『戦国BASARA』の伊達政宗様は6刀流を使うが、実際にできることなのか?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
実在した戦国武将が登場して、人間離れしたビックリ能力で、勇壮すぎる戦いを繰り広げるのが『戦国BASARA』だ。その代表的なキャラが、ここで紹介したい伊達政宗。
このヒトはすごいですよ。腕組みしたまま馬に乗り、疾走しながら「Are you ready, guys?」と呼びかけると、後続の家来たちが一斉に「Yeah!」と応ずる。わはははっ、さすが伊達者ですな。
なかでも注目は、左右の腰に3本ずつ、合計6本もの刀を差していることだ。その名も、六爪(ろくそう)流!
「奥州筆頭、伊達政宗、推して参る!」と名乗りを上げて突進し、6本同時にぶん回すと、城門は打ち破られ、敵兵たちはバラバラと空中に跳ね飛ばされる!
現実の世界では、二刀流でも相当すごいと思うが、その3倍もの刀を使えたらどれほど強いのか。いや、その前に、本当にそんなことができるのか?
ここではアニメ版の描写で考えてみよう。
◆実験したら、指が痛い!
日本刀の重さは1kgほどだ。プロ野球選手が使うバットが820~900gだから、それより重い。
そんなものを6本も腰に差したら、合計6kg。2L入りのペットボトル3本を持ち歩いているのと同じで、それだけでも戦いに不利なのでは……。
などと小さな心配をするのは、筆者が凡人だからであろう。伊達政宗は持ち歩くどころか、片手で3本ずつ振り回すのだ。
これができるかどうか、まずは実験してみよう。
筆者の手元には『ONE PIECE』ゾロの三刀流を考察する際に買い求めた模造刀がある。この1本では足りないので、武道具屋さんに行き「重さ1kgの木刀をください」と言ったところ、出てきたのは素振り用のぶっとい木刀。普通の木刀の重さは500gなのだという。
木刀は2本買うつもりだったけど、思ったより高くておカネが足りなかったので、1本だけ購入。残る1本は、自宅に戻り、ハンマーの柄に錘をつけて1kgにした。財力のない私を許してください。
さて、政宗は3本もの刀をどうやって持っているのか。アニメを見ると、なんと人差し指と中指、中指と薬指、薬指と小指の間に1本ずつ挟んでいる!
間違いなく痛そうだが、覚悟を決めて、まずは1本目を人差し指と中指の間に挟んだ。すると、重い。持ち上げるのがやっとで、振り回すどころではない。
続いて、2本目を中指と薬指の間に押し込む。ぬおっ、強引に開かれた薬指の付け根が痛い。両側から挟みつけられる中指もすごく痛い。
そして3本目を薬指と小指の間にネジ入れると、ぬおおおっ、モーレツに痛い。中指と薬指は圧迫骨折しそうで、小指は脱臼しそうだ。
持ち上げようとしてはみるのだが、腕力の限界というより、痛みへの忍耐の限界で、もうまったく無理。これで戦うなんて、想像もできません。
シミジミとわかった。筆者のような未熟者が、戦場で六爪流を使うと、刀を持ち上げようと四苦八苦しているうちに、四方八方から斬られます。無念……。
◆びっくり、政宗の指の力!
筆者には痛くて持つことさえできないのに、目にも留まらぬ速さで振り回し、敵兵を同時に何人もぶっ飛ばす伊達政宗。その指の力はどれほどなのだろうか?
同時に何人もぶっ飛ばすのだから、1本の刀で少なくとも1人を飛ばすと仮定しよう。アニメでは、相手は高度10mくらいまで飛ばされている。人間をこの高さまで飛ばすには、時速50kmで打ち上げねばならない。
戦国時代の鎧や兜は25kgもあったというから、相手の重量は武器を含めて100kgと考えよう。これは刀の重さの100倍なので、相手を時速50kmで飛ばすには、刀をその100倍の速度でぶつける必要がある。
つまり時速5千km=マッハ4.1。ライフル銃の弾丸でさえマッハ3だから、政宗の六爪はそれより速いということだ。
このオドロキの剣速を可能にする指の力を計算すると、なんと43t。
筆者が自分の指の力を計ると、2kgが限界だった。政宗は、筆者より2万1500倍も力持ちなのである。
◆6刀流の利点は何か?
伊達政宗の指の力がすごいことはわかった。が、六爪流が使えたとしても、戦いに有利かどうかは、別の問題だ。片手に刀を3本持つことの利点は何だろうか?
ひょっとしたら、同時に何人も斬れること?
そこで、再び摸造刀と木刀とハンマーを指に挟んでみると、指はほとんど動かせないことがわかった。刀の角度が自動的に決まってしまうわけで、隣り合う刀同士の角度は30度くらい。アニメの画面を確認したところ、政宗も同じような角度で3本の刀を持っている。
このような持ち方をすれば、切っ先の間隔は、隣同士が40cmほどになる。
つまり、相手が40cmの間隔で立っていてくれれば、真上から刀を振り下ろすことによって、同時に3人を攻撃できる!
と思ったが、40cmとは成人男子の肩幅より狭い。これに斬られるためには、敵兵3人にはギュ~ッと密着しておいてもらいたい。
でも、おめおめとそれで斬られる相手もいないでしょうなあ。
などと油断していると、大変なことになりますぞ。相手が1人だったら、3本の刀を同時にぶち当てることによって、与える衝撃を3倍にできるのだから。
さっき「アニメでは高度10mくらいまで飛ばされている」と書いたが、衝撃3倍だとそれではすまない。たとえば、真上に打ち上げられた相手は、高さ45mまで吹っ飛ばされる! 現代だったらビルの15階の窓にぶち当たってしまうということだ。
これ、やられる側としては、もう「普通に斬ってくれ」と言いたくなるのではないか。
やっぱり伊達政宗はすごい。実在の武将もまことに魅力的だが、『戦国BASARA』の世界でも、科学的に心惹かれるキャラである。