なぜエムバペの移籍騒動の余波は収まらないのか?レアルのベンゼマ代役を探す動きとプレミアの資金力。
時間は、決して待ってくれない。
キリアン・エムバペの周囲が騒がしくなっている。昨年夏、パリ・サンジェルマンと契約延長を行ったエムバペだが、1年の契約延長オプションを行使しない旨をクラブに通達。2024年夏にフリーになる道を選んでいる。
■9番を探しているマドリー
エムバペの契約期間は残り一年となっている。となると、「売り時」となるのは、この夏だ。
そして、エムバペの移籍先候補として、まず挙がってくるのがレアル・マドリーである。
マドリーは今季終了時にカリム・ベンゼマの退団が決定。シーズン終盤、ベンゼマにサウジアラビアのアル・イティハドから破格のオファーが届き、電撃的に移籍が決まっている。
そこでマドリーは「9番」の選手を探している。ハリー・ケイン(トッテナム)、カイ・ハフェルツ(チェルシー)らが候補と目される中、エムバペの移籍騒動が巻き起こった。
■マドリーとエムバペの因縁
マドリーは昨年夏、2022年の夏と2年連続でエムバペの獲得に動いていた。2022年の夏においては、1億6000万ユーロ(約240億円)の第一オファーをはじめ、最終的には移籍金2億ユーロ(約300億円)を準備してエムバペを確保しようとした。それだけ、エムバペの獲得に本気だったのだ。
だが、エムバペはパリ残留を選んだ。昨季のリーグ戦の最終節、ホームのスタジアムで契約延長を発表。2025のユニフォームーーこの数字が今回の騒動の引き金になっているのは皮肉であるーーを掲げ、ナセル・アル・ケライフィ会長に感謝の意を述べた。
「エムバペは変わってしまった。代表の活動で、チームメートと一緒にプロモーションに参加したくない時があった。そこで私は違和感を抱いた。サッカーはチームスポーツだ。全員が同じ条件でなければいけない。(パリSGで)チームのリーダーとしてだけではなく、クラブのリーダーとして振る舞えるようにというオファーがあった。それは私が知っているエムバペではない。彼の夢が変わってしまったのだろう」
昨年夏、エムバペの獲得を逃した際、マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長はこのように話していた。だが、それから一年が経過し、ベンゼマの退団を含めマドリーのプランもまた変わろうとしている。
■プレミアリーグからの関心
無論、エムバペに関心を寄せるのはマドリーだけではない。プレミアリーグの複数クラブが状況を注視している。
資金力で言えば、候補になるのはマンチェスター・シティだろう。昨年夏、エムバペの動向を追っていたシティだが、最終的にはアーリング・ハーランドを獲得した。今季、チャンピオンズリーグ制覇を含め3冠を達成。すでにエムバペへの関心は薄れたとみられている。
チェルシーは先の冬の移籍市場でハキム・ツィエクのパリSG移籍が破談に終わった。直近では、マヌエル・ウガルテをめぐり獲得競争が繰り広げられていた。現在、この2クラブ間の関係は良好とは言えない。
ユナイテッドは、この夏、トップレベルのストライカーを狙っている。ケインに対する関心を強めていたが、ここにきてエムバペ獲得の可能性が浮上している。またユナイテッドは現在、クラブの売却を検討している。カタール人のシェイク・ジャシム・ビン・ハマド・アル・タニ氏が買収に近づいており、これがエムバペ獲得に向けた“ウルトラC”になるかも知れない。
■疑いの余地のない能力
移籍騒動で世間を賑わせているエムバペだが、当然、選手としてのクオリティに疑いの余地はない。
「エムバペは、まるで別の惑星から来たような選手だった」と語ったのはカタール・ワールドカップで対峙したピオトル・ジエリンスキ(ナポリ/ポーランド代表)である。
「エムバペは世界最高の一人、ではない。世界ナンバーワンだ。もちろん、彼のことは知っていたよ。でも、実際に対峙してみて、本当に素晴らしい選手だと分かった」
「ドリブル、シュート、スピード…。ミスをしたとしても、すぐにまたチャレンジする。テレビで見るのとは大違いだった。ピッチ上でのエムバペは、止められなかったんだ」
エムバペ自身は、2023―24シーズン、パリSGでプレーすると主張している。すでにその意思を示している。
だが契約延長オプションを行使しないことは来年の夏にフリーになることを意味する。その選手を、みすみす放置しておくクラブはない。エムバペの移籍騒動の余波は、当分、収まらないのではないかという気がしている。