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『エンタの神様』特番で過剰に感じた「笑い声の付け足し」、その演出の必要性と問題点

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロ)

バラエティ特番『エンタの神様 大爆笑の最強ネタ大大連発SP』(日本テレビ系)が5月8日に放送された。

2010年にレギュラー放送が終了してからは特番となっており、今回のオンエアは2021年12月29日以来。そんな『エンタの神様』であらためて着目したいのが、「笑い声を付け足す演出」についてである。

ニューヨークのコント、警官姿の屋敷が登場しただけで「笑い声」

もともと同番組では、笑い声の音声素材を編集時に付け足して盛りあがりを演出する「録音笑い」が目立っており、以前から否定的な意見も多数挙がっていた。

この「録音笑い」は海外のシチュエーションコメディほか、日本でも『ドリフ大爆笑』(フジテレビ系)など昔からおなじみの手法である。ただ今回の『エンタの神様』特番での笑い声の演出は、いつも以上に過剰に感じるところが多かったのではないか。

たとえばニューヨークのコント。スピード違反を犯した高級車の持ち主に対して「詐欺を働いているのではないか」と突っかかる警察官のネタだが、屋敷裕政が警官姿で登場しただけで笑い声があがったところは、やや違和感があった(ライブでは確かにそこで笑いが起きてはいるのだが)。

また、さらば青春の光の「超イライラする店」では森田哲矢が「店の入口で10分待たされた」とボヤくだけで沸き、蛙亭の「マッチングアプリ」にいたっては中野周平があらわれてからずっと爆笑が続いた。ほかにも多くの芸人のネタで、前フリと思われる箇所ですでに大きな笑いが起きる状況だった。

ひたすら笑い声が重ねられる演出の問題点は、そのネタの起伏や情緒が感じられなくなるところ。本当におもしろいポイントがぼやけて見えてしまうのだ。

「なにかが起きそう」とワクワクする段階で作為的に笑い声が仕掛けられ、それが視聴者にとってノイズになってしまう。また笑い声がシャットアウト気味になることで、笑いの余韻も失われる。

本当におもしろいネタは、そういった演出すら凌駕するのかもしれない。それでも、今回の『エンタの神様』の演出に関しては各ネタの本質がつかみづらくなってしまった。

審査員の笑い顔、スタッフの笑い声を挿むことで「反応」を演出

ちなみにこれまでテレビ番組は「録音笑い」だけではなく、さまざまな「反応」を演出として表現してきた。

『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)は、審査員や司会者が笑っているところも映して「現場でどれくらいウケているか」を視聴者に届け、一緒に笑わせた。

『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)や『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)などは、演者のネタ中、現場にいるスタッフの笑い声をあえて入れて「笑いの臨場感」を演出していた。

『有吉の壁』(日本テレビ系)では、おもしろいかどうかのジャッジを下す有吉弘行のウケ具合だけではなく、進行役・佐藤栞里の屈託のない笑顔も映しだすことで、こちら側もつられて笑う形に。同番組は、出演者の妙味を生かした「反応の演出」と言えるのではないか。

『千鳥の相席食堂』(ABCテレビ)は革新的で、ロケのVTRが流れているときはMCの千鳥がワイプで抜かれ、おもしろかったところで千鳥が「ちょっと待てぃ」のボタンを使って映像を停止。そしてあれこれとツッコミをいれる。「反応の演出」という意味ではひとつの発明かもしれない。

一方、そうやってネタの様子以外の画を挿むことに不満を持つ視聴者もいる。逆に『エンタの神様』にはそれがない。映像面については基本的には演者のネタをきっちりと撮っており、比較的観やすいのだ。ただ、今回の特番ではお見送り芸人しんいちがこの役割に当たってしまったが、最後の出番の芸人のネタ時にエンドロールが流れるのは、何度観ても芸へのリスペクトが薄く感じられてしまう。

『エンタ』の問題点は「笑いどころの見極め」がなされていないところ

ダウンタウンの松本人志は2013年6月5日にTwitterで、笑い声を付け足す演出について「車で矢印信号がでるまで曲がれない人がいるように何処で笑えば良いか分からない人が約90%いると言われています。あっ。思っています。」と投稿。その演出が、視聴者のガイドラインになっていると分析した。

『エンタの神様』のように、レギュラー放送時は22時、今回の特番も19時から放送が開始され、お笑いに詳しいファンだけではなく、子どもからお年寄りまで幅広い層が番組を観ることも考えれば、こういった演出も必要なのかもしれない。また、新型コロナの影響で無観客であることもテレビ制作側としては悩みどころだろう。現状を踏まえると、より一層「録音笑い」に頼りたくなる気持ちも理解できる。

ただ今回の特番で疑問だったのは、ウケを狙っているわけではなさそうな部分でも過剰に笑い声が付け足されていたことである。同演出への否定的な反応の原因は、「ネタの笑いどころの見極め」がしっかりなされていない点ではないだろうか。

テレビ制作側が仕込む、昔ながらの「録音笑い」はいつまで使われるのか。それが変わることはないのか。そして今後、「反応の演出」はどのように進化していくのだろうか。いろんなアイデアが出ることに期待しながら、各番組を観ていきたい。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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