わずか一週間で2万5千便の航空便がキャンセル~新型肺炎が航空貨物輸送を混乱させる
・わずか一週間で2万5千便のキャンセル、440万席の減少
新型肺炎(コロナウィルス)による患者の急増によって、多くの航空会社が中国便の運航をキャンセルしている。デジタルフライト情報プロバイダの世界大手であるOAG Aviation Worldwide Ltdによれば、今週一週間で30社を超す航空会社が中国発着の便をキャンセルしており、二週間前と比較すると2万5千便を超す便、客席数では約440万席が減少している。
香港を拠点とするキャセイパシフィック航空は、中国本土への航空便の50%以上をキャンセルすると発表しており、アメリカ系の航空会社をはじめ英国航空、スイス航空、ルフトハンザ航空、オーストリア航空などヨーロッパの航空会社も、当分の間、定期便をキャンセルすると発表している。日本発も全日空と日本航空も、2月に入り、中国便の減便や機材の小型化を発表している。
・航空貨物輸送に大きな問題
こうした旅客便のキャンセルばかりに注目が行きがちだが、実はもう一つ大きな問題が発生する。それは航空貨物である。旅客便のほとんどはその機体下部(ベリー)に貨物を積み込んでいる。旅客便の運航がキャンセルすることは、この貨物輸送も無くなることを意味する。また、ほとんど話題に上ることはないが、貨物専用便のキャンセルも発生しているのだ。
「中国国内への輸送が危機的な状況になっている。倉庫は中国向けの荷物でいっぱいになっている。仮に中国国内まで運送できても、空港からのトラックなどの手配ができない状態だ。」シンガポールの大手貨物代理店の社員はそう話す。「すでに、貨物航空会社の中には従業員を一時解雇したり、航空機を駐機料の安い国に回送しており、この混乱は数か月続くと見込んでいる。新型肺炎が終息するまで、まだかなりかかりそうだし、仮に終息しても、すべてが元に戻るまでには相当時間を要する。」
・シンガポールエアショーにも影響
シンガポールでも、中国からの観光客が立ち寄った漢方薬店の従業員やその家政婦、ツアーガイドなどが新型肺炎に感染していることが、2月4日に発表された。これまで中国からの観光客や中国への訪問者だけの患者だったものが、人から人への第三次感染が明らかになり、深刻度が増している。
2020年2月11日(火)から2月16日(日)まで開催されるシンガポールエアショーは隔年で開催されるアジア最大の航空宇宙イベントだが、ここにも影響が出始めている。すでに、開催前夜に行われる予定だったリーダーシップ・サミットが、各航空会社の経営幹部が今回の非常事態に対応するためにという理由で中止になった。また、中国商用飛機(COMAC)などの出展者や、カナダのボンバルディア、アメリカのテキストロンやガルフストリーム、韓国のブラックイーグルなど16を超す出展者が参加を中止している。
ASEAN諸国では最大の旅客・貨物のハブ空港を抱えるシンガポールでこうした問題が起きていることは、アジア地域の経済が大きな問題に直面しつつあると言える。シンガポールは、中国、日本、韓国、ASEAN諸国、さらには欧米、中近東諸国を結ぶ貨物輸送にとってもアジア最大のハブ空港だからだ。混乱が長引けば、その影響は世界的なものとなる。
・延長された春節休暇の後は
ヨーロッパから中国への航空路でも、貨物航空会社が相次いで休止を明らかにしている。ロシアのエアブリッジ・カーゴ、イギリスのカーゴロジック・エアなど貨物航空会社が運航休止。ルフトハンザ航空は、香港便を除く中国本土への旅客便は休止し、香港や上海への貨物便は特別スケジュールで運航している。感染地域への運航は、乗務員への感染の危険性も高まるため、感染予防の観点から運航を中止する航空会社もあるようだ。
「中国政府の要請で、春節休暇が2月9日まで延長され、国際貨物を扱う代理店の各支店も休業している。」大阪に支店を持つある航空貨物代理店の社員は続けて、「現地では公共交通機関も貨物の輸送も混乱しており、仮に日本から送っても倉庫には貨物が滞留している。緊急の医療品などが優先されている。また、中国から日本への輸送に関しても、今後、どのような状態になるのか、現段階ではなんとも言えない」と話す。当初の楽観的な見方から、感染患者のASEAN諸国への拡大によって見方も変わりつつある。長期化する可能性も払しょくできなくなり、中国など海外に生産拠点を置く企業や、素材や部品を海外から調達する企業では警戒感が高まっている。
・すでに低調だった経済に追い打ち
こうした新型肺炎の影響前から、米中経済摩擦や日韓問題などから、日本発着の国際航空貨物市場は、2019年に入り、不調が続いてきた。航空貨物運送協会(JAFA)による2019年の航空輸出混載重量は約97万トン(前年比23%減)と、6年ぶりの大幅な前年割れを記録した。そのため、全日空では、3月29日から、アメリカや中国路線の貨物専用機による運航便数の削減を発表していた。今後、新型肺炎の経済への影響が拡大すれば、一層の減便などを実施する可能性も高くなっている。
今回のように旅客数が大幅に減少し、旅客便の大幅な減便に加えて、貨物便まで減便になれば、物流に大きな影響を及ぼすことになる。航空貨物の場合、生鮮品や高額な機械部品、緊急性の高い製品などが中心となっている。航空貨物は、しばしば「人に先行して動く」と言われる。航空貨物の供給量が急減すれば、復旧時期に物流のボトルネック化する可能性が高い。
2003年のSARS問題の時よりも、日本、中国、ASEAN諸国などを含む各企業のサプライチェーンはより複雑で広範囲に及んでいる。仮に新型肺炎の感染が中国全土、さらにASEAN諸国にも拡大すれば、その終息までの数か月間は大幅な航空便の減便が行われる可能性が高い。そうなれば、各企業はサプライチェーンの見直しや再構築、輸送経路の代替を求められることになる。
・各国政府が協調して対応する緊急性と必要性
多くの航空会社は、少なくとも2月いっぱいの中国便の減便や休止を発表している。中国での感染者の急増や、国際的な観光客の減少などによる商業への悪影響などに話題は行きがちであるが、より深刻な経済への影響が始まっており、それは航空貨物の輸送量の大幅減少という形で表れている。
我々の生活を支えている様々な製品は、すでに一国で製造から販売までが完結している物の方が少ない。気づかないうちに、多くの物が国境を越えて結ばれたサプライチェーンによって製造され、供給されている。各国政府が貿易問題や経済問題、政治問題を一時棚上げし、新型肺炎問題の終息へ協調体制を取る必要がある。終息までが長引けば、より大きな経済問題を引き起こす可能性が高くなる。
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