ノルウェー流・社会課題の解決法 若い難民にアイス屋で働くチャンスを
難民申請者として見知らぬ土地にやってきて、申請が受理されるまでに、数年かかるとされるノルウェー。
現在のソールバルグ首相(保守党)が率いる政権には、右翼ポピュリストである進歩党もいる。
時に、必ずしも全員が労働者・納税者となるわけではない難民や移民への風当たりは、優しいようで、時に厳しい。
「働きたい」。ノルウェー社会に溶け込もうとする難民に、この国の社会はどのように手を差し伸べているのだろうか。
その一例が、8月に首都オスロで開催されていたオイヤ音楽祭で見られた。
北欧や世界各国からの有名アーティストが集まる、ただの大人気フェスだけではないのがオイヤ。
環境や気候変動問題の解決を模索する取り組みなど、社会の課題を解決しようとする工夫が至る所で仕組まれている。
別記事「世界一エコな音楽フェス 徹底されたゴミ分別や食品ロス削減対策 ノルウェーからの緑レポート」
ノルウェー市民として暮らす難民にも労働のチャンスを
以前紹介した、難民が中心となって運営する美容院のほかに、今年は難民による「アイスクリーム屋さん」の姿が会場にあった。
別記事「行列ができる元難民による美容院 ノルウェーの社会統合とは」
「サンドイッチ・ブラザーズ」(Sandwich Brothers)の存在に気付いたのは、たまたまだった。
筆者が取材することがあるノルウェーのファッションブランドである「Norwegian Rain(ノルウェイジャンレイン)」が、雨風の中でアイスを販売する彼らの助けになるようにと、高級レインコートを提供している。そのことを、インスタグラムの投稿で偶然知った。
ノルウェー語を学びながら、仕事を探す若い難民男性のために、何かできることはないか?
クリストッフェル・ナウストダル・イェルムさんは、ノルウェーでは夏休みとなる時期のプロジェクトとして、アイス屋を3年前に立ち上げた。
アイスを売っているのは、申請が許可され、ノルウェー人となった男性たち。シリア、イラク、アフガニスタン、ソマリアなど、紛争があった国から逃れてきた。
毎年12人雇い、これまでで36人ほどの雇用をうんだ。
4~10月限定の活動だったが、今年はオスロにあるカフェなどにアイスを卸し、1年中経営ができる見通し。
アイスはオスロにあるオフィスで作っている。オーガニックのバターやチョコレートなど、環境に優しいサステイナブルな食材にこだわる(このエコな音楽祭では、メニューがオーガニックであることが出店条件)。
ノルウェーのテレビ局や新聞社など、多くの現地メディアにもポジティブに報道されてきたという。
フェスなどでも積極的に販売。「彼らには、いろいろなノルウェー社会を見てもらい、たくさんの人と触れ合う機会になれば」とイェルムさんは取材で語る。
「ノルウェーではサンドイッチ型のおいしいアイスクリームが、まだまだなかった。難民の彼らは普段学校に通っているけれど、夏休みにできるバイトを必要としていた。そこで、アイスはいいアイデアだと思いついた」。
「ノルウェーでは、ノルウェー人らしい名前ではないと、仕事で採用されにくいのが現状。彼らがどれだけ優れた人材か、証明したいとも思った」。
何か大変なことはあるかと聞くと、「いや、意外とうまくっている。嬉しい反応ばかりがくる」とイェルムさんは話す。
パレスチナから2015年にノルウェーに来たというアレカリファさん。今は高校で勉強しながら、週に3~4日ほどアイス屋のバイトをしている。
「アイスがたくさん売れて楽しい。ノルウェーが大好き」と、ノルウェー語で語った。
好きなことを仕事にする、起業して雇用をうむ、現地の食文化に新しい刺激を与える、同時に難民や若者の雇用の手助けをする。そのことを同時に成し遂げている彼らの顔には、笑顔があふれていた。
フェスを取材中、このアイスを何個か食べたところ、特においしかったのはストロベリー味だった。
インタビュー中、「これ、さっき食べたんだけど、おいしかったわよ」と、ノルウェー人の来場者らがワゴンに近づいてきた。
関わる人たちの輪を広げているサンドイッチ・アイス。来年には、オスロのカフェなどでも頻繁に見かけるようになっているかもしれない。
Photo&Text: Asaki Abumi