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詐欺の被害金は、こうして戻りました!今、注意すべきは、戦地の悲惨な写真を見せられる国際フレンド詐欺!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

「あきらめていたはずのお金が戻ってきました。被害金には及びませんが、それでも本当に良かったです!真っ先に、多田さんに連絡してしまいました」

本当に、嬉しさが伝わってくる電話でした。

日々、詐欺の案件を扱っているので、被害者からは「騙された」「多額のお金を取られた」という悲しく、悔しい話ばかりをうけています。それだけに、30代女性からの連絡を受けて、筆者も喜ばしい気持ちになりました。

ウクライナ情勢もあり、戦地の悲惨な状況につけこむ、国際フレンド詐欺に最大級の警戒を

今、海外詐欺組織からの魔の手はネット上のいたるところに、はびこっています。その時、出会った異性からロマンスの感情を抱かされるだけでなく、フレンドリーな関係でつながり、お金を要求されることもあります。30代女性も、まさにこの国際フレンド詐欺の手口で被害に遭いました。

昨年の夏、Instagramでつながったカナダ人医師を騙る男性が、メッセージのやり取りをするなかで「自分は戦地で医療活動している」といいます。そして、砲弾で車や建物が焼き尽くされ、ガレキと化す街並みや、戦火で苦しむ人々の写真が送られてきます。死と隣り合わせで活動する男性医師の辛い気持ちに同情してしまい、依頼された約80万円を送金してしまいました。

もちろん、この医師は詐欺組織がなりすましている人物です。

この時の戦地の設定はパキスタンでしたが、これからは、ロシア軍に侵攻されたウクライナ情勢を利用して、支援金などを募る詐欺も横行する恐れがあります。くれぐれもネット上で友達関係になったところで、同情心を煽って騙す、国際フレンド詐欺には最大級の警戒をお願いします。

写真:ロイター/アフロ

証人になってほしいとの依頼をうける

女性は被害に気づいた後、警察へ行き相談します。そしてすぐに銀行に電話をかけて、詐欺に使われた送金先の口座番号などを伝えて、口座の凍結を依頼しました。この時、電話に出た銀行の担当者からは「振り込んだお金は、すぐに引き出されてしまうので、まずお金は戻らないと思います」という残念な言葉を受けました。彼女はそれを聞いて、がっくりと肩を落とします。

その後、再び警察署に赴き、被害届は受理されます。しばらくして、捜査関係者から電話がありました。

「あなたには証人になってほしいので、被害の状況を聞きたいというのです」

彼女は、どういう経緯で自分が証人にならなければならないのか、その辺りも聞きたいと思い、後日、その捜査関係者と直接に会いました。

「その方の話では『あなたが振り込んだ口座からお金を引き出そうとした人物が逮捕された。裁判にかけたいので、証人になってほしい』とのことでした」

そこで彼女は、逮捕された状況を詳しく尋ねます。

「口座からお金を引き出そうとしたのは中年女性で、子供を持つ家庭の主婦ということでした。彼女自身もロマンス詐欺に引っ掛かっていたそうです。この主婦がお金を騙し取られた被害者かはわかりませんが、出会った相手から、銀行口座のお金を引き出す仕事を依頼されたそうです」

不正引き出しの報酬は10%

主婦を誘った詐欺犯からは、“引き出した額の10%の報酬”が受け取れるといわれていました。

筆者の思うところですが「お金を引き出すだけで、高額なお金が受け取れる」との言葉に手を染めたところから、主婦自身がお金のない状況だったことがわかります。ということは、お金を騙し取られて金欠になっていた被害者だったのではないかと推測します。過去にも、詐欺の被害者でありながら、お金のない状況から誘われて、詐欺に加担するケースがあるからです。

「私が振り込んだ80万円のお金は、この主婦によりすべて引き出されて、黒人男性に渡されていました」

出し子を使って引き出したお金を、運搬役の男性に渡す。この手渡し詐欺では、その先にいる犯人を追うのが極めて難しくなります。実際に、この黒人男性はすでに出国しているといいます。

