なぜ井上尚弥は2年半ぶりの試合でドネアに圧勝できたのか 異常に発達していた筋肉とは
6月7日、さいたまスーパーアリーナでボクシング世界バンタム級3団体統一戦が行われ、WBAスーパー&IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(29=大橋)とWBC同級王者ノニト・ドネア(39=フィリピン)が戦った。この試合は両者にとって2年半ぶりの再戦となった。
試合の展開
第1ラウンドのゴングがなると、まずドネアが先手を取った。対する井上は間合いを取りジャブをつきながら様子を見る。
静かな立ち上がりだったが、ともに一撃で試合を決めるパンチを持っているため、緊張感が漂っていた。
試合の流れが変わったのは第1ラウンド終盤、ドネアが間合いをつめたところに、井上のカウンターがヒットし、ドネアからダウンを奪う。
第2ラウンドでは、井上が勝負と見てドネアにプレッシャーを掛けていく。
良いパンチがヒットし、ドネアの足元がふらつき始める。追い討ちをかけるように井上がドネアをロープにつめ、ワンツーからの返しのフックを打ち込み、ドネアから2度目のダウンを奪う。
ドネアはなんとか立ち上がったものの、レフリーが試合をストップ。井上が2RTKO勝利を収め、バンタム級の3団体統一王者となった。
勝敗のポイント
再戦ではKO決着が多い。お互い手の内が分かっているため、序盤から仕掛けていくケースが多いからだ。
ドネアも好調で威力のあるパンチを持っていたが、井上の総合力が上回った。
特に驚いたのは試合の直前、井上がガウンを脱いだ時だ。
背中の筋肉である広背筋が異常に発達していた。ヒッティングマッスルと呼ばれる筋肉でパンチ力に影響する。
井上は次の階級を目指し肉体改造を進めているが、取り組んだ成果が現れているようだ。
ドネアも前回以上のパワーとプレッシャーに驚いたことだろう。
WBSSの決勝戦から2年半ぶりの試合となったが、井上の体はバンタム級の枠をすでに超えている。
ドネアはこれまで50戦近く戦ってきたが、ここまで圧倒的な敗北は初めてだろう。
井上は試合前に「ドラマにするつもりはない。この試合は一方的に勝つ」と宣言していたが、その通りの結果となった。
試合後には「ドネアがいたからこそ、バンタム級で輝けたので感謝したい」と話し、ライバルの健闘をたたえた。
他を圧倒する強さを持つ井上だが、ドネアというライバルの存在のおかげでここまで強くなった。
この先どこまで活躍していくか非常に楽しみだ。
4団体統一に向けて
今後に向けては「4団体統一戦が年内にやるならバンタム級で戦う。それが叶わなければスーパーバンタム級に上げて、新たなステージで戦いたい」と話している。
WBOのベルトを持つバトラーは統一戦に乗り気だ。
プロモーターのプロベラム社の代表リチャード・シェーファー氏も「この試合の勝者を年内にバトラーと対戦させ今年中に4団体統一王者を生み出したい」と話していた。
しかし、今回の井上の圧倒劇を見て何を思っただろうか。正直なところ今のバトラーでは相手にならないだろう。
全階級で誰が1番強いかがランクされるパウンド・フォー・パウンドランキングでも上位に名を連ねる井上だが、まだ1位に選出されたことはない。
しかし、統一戦を早期決着した今回の結果を見れば、トップに繰り上げられる事も十分に考えられるだろう。
記録やベルトにこだわりがないという井上だが、それを引き立てるためにも今後はドネアのようなライバルが必要になってくる。
パッキャオにメイウェザーがいたように、強さを引き立てるために強いライバルと巡り会って欲しい。
4団体を統一し、更なるステージに進んでほしい。