来春、多くの私鉄で一律10円値上げへ その背景の「鉄道駅バリアフリー料金制度」とは?
来春から多くの私鉄が運賃を一律10円値上げする。3日には阪急電鉄と阪神電気鉄道が、4日には小田急電鉄と西武鉄道・神戸電鉄が、5日には京阪電気鉄道が、10日には山陽電気鉄道・大阪メトロが、それぞれ発表した。背景にあるのは「鉄道駅バリアフリー料金制度」だ。この制度により、鉄道事業者はホームドアや駅のエレベーター整備などのバリアフリー化を加速化する。
では、このバリアフリー料金制度とはどんなものなのか?
利用者の薄く広い負担を求める制度に
昨年の12月28日に、国土交通省は「鉄道駅バリアフリー料金制度」を創設した。これは、鉄道駅のバリアフリー化促進に活用するための新しい料金制度で、昨年5月に閣議決定された第2次交通政策基本計画を踏まえたものだ。
新しい料金制度では、エレベーターやエスカレーター、ホームドアの整備などバリアフリー化の推進は、高齢者や障がいのある人だけでなく、すべての鉄道利用者が受益するとの観点から、都市部においては、すべての利用者にそのコストを薄く広く負担してもらうことにした。いっぽう地方部では、市町村が作成するバリアフリー基本構想に位置付けられた施設整備の補助率を、現行の最大1/3から最大1/2に拡充する。
すでに東京メトロやJR東日本がこの制度を活用してバリアフリー設備の整備に着手している。
多くの人にとって益のあるバリアフリー設備の充実
鉄道業界では、これまでも駅のバリアフリー化を進めてきた。だがそのコスト負担は、国や地方自治体の補助があったとしても、多くは鉄道事業者が運賃などの売り上げから資金を捻出してきたものだ。
東京五輪・パラリンピックに向けて、東京圏の鉄道はバリアフリー化のために多額の資金を投じてきた。それでもなお、鉄道駅は障がいのある人たちにとって使いにくい状況が続いている。
いっぽう、障がいのある人にとって使いにくい駅は一般の乗客にとっても使いにくい駅である。あらゆる人にとって使いやすい駅にするために、多くの利用者に薄く広く負担を求めることは理にかなっている。
では、この制度でどのようにバリアフリー対応が促進されるのか?
対応が遅れていた事業者への促進策に
具体的に、この8月になって「鉄道駅バリアフリー料金制度」を導入すると発表した鉄道事業者がどんな取り組みをするか見てみよう。
小田急電鉄では、2032年度を目標に新宿から本厚木までの全駅にホームドアを設置する(全70駅。7駅はすでに整備済み)。従来の予定よりも整備のペースを加速させる。これまでは1年間に3.7番線だったホームドアの設置を、7.7番線へと向上させ、ホームと車両床面の段差やすき間の縮小対策も進める。
西武鉄道では、2030年度までにホームドアを23駅62番線に新たに設置し、2030年度末での総整備数28駅84番線をめざす。
関東圏に比べ、関西圏では鉄道駅のバリアフリー化が遅れていた。そのため、8月に新しい料金制度を導入すると発表した鉄道事業者は、関西に目立つ。
阪急電鉄と阪神電気鉄道は、可動式ホーム柵やエレベーターの設置などを行う。阪急では駅の構造上の問題からバリアフリールートの確保が困難だった中津駅でもエレベーターを整備するという。
京阪電気鉄道では、ホームドアの整備だけではなく、テレビ電話機能付きインターホンを京阪線全駅に設置する。
Osaka Metroでは、2025年度末までに全駅に可動式ホーム柵を設置し、2026年度以降もホームと車両の段差・すき間の縮小、エレベーター・エスカレーターの増設などを行う。
ほかに山陽電気鉄道や神戸電鉄でもこの制度を導入して駅設備を整備する。
来春、多くの鉄道事業者が実施する運賃の一律10円値上げは、だれでも使いやすい鉄道を整備するための資金として活用されることになる。