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川崎中1殺害で懲役9~13年が確定:少年犯罪と私達の心理:ネットで「なぶり殺しだ」と公言すること

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

刑が軽すぎると感じることはわかります。しかし応報感情を振り回し、ネットで乱暴な発言をしても、社会は良くならないでしょう。

■懲役9~13年が確定=リーダー格の少年―川崎中1殺害

川崎市の多摩川河川敷で中学1年上村遼太さん=当時(13)=が殺害された事件で、殺人罪などに問われたリーダー格の少年(19)を懲役9~13年の不定期刑とした横浜地裁判決が25日、確定した。

出典:懲役9~13年が確定=リーダー格の少年―川崎中1殺害 時事通信 2月25日

ヤフーコメントを見ると、その多くが「軽すぎる」というものです。

■殺人と少年と量刑

殺人を犯すと、死刑もしくは無期、あるいは5年以上の懲役です。少年だと一段罪が軽くなりますが、18歳でも死刑判決が出ることがあります。

法律の専門家によると、成人が人を一人殺した場合は、懲役15年前後が相場だそうです。少年の不定期刑の場合、多くは最大限の年数になるそうです。そうすると、成人の相場よりも少し軽くなったわけですから、順当とも言えるでしょう。

ただ、今回の殺害方法の残虐さを考えると、求刑通りの懲役10〜15年でも良かったのではないかとも意見もあります。

<川崎中1殺害>リーダー格の19歳少年に「9年から13年の不定期刑」は軽すぎるのか?

■今回の決定は軽すぎるのか

一般の方でも、法律の専門家と同様の意見の方もいるでしょう。しかし多くの場合、「軽い」という意味合いが違うようにも思います。専門家は、懲役13年か15年かといった話をしているのですが、ヤフーユーザーコメントの中には、死刑だ、無期懲役だ、少年だからといって軽くするなといった意見が見られます。

懲役15年なら納得するわけではなく、人を殺したのだから、何歳だろうと死刑しかないというご意見もあります。ヤフーコメントを拝見すると、素朴に軽いと感じるという自然な意見、被害者の命やご遺族への思いが伝わって来る深い意見、みんなでなぶり殺しだといった乱暴な意見が見られました。

■応報感情

上記のニュースに次のようなオーサーコメントをしました。

人の心には、応報感情があります。被害者や家族でなくても、その方々への愛と共感、治安悪化への不安、犯罪の不条理さから、加害者を憎み、重罰を求めたくなるのは自然でしょう。

18歳の殺人者にも死刑判決がでます。一方、成人殺人者でも懲役5年の判決が出ることもあります。感情は大切ですが、法治国家は感情だけでは決定を下しません。

こんな話をすると、「お前の家族も同じ目にあってみろ」などと言われます。子供に子供を殺されたご両親にお会いしたことはあります。母親の悲しみ、父親の怒りが、ひしひしと伝わってきました。それでも、ご両親は判決を受け入れていました。

極刑を望み、死刑でないなら俺が殺してやると発言したご遺族もいます。ただその方も、ずっとその発言を続けたわけではありません。

量刑や少年法に関する議論は有意義でしょう。しかし、「みんなでなぶり殺しだ」といった発言が、社会を良くするとは思えません。

■少年犯罪を憎む心とネット上の発言

子どもが子どもを殺す事件は、最悪です。私も犯罪を憎みます。少年でも、その責任(年齢)に応じて制裁は必要です。ただ日本の少年たちは、他の先進国と比較して犯罪を犯していません。少年犯罪は減少し続けています。その意味では、日本の少年司法は上手く機能していると言えるでしょう。

少年法に対して否定的意見をも持つ人の中には、刑務所ではなく少年院に入ることに注目する人や、量刑が軽くなることに注目する人がいます。もう一つの大きな問題として、匿名報道があるでしょう。

成人なら、実名と顔写真が出て、世間の非難を浴びるのに、未成年だと名前も顔も住所も出ません。どこの誰という形では、世間からの非難を受けないわけです。このことに怒りを感じている人々も多いでしょう。

20歳の加害者ならそうなるのに、誕生日の1日前ならそうならないというのは、感情的に納得できないのはわかります。年齢の問題は、大いに議論が必要でしょう。

しかし、加害者が何歳だろうと大人と同じに扱うとは、私たちの社会は考えていません。どんなに頭が良くても中学1年生に選挙権を与えないように、どんなに残虐な犯罪でも中学1年生を大人同様に罰したりはしません。

被害者遺族は、加害者を憎むでしょう。極刑を望む人も、もちろんいます。しかし、ご遺族の思いは複雑です。加害者が死刑になれば納得し、少年法などなくなればすっきりするわけではありません。

ご遺族の心、私たちの感情は重視されるべきです。その大きな感情のうごめきが社会を変え、法律を変えることもあります。しかし、どんな感情を持ち、どう表現するかが問題です。

少年犯罪を憎み、少年犯罪を予防したいと思います。しかし、「俺が直接罰しなければ気が済まない」「俺の普段のストレスをこの悪魔のような少年にぶつけてやる」「少年法なんて無視してやる」と考えて発言しても、それは犯罪を予防することにはならないでしょう。普通は本名出しては公言しないそんな発言を、多くの人が匿名のネットで公言することは、社会にとって、子どもたちにとって、良いことだとは思えません。

そのような言動を少年たちに見せることは、本当は更生してもらわなければならない非行少年をかえって追い詰めます。多くの非行少年は今回の少年のように複雑な家庭環境を持っています。

また、必要があれば(必要があると個人が判断すれば)、冷静な議論を抜かしてルールやマナーや法律を破って良いと教えてしまうことにもなります(心理学でいう「観察学習」)。

命は大切だ、人生には意味がある、感情的になってルールを破ってはいけないと、子どもたちに伝えたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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