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インフルエンザの治癒証明書は不要です!

忽那賢志感染症専門医
筆者の同僚のお子さんのインフルエンザ登園許可証(筆者撮影)

インフルエンザが全国的に流行シーズンに突入しています。

先日、同僚がインフルエンザで病欠をしていたのですが、お子さんもインフルエンザに罹って大変だったようです。

その同僚が、インフルエンザが治った証明のためにお子さんと一緒に小児科を受診しないといけないと愚痴っていました。

なんでも保育園に登園許可書を提出しないと保育園に通園再開ができないそうです。

筆者の同僚のお子さんのインフルエンザ登園許可書(筆者撮影)
筆者の同僚のお子さんのインフルエンザ登園許可書(筆者撮影)

なんと!この令和の時代にまだ登園許可書だの治癒証明書だのを必要としている保育園があるとはッ!!

・・・と一瞬驚いたフリをしたものの、忽那リサーチによると、保育園だけでなく幼稚園や小学校、中学校、高校も未だにこの制度が続いている施設がまだまだ多いようです。

私はこの治癒証明書やら登校許可書を必要とする現状に警鐘を鳴らすものであります。

前回の「インフルエンザになったらしっかりと休める職場環境づくりを」で述べましたように、学校保健法でインフルエンザに罹った場合、

発症した後5日を経過し,かつ,解熱した後2日(幼児にあっては,3日)を経過するまで

出典:学校保健安全法施行規則

の間、休むことになっています。社会人もこれに準じるのが一般的です。図にすると以下のようになります。

学校保健安全法におけるインフルエンザの出席停止期間(幼児の場合は解熱後3日)
学校保健安全法におけるインフルエンザの出席停止期間(幼児の場合は解熱後3日)

これを見てお分かりの通り、

・発症日がいつなのか

・解熱した日がいつなのか

が分かれば、いつから登校すれば良いかは自ずと分かります。体温は家で測れますので、必ずしも病院を受診して医師が判断をする必要はありません。

そもそも学校保健法では医師の登園許可書や治癒証明書の発行を義務付けてはいません。

厚生労働省も、

Q.18: インフルエンザにり患した従業員が復帰する際に、職場には治癒証明書や陰性証明書を提出させる必要がありますか?

 診断や治癒の判断は、診察に当たった医師が身体症状や検査結果等を総合して医学的知見に基づいて行うものです。インフルエンザの陰性を証明することが一般的に困難であることや、患者の治療にあたる医療機関に過剰な負担をかける可能性があることから、職場が従業員に対して、治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくありません。

出典:厚生労働省 インフルエンザQ&A

とあり、社会人が業務に復帰する場合に関しては、治癒証明書の提出を求めることは望ましくないと明記されています。

一方、学校と保育園とではややスタンスに違いがあるようで、

Q.19: 児童のインフルエンザが治ったら、学校には治癒証明書を提出させる必要がありますか?

 「学校において予防すべき感染症の解説〈平成30(2018)年3月発行〉」によると、「診断は、診察に当たった医師が身体症状及び検査結果等を総合して、医学的知見に基づいて行うものであり、学校から特定の検査等の実施を全てに一律に求める必要はない。治癒の判断(治癒証明書)も同様である。」とされています。

 なお、「保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版)」によると、「(中略)罹患した子どもが登園を再開する際の取扱いについては、個々の保育所で決めるのではなく、子どもの負担や医療機関の状況も考慮して、市区町村の支援の下、地域の医療機関、地区医師会・都道府県医師会、学校等と協議して決めることが大切になります。(中略)」とされています。

出典:インフルエンザQ&A

となっています。

つまり学校では治癒証明書を一律に求める必要はない、とされる一方で保育園は地域で協議して決めることとされています。

筆者は保育園でも治癒証明書は不要と考えます。

保育園や学校、会社側が治癒証明書や登園許可書を求める理由としては、自施設内でのインフルエンザの蔓延を防ぐためです。

これは園児や児童、社員を守る姿勢としては当然正しい考え方ではあるのですが、先ほど述べた通り「発症日と解熱日」が分かればいつから復帰できるかは医師でなくても判断できます。

また「インフルエンザが良くなった」ということと「感染性がゼロになった」とは必ずしも一致しません。

発症からの日数と症状、インフルエンザウイルスの排出量との関係(Am J Epidemiol. 2008 Apr 1;167(7):775-85.より筆者作成)
発症からの日数と症状、インフルエンザウイルスの排出量との関係(Am J Epidemiol. 2008 Apr 1;167(7):775-85.より筆者作成)

この図からも分かる通り、1週間経って症状が良くなってもわずかながらにウイルスの排出が続いていることがあります。

しかし、これは医師が診察をしたからといって判断できるものではありません。

ですのでインフルエンザから良くなって登校・出勤する場合も呼吸器症状が残っている場合はしばらくはマスクを付けておくことが望ましいと考えます。手洗いの励行は、復帰した人だけでなく、インフルエンザシーズンでは全ての人に求められます。

一方で施設が治癒証明書を求めることによるデメリットもあります。

罹患した本人や保護者は、すでによくなってピンピンしているのにもう一度病院を受診しなければなりません。場合によっては待たされることもあるでしょう。

病院は具合の悪い方が多くいる場所ですので、待ち合いでまた別の感染症をもらってしまう、なんていうこともあり得るかもしれません。

証明書を書く病院側の負担も決してばかになりません。特に冬のシーズンは病院は混み合っていますから。

このような考えから、治癒証明書・登校許可書は不要とする動きはすでに自治体から出てきています。

例えば、沖縄県は2018年2月に「インフルエンザ罹患に伴う治癒証明書を求めることについて」という通知の中で、教育機関において治癒証明書を求めることを控えるよう求めています。

インフルエンザ経過報告様式(沖縄県庁HPより)
インフルエンザ経過報告様式(沖縄県庁HPより)

沖縄県の様式では、発症日と診断日、発熱の経過を記載する欄があり、これを提出すれば復帰ができるというものです。

シンプルですし、とてもわかりやすい書式だと思います。

岐阜市教育委員会も同様の通達を出しており、浜松市・静岡市も今後はそのようにする方針のようです。

このような動きが全国的に広がることを期待します。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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