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「ラヴィット」の課題は視聴率の前に継続率だ

境治コピーライター/メディアコンサルタント
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

この春から、朝8時台の情報番組が変わったことが話題だ。TBSとフジテレビが新番組をスタートし、特にTBSは「ラヴィット」のタイトルでワイドショーではなく「日本でいちばん明るい朝番組」と銘打った。いったいどんな番組か、注目を集めた。

3月29日の番組スタート時に、筆者は期待を持ってこの番組を見てみたが、麒麟の川島明が大勢の芸人たちと進行する内容は、セブンイレブンや西友など大手流通の商品別ランキングだった。正直、筆者にはピンと来なかったが、翌日以降伝わってきたのは視聴率の大不振。2%前後だと「視力のような視聴率」と揶揄されるが、まさにその水準だったらしい。

ただ、新番組がいきなり高視聴率を獲得する事例は少ない。いまは「視聴習慣」が固定的でじわじわとしか上がらないと言われる。スタート時の視聴率がどうかより、今後伸びる気配があるかどうかが重要だと思う。

そう思っていたら、調査会社インテージ社が朝の情報番組の「継続率」データを出してくれた。同社はMediaGaugeTVと呼ばれる視聴データを収集している。全国240万台のネットに繋がったスマートテレビ端末のデータを分析できるのだがここでは、関東地区に絞ったデータを作成してくれた。

どんなデータが出るのか、まずはこの時間帯で最も世帯視聴率が高いと言われるテレビ朝日「モーニングショー」のグラフで説明しよう。

グラフ:MediaGaugeTVデータよりインテージ社作成(以下同様)
グラフ:MediaGaugeTVデータよりインテージ社作成(以下同様)

3月29日(月)から4月2日(金)の1週間を、29日の視聴を「新規」と捉えて、その人たちが翌日以降どう視聴したかを示したものだ。定義は以下。

  • 完全離脱:前日の視聴があり、その日以降視聴がなくなった端末
  • 離脱  :前日の視聴があり、その日の視聴がなく、かつ翌日以降に再度視聴がある端末
  • 復帰  :一度「離脱」となったが、再度視聴があった端末
  • 継続  :前日とその日の2日連続で視聴のあった端末
  • 完全継続:その日まで毎日視聴した端末
  • 新規  :その日に初めて視聴した端末
  • ※視聴定義:1/3視聴判定

放送時間のうち1/3を超えてその番組を見た人を「視聴」と定義。29日に「視聴」した人のうち毎日継続して視聴した人がオレンジで示される。前日から続けて見た人がグレー。一度離脱した人がまた見れば「復帰」で黄色。この3つが何らか「継続」してみた人だ。

こうして見ると、世帯視聴率が高いと言われる「モーニングショー」でも、毎日同じ人が見ているとも限らないことがわかる。この時間は見たい話題を探して誰もがザッピングし、絶対この番組しか見ないと決めている人は少ないはずだ。「モーニングショー」でさえ、毎日青い「新規」視聴も流入するし、「離脱」する人もそれなりにいる。

ただやはり、「完全継続」や「継続」はかなり高く、「復帰」も含めると見ている人の大半はこの番組をメインに見ていることがわかる。

ただ「モーニングショー」の視聴者はF3層が中心で高齢者に偏っているとも言われる。比較的若い層に見られている日本テレビ「スッキリ」のグラフも見てみよう。

こちらも、「モーニングショー」と非常に似たパターンとなった。一定割合の「離脱」もあり「新規」もいて入れ替わりもありつつ、安定した見られ方をしていることがよくわかる。ザッピングしたり日によって見ない日もありつつも、この時間は「スッキリ」をメインに見ている層が確実に多くいるのだ。

視聴が安定している2つの番組でグラフの見方を理解してもらったところで、いよいよTBS「ラヴィット」も見てもらいたい。

グラフを見ると、「モーニングショー」「スッキリ」とはずいぶん様子が違うのがわかる。「継続」「完全継続」がかなり少なく、逆に「離脱」がずいぶん多い。一定の「新規」が毎日いるので全体が下がる一方ではないが、とにかく翌日翌々日に見てくれる人が非常に少ないのだ。

視聴率が低いのは新番組だから仕方ない。それでも「継続」がある程度いれば地道に頑張ることでじわじわ上がる可能性も出てくるだろう。だが「継続」が少なく「離脱」がこれだけ多いと時間をかけても上がることはなさそうに思える。

同じ新番組でも「めざまし8」のグラフを見ると「ラヴィット」の課題がよくわかる。

番組がスタートした翌日、翌々日にある程度の離脱があるものの、結局は金曜日までに戻ってきているように見える。キャスター交替に当初は違和感を持ったものの、1週間で支持してくれたと見てよさそうだ。長年親しまれてきた小倉智昭から谷原章介へのキャスター交替は、うまく着地できたと言える。

もちろん、キャスター陣が変わっても同じスタッフで路線を大きくは変更していないのだから、着地は当然とも言えるだろう。「ラヴィット」はまったく新しい番組なのだから「めざまし8」と並べるのも酷かもしれない。

だが「継続」の少なさ、「離脱」の多さは「ラヴィット」のスタートが次につながるものとは言えないと見ていいと思う。実際、筆者も毎日続けてみたいとは思わなかった。商品ランキングは別の時間帯でよく見る企画で新鮮には感じられなかったし、朝は「買い物」の話には早すぎるのもあると思う。芸人だらけなのも正直この時間帯には合わない気がする。

「日本でいちばん明るい朝番組」のキャッチフレーズには期待した。確かにワイドショーだらけでギスギスした話題にあふれがちなこの時間帯の番組に「明るい」ものがひとつくらいあってもいい。だが商品の話を芸人が集まって話すことが2020年代の「明るい朝番組」というのは発想が浅い気がする。せっかく他局がやらないことに挑戦しているのだからそのチャレンジ精神は失わずに、次々に新しい企画に取り組んではどうだろう。いつか「継続」率が少しでも上がる時が来るはずだ。番組をキャスターごとコロコロ変えるのではなく、川島明のよさも生かして挑戦し続けることに期待したい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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