ある中国人が母国の「富裕層カップル」に違和感 「お金はあるのに、幸せそうに見えない」
ある在日中国人から、2022年の年末、20代のある中国人富裕層カップルの日本旅行をアテンドしたときの話を聞いた。
その際、そのカップルは数百万円を使ってブランドのバッグや衣服、靴などを購入したり、ミシュランの星つきレストランで何度も食事をしたりするなど、非常に羽振りがよかったという。
だが、この中国人は筆者にふと、こんな言葉をもらした。
「彼らは本当に幸せなのだろうか、と思いました」
なぜ、そんなふうに思ったのか。
増える富裕層同士の結婚
その中国人は言う。
「彼らはお金持ち同士の結婚で、私が会ったときは24歳と25歳でした。
中国では結婚しない若者が増えているといいますが、実は最近、中国の都市部やアメリカに住む富裕層の間では、20代前半で結婚するカップルが増えているんです。
特徴は2人とも実家がお金持ち、超リッチであること。いわゆる『富二代』(富裕層の二代目)同士の結婚です。
以前は、富裕層自体そんなに多くなかったですし、ある程度のお金持ちが、そうではない一般人と結婚することもありました。
多少の経済格差があっても、愛があれば乗り越えられるケースも当然ありました。
また、都市部の女性が、地方出身で将来を嘱望される男性(中国で「鳳凰男」と呼ばれる)と結婚する、といった例もありました。
しかし、私の知る限り、最近では、そういう結婚はだんだん少なくなってきたような気がします。玉の輿婚もあまりありません。
お金持ちはお金持ち同士としか結婚しない。そうではない一般人のことは見下し、見向きもしないのです」
社会の階層が固定化している
私はこの話を聞いて、確かに富裕層が急激に増えているいま、お互いの親のビジネスを引き継いだり、事業を拡大したり、財産を一族で守ったりするために、子ども同士が結婚するのかもしれない、と感じた。
また、中国も社会の階層が固定化してきて、自分と収入やバックグラウンドが異なる階層の人と知り合う機会は減っている。
プチ富裕層、富裕層、スーパー富裕層のコミュニティがそれぞれ出来上がっており、これまで以上に、そのコミュニティの中の人としか交流しなくなっているのかもしれない。
拙著『中国人が日本を買う理由』でも紹介しているが、多くの富裕層の子どもは幼い頃から海外留学を経験しており、日本にもショッピングや旅行で頻繁に足を運んでいる。
彼らは中国人のコミュニティの中でのみ生活しているので、日本人にその存在は知られにくいが、今後、日本の消費市場にとって、中国人富裕層は重要なターゲットであることは間違いない。
だが、何不自由ない生活をしている彼らに対して、その中国人が「幸せそうに見えない」と感じた理由は何なのか。
私は改めて、その人に聞いてみた。
幸せそうに見えない原因は何か
「彼らは一代で成功した両親のもとで一人っ子として生まれ、何不自由なく育ちました。そして、不動産でも、宝石でも、自動車でも、欲しいものは何でも手に入れられる、とても恵まれた環境にいます。
いつも最高級のものに囲まれていて、それが当たり前。だから、少しでもランクが落ちると、強い不満を感じるんです。
私がそばにいて感じたのは、彼らはそうした境遇だからこそ、幸せを感じるハードルがとても高くなってしまっている、ということ。
これこそ、一般人の私の目から見て、幸せそうに見えない原因ではないかと思いました」
この中国人によれば、彼らは日本にいる間、中国人に人気のUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に遊びに行ったが、当然VIPチケットだったし、レストランも普通の人はなかなか行けないような、1人数万円もする高級店ばかりだったという。
それでも、そうした生活を「当たり前」と感じているために、「こんなにいいチケットを入手できてよかった」とか「こんなに美味しいものを食べられて、自分はなんて幸せなんだろう」という気持ちになれない。口をついて出るのは、不平不満ばかりだったという。
その中国人は言う。
「中国の富裕層は桁違いに裕福になりましたが、40~50代の富裕層はまだ貧しい時代も知っていますし、下から這い上がってきた人々です。しかし、20代の富裕層は、生まれたときから豊かで、まったく苦労を知りません。
お金さえ出せば、周囲の人々は何でも自分のいうことを聞くと思っている面があります。
私がアテンドした2人もまだ新婚の若い夫婦なのに、幸せそうには見えなかったのは本当に残念……。自分の母国の人のことですが、いろいろと考えさせられました」