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人間関係を振り返ることで悩みが解決できる方法とは?【内観について心療内科医がわかりやすく解説】

さまざまな悩みや問題の要因の多くは、人間関係が大きく関わっています。
でも、私たちが過去の人間関係を振り返ると、嫌なことや悲しい思い出だけを思い出してしまうことが多いです。
「あの人を許せない」など過去のことを引きずったまま生きていませんか?
私たちは人の嫌な部分をみてしまうと、それから後は、その人と会ったり、思い出したりするたびに、その人のことを「嫌な人」と決めつけてしまいがちになります。
また、嫌な部分しかみえていないと、その人に親切にしてもらったことを忘れてしまいます。
そんな時には、自分の視点ではなくて、相手の立場や視点から見るほうが、自分のことを冷静に客観的にみることができます。
つまり、周囲の人たちの立場に立って、自分の過去を振り返り、今まで自分がどういう人間であったのかということを見つめ直すということが大切です。
このように自分の人生を過去から現在まで他人の視点から振り返る作業が「内観」です。
そこで、今回は「内観」について心療内科医がわかりやすく解説します。

内観とは?

内観法は、内観療法学会のホームページによれば、以下のように説明されています。

吉本伊信が「身調べ」という精神修養法をもとに考案した、自己の内面を観察する方法です。 ・・・「身調べ」はもともと浄土真宗の一派に伝わる精神修養法でしたが、吉本伊信はその方法から宗教色を排除して、また広く誰にでもできるように簡便化を図りました。 そして、1968年には、現在のような内観三項目(「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」)が確立されました。

(内観療法学会のホームページ https://jpnaikan.jp/ より)

これだけでは、どのようなことをするのかよくわからないと思いますので、内観三項目などの内観の方法については、後ほど詳しく解説します(この記事では、「してもらったこと」は「お世話になったこと」、「して返したこと」は「お返ししたこと」に変えて記載しています)。

内観では、自分の一生を回想し、自己を分析していく作業を通して、対人関係を洞察することになります。
内観を通して、ものの見方や考え方が変化した場合には、それを実生活の中で行動して実践することやそれによって良好な人間関係が保たれることを経験することが重要です。
今までの自分の考えや行動などを深くかえりみることによって過去を見つめ直すだけでなく、今現在の自分の置かれている状況や環境に合うように自分を変えていく能力が備わってきます。

内観の種類

内観には大きく分けて集中内観と分散内観(日常内観)があります。

集中内観について

集中内観では、1週間程度の日程で朝から就寝するまで集中して内観ができる施設や医療機関で内観し、内観終了後に面接者の面接を受けます。
集中内観のやり方の詳細については後述します。

分散内観(日常内観)について

分散内観では、通常の日常生活を送りながら、毎日30~60分間程度、内観します。
分散内観のやり方の詳細についても後述します。

その他の内観について

このほか、自分の体について内観する身体内観や「嘘や盗みについて」、「病気に対する自分」、「学業に対する自分」、「仕事や家事・育児に対する自分」、「酒による失敗と迷惑」、「薬物に対する自分」、「体形と食事に対する自分」、「恋愛について」、「結婚について」、「人生について」、「死について」などの自分の考えや行動などについての内観があります。

内観のメリット(効果)

内観三項目の「お世話になったこと」を内観することで、多くの人は、人から愛されてきたことを思い出し、人に対して感謝するようになります。
また、「お返ししたこと」を内観することにより、多くの人は、お世話になった人に対してほとんど何もお返ししていないことや今まで自己中心的であったことに気づくことができます。
さらに、「迷惑をかけたこと」を内観することにより、多くの人は、自分が迷惑をかけたことがたくさんあったと反省し、罪悪感が出てきます。
このような感謝の気持ちや罪悪感が出てきた後に、対人関係や行動が変化し、職場や学校の人間関係が円滑になることが少なくありません。
つまり、内観によって過去の自分の言動を客観的にかえりみることで、その後の自分の言動を改めて、他人に対してやさしさと思いやりを持って接することができて、良好な対人関係を築くことが可能となります。

内観する前に自律訓練法(外部リンク)で心身をリラックスさせたり、内観した後に認知療法(外部リンク)を行ったりするのもいいと思います。

内観のデメリット(危険性)

まれに相手の立場に立って考えることで不快になる場合があります。その時には、すぐに中止して下さい。
また、内観を行うにあたって、医療機関に通院されている人は主治医と相談するようにして下さい。

集中内観のやり方

集中内観は、内観が集中して行うことができる施設や医療機関で、約1週間行います(畳の部屋で行うことがあります)。
集中内観期間中は、行動の制限が行われ、内観している場所を離れないようにします(トイレ、洗面、入浴以外)。
テレビを視聴したり、雑誌・新聞を読んだり、音楽を聴いたりすることなども禁止されます。
また、面接者以外と会話することはできず、家族との連絡についても、緊急時以外は禁止という対人関係の制限も行います。

「お世話になったこと」、「お返ししたこと」、「迷惑をかけたこと」の内観三項目を(母親や父親など)対象とする人物ごとに、(〇~〇歳までなど)年代を区切って内観します。
対象とする人物は、母親や父親など無条件の愛を受けた相手から行います。
年代は、その無条件の愛を受けた時期である幼少期から小学生、中学生と内観を行います。