すみやかな被害女性の通報と銀行への連絡が、次の詐欺を防いだ

おそらく銀行口座の凍結は、重大なことですので、本当に詐欺に使われているかどうかの確認や、凍結への手続きに時間がかかっていたのでしょう。その間に別の被害者が同じ口座に多額のお金を振込み、口座が凍結されました。それを知らない、詐欺犯の手足となっていた主婦が、お金を引き出そうとして逮捕されたと思われます。

彼女のすみやかな警察、銀行への通報があったからこそ、口座は凍結されて、次のお金が引き出されることを防いだともいえるわけです。

国際ロマンス・フレンド詐欺では、国内の銀行に振り込ませることが多くあります。となれば、当然、そこには不正に銀行口座を譲る者、お金を引き出す者など、国内犯が絡んでいることになります。つまり、国際ロマンス・フレンド詐欺と、振り込め詐欺などの特殊詐欺の構図はほぼ同じであり、そのヘッドが国内か海外という違いだけといえるでしょう。

直接に会って話を聞き、同意をすることはとても重要

詐欺事件における犯人逮捕の事情が呑み込めた彼女は、再度「証人になれますか?」と尋ねられて「はい」と答えました。

直接に会って話をして、その状況に納得してから同意する。これはとても大事なことです。

というのも、国際ロマンス・フレンド詐欺ではなりました相手と一度も会わずに、非対面で話を進め騙されます。それと同じ行為を繰り返してはならないからです。それに、この時勢、警察などをかたり、電話をかけて騙す詐欺も横行しており、二次被害も懸念されますので、対面での対応はとても必要になります。

「被害回復分配金支払申請書」が送られてくる

警察に被害届を出してから半年ほどたった頃、今度は、お金を振り込んだ銀行から電話がかかってきました。

「『あなたが振り込んだ口座にはお金が残っていて、振り込め詐欺救済法により、被害者との分配のうえ、お金が戻ります。書面を送りますので、記入してご返送ください』という内容でした。最初に被害に遭った時には、『返金は難しい』と言われていたので、とても驚きました」と彼女は話します。

後日、銀行から「振り込め詐欺被害者救済法にもとづく、被害回復分配金支払申請書」が送られてきましたので、必要事項を記入して返送します。

そして、決定書が送られてきます。

そこには「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払い等に関する法律」(以下、「法」といいます。)第13条に基づく支払該当者決定を行いました。(中略)犯罪被害額にもとづき算出した被害回復分配金の額は『2*万円』です」との記載ありました。

「電話を受けた時点ではいくら、お金が戻るのかわかりませんでした。5万円位かな?と思っていましたので、20万円以上が戻るとのことで驚きました。もちろん、被害金には及びませんが、あきらめていたはずのお金が戻ってきて、本当に良かったです!」

詐欺とは時間の戦いです。被害者が振り込んだ直後に、詐欺師はすぐにお金を引き出そうとします。彼女はその攻防に勝ち、一矢を報いたといえます。

組織的犯罪による被害金返還の道が見えてきている

今回は、海外組織による国際フレンド詐欺被害の返金のケースですが、これが振り込め詐欺などの特殊詐欺ということもあるでしょう。口座にお金が残っていれば、戻ってくる可能性はありますので、すばやい警察や銀行への連絡が必要です。

また特殊詐欺の組織には、暴力団の組員が絡んでいるケースもよく見受けられます。そうしたなかで、暴力団のトップには、暴力団対策法における使用者責任があるとして損害賠償の裁判を起こしている方もいます。昨年、それが認められ、最高裁判所で損害賠償の支払いが確定した勝訴判決も出ています。

警察は振り込め詐欺組織壊滅のために、徹底した捜査を行い、組織のヘッドの逮捕を進めています。今後、詐欺のお金の流れなどから、もし暴力団が絡んでいることがわかれば、被害者にお金が戻る道も生まれてくるでしょう。

これまでは組織的詐欺でお金を騙し取られたら、まず戻らない状況でしたが、少しずつですが、被害回復への道が開けてきているように感じています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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