るときの目盛り」ということですなあ。
そのような「時間」を止めることは可能なのか。
特殊相対性理論は「高速で運動する物体では、時間の経過が遅くなる」ことを、一般相対性理論は「重力の強い場所では、時間の経過が遅くなる」ことを明らかにしている。
日常生活に密接なのは後者で、GPS衛星は重力の弱い宇宙空間を飛ぶため、時間の進み方が地上より「1秒あたり100億分の4.45秒」だけ速い。GPS衛星は、これを考慮して設計されている。
DIOも、承太郎たちのいる場所を高速で動かしたり、重力を強くしたりすれば、時間の経過を遅くすることができるかもしれない。
しかし、完全に止めるにはブラックホールの表面と同じ重力が必要であり、そこまでやっても、時間は、外の世界から見てゆっくり進むだけで、本人たちにとっては普通に進む。DIOがこれをやっているとは思えない。
◆恐るべき世界が待っている!
エンヤ婆はDIOに「『時を止めて当然』と思うことですじゃッ」と精神力の重要性を強調していたから、実際それで時間を止めていると考えよう。その場合、何が起こるのか?
前述の科学的定義によれば、時が止まれば、すべての現象が止まるはずだ。
DIOのまわりには空気があるが、時間が止まると、空気の分子も運動を停止するだろう。
DIOが動くためには、まわりの空気を押しのけなければならないが、空気が動かないのだから自分も動けない。息をするために、空気を肺に出し入れしたくても、空気が動かないから、たちまち窒息……。
また、温度には「絶対零度=マイナス273度」という下限がある。これは、原子や分子の運動が完全に止まった状態だ。すると時間が停止して、すべてが止まった世界もマイナス273度になるはずだ。
ただし、分子の運動が止まった世界では、熱の出入りもなくなるから、DIOの体温が空気に触れて熱を奪われることもない。つまり、マイナス273度なのに、寒くもないという不気味なことに……。
むしろ心配なのは、DIOの体内で熱が発生していた場合、その熱も体の外に出ていけないから、たちまち体温が上がってしまうこと。
そして、光も静止してこちらに届かないから、世界は真っ暗! 空気の振動である音も伝わらないから、完全な静寂!
要するに、時を止めた瞬間に、相手は止まるが、自分も動けなくなってしまうのだ。なんてキビシイ世界なのか……。
◆時がゆっくり進むとしたら?
しかし、マンガのなかで、DIOがフリーズしたり、窒息したりしている様子はない。
ひょっとしたら、時は完全に止まるのではなく、「止まったも同然」といえるほど、ゆっくり進む……のではないだろうか。たとえば、時間の進み方が、1万分の1になるとしたら?
その場合DIOは、自分が動いているつもりの1万倍の速度で動くことになる。人間が歩く速度は時速4kmほどだが、DIOの歩きは時速4万km=マッハ33!
このスピードがあれば、承太郎たちにも圧勝できるかもしれない。でも、空気中をそんな速度で動くと、二つの大きな問題が発生する。
まず、とてつもない空気抵抗がかかる。DIOの身長が190cmなら、4700t! これに逆らって動くと、51億kcalを消費する。人間の血液は1人当たり1700kcalだから、300万人の血を吸わねばならん。
また、空気との衝突で、莫大な熱を受ける。空気が直撃する体の前面は6万度になってしまう。は、早く自分に気化冷凍法を……!
時を止めるのも、「止めたも同然」にするのも、モーレツに大変で、いずれにしても自分がいちばん苦しそうだ。DIOは平気そうにしていたが、彼だからこそ耐えられるのだろう。DIO様は、やっぱりこの世の帝王ですじゃあああああ。