内観した内容は、記録内観用紙に記録します。
記録用紙には、「日付」と「対象とする人物と年代 (例:『父、8~14歳』)と「1.お世話になったこと、2.お返ししたこと、3.ご迷惑をおかけしたこと」について、体験した具体的事実を書きます。
思い出したことを記録用紙にすぐに書いてしまうと、そこで記憶が途切れてしまうことがあるため、すぐに書かないようにして、時間をかけて思い出すようにします。

集中内観では、行動が制限され、対人関係も制限されるため、孤独でさみしいと感じることがあります。
また、最初の2~3日はあまり内観ができないことが多く、内観三項目の記載についても自己紹介になっていたり、自慢話になっていたり、対象とする人物を紹介する内容になったりすることがあります。

内観終了後は、その時間に内観した内容を面接者に話し、面接者はその内容に耳を傾けます。
「悪いことばっかりして、迷惑をかけました」といった抽象的な内容であれば、面接者は具体的な事実を内観するように伝えたり、具体的なエピソードを思い出して、当時のことを詳細にイメージできるように伝えたりします。
そうすることによって、うまく内観ができるようになると、過去のことを現在のこととして再体験することができます。

お世話になったことについて

「お世話になったこと」を思い出そうとしても、「してもらえなかったこと」を思い出すことがあります。
「ほしいものを買ってもらえなかった」、「約束していたのに遊園地に連れて行ってくれなかった」など、「してもらえなかったこと」ばかりを思い出して、「お世話になったこと」を思い出せないことが多いです。
幼少期には「ミルクをもらった」、「オムツを替えてもらった」、小学生の頃は「ご飯を作ってもらった」、「洗濯をしてもらった」、「朝起こしてもらった」、「熱を出した時に病院に連れて行ってもらった」など両親が自分のためにやってくれたことはたくさんあると思います。
相手の立場に立って過去を振り返ると、過去の出来事を客観的に見ることができます。
周囲の人たちのおかげで、自分がここまで生きてこられたという事実に気づくことが大切です。

お返ししたことについて

お返ししたこととして、「かけっこで一番になった」、「志望校に合格した」などを記載する人がいますが、これらはお返ししたことではなく、そのことを喜んでくれただけで、お返ししたこととは言えません。
お返ししたことを思い返すと、ほとんどなかったりします。

迷惑をかけたことについて

自分が迷惑をかけられたと感じた記憶や自分が傷ついたという記憶はなかなか忘れませんが、自分が迷惑をかけたことは忘れてしまって、なかなか覚えていないものです。
小さい頃に迷惑をかけられたことを大人になっても恨みを抱いている場合も少なくありません。
そのため、内観の対象者(母や父など)に対して嫌な思い出しか思い出せない場合には、迷惑をかけたことを思い出せないことがあります。
なかには恨みごとばかり思い出して、迷惑をかけたことを思い出すことが困難な場合もあります。
そのような場合には、自分が迷惑をかけたことを1つずつゆっくりと思い出すことによって、愛されてきたことを少しずつ実感することができるようになります。
内観は、愛されてきたことに少しずつ気づいていく作業になります。

迷惑をかけたことを思い出すことができるようになると、罪悪感が出てきます。
その後は、他人に対する感謝の気持ちが出てきて、穏やかな気持ちを持てるようになります。

分散内観のやり方

分散内観では、通常の日常生活を送りながら、毎日30-60分間程度、内観三項目(「お世話になったこと」、「お返ししたこと」、「迷惑をかけたこと」)を集中内観と同じように対象人物ごとに年代を区切って内観を行います。
内観したものは、集中内観と同様に内観記録用紙に記録します。

今まで気づかなかったことに気づいたり、広い視野を持つことができたりして、新しい人間関係を構築することができると思います。
その日にあった人を対象人物として、その日の出来事を内観してみるのも効果的です。

まとめ

  • 人間関係が悩みの多くを引き起こす:過去の嫌な思い出や人間関係のトラブルに苦しむことが多い。
  • 内観法とは:吉本伊信が考案した精神修養法で、内観三項目(お世話になったこと、お返ししたこと、迷惑をかけたこと)を用いて過去を振り返る方法。
  • 内観の目的:自己分析を通じて対人関係を洞察し、実生活に活かすこと。
  • 内観の種類:集中内観(施設や病院で行う)と分散内観(毎日の生活で行う)の2つに大別される。
  • 内観の効果:自分自身を客観的にみることができ、幼少期から自分が愛されてきたことに気づくことができる。これまでの自己中心的な生き方を反省することができる。他人に対して感謝の気持ちを持てるようになり、人間関係が円滑になってくる。
  • 内観の危険性:不快感を感じる場合がある。病院に通院している場合は主治医と相談が必要。

この記事が皆さんのお役に立てればうれしいです。

[参考文献]

川原隆造:内観療法.新興医学出版社, 1996.

竹元隆洋:心身医学と内観療法. 心身医 43: 333-340, 2003.

長山恵一、清水康弘:内観法.日本評論社, 2006.

柳田鶴声:内観実践論.いなほ書房,1995.

三木善彦:内観療法入門.創元社,1976.

心療内科専門医・総合内科専門医のよっしーです。心療内科医として20年以上、大学病院で15年以上患者さんを診察してきました。大学では教授として研究や学生の教育も行っています。より多くの人たちのお役に立てるような心と身体の情報を発信しています。健康な人にとっても病気の予防にも役に立つ効果的な治療法(セラピー)の情報やその実践法についてもわかりやすく解説しています。

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