信頼度わずか21%…新型コロナが韓国キリスト教に「大打撃」な訳とは
韓国社会のプロテスタント系キリスト教会(以下、教会)への信頼度が、新型コロナウイルス感染症拡散のさなかに大きく下落したことが世論調査で明らかになった。その理由は「防疫」と密接な関わりがある。
●保守・年配層が相対的に信頼
29日、教会に関する世論調査機関『牧会データ研究所』は、「新型コロナ政府防疫措置に対する一般国民評価調査」の結果を発表した。今年1月12日から15日にかけて、1000人を対象にオンラインで行われたものだ。
内容をいくつか見てみる。まず、韓国の教会への信頼度について「とても信頼する」5%、「若干信頼する」16%、「別に信頼しない」28%、「全く信頼しない」48%という結果だった。大きく分けると「信頼する」21%、「信頼しない」76%となり、その差は歴然としている。
それだけでない。昨年1月、別の団体である『基督教倫理実践運動』が実施した「韓国教会の社会的信頼度調査」では、同じ問いかけに対し「とても信頼する」7%、「若干信頼する」25%、「別に信頼しない」32%、「全く信頼しない」32%だった。同様に分類すると「信頼する」32%、「信頼しない」64%となる。
前者の調査はオンライン、後者は通話によるものという差はあるものの、単純に比較する場合、わずか一年の間に信頼度が11%ポイント下落し、不信度が12%ポイント増加したことになる。特に「全く信頼しない」という回答者の割合が16%ポイントも増えている点は特筆に値する。
この結果について、研究所は「新型コロナにより韓国の教会がどれほどの打撃を受けたのかが分かる」としている。
また、別の項目では信徒の70%が「信頼する」とした反面、非信徒の中で「信頼する」と答えた者はわずか9%だったとしている。
年齢別では60歳以上の信頼度が25%と最も高く、19〜29歳が23%と続いた。最も低かったのは30〜39歳の16%だった。政治的には「保守」が31%で最も高く、「進歩」の17%と差がついた。
※韓国の宗教人口
最新の統計である2015年の人口調査によると、4905万人の人口のうち宗教を持つ
割合は約2155万人で43.9%となっている。プロテスタント系キリスト教は最も多い約967万人、仏教約762万人、カトリック約389万人となっている。
日本社会ではキリスト教の中にプロテスタント系やカトリックを含める傾向があるが、韓国では明確にこれらを区別する。人口比では約20%がキリスト教徒となる。なお、2020年に人口調査が行われたため、この数値は近々更新される予定だ。
●教会は感染拡大の「犯人」?
調査ではさらに、韓国市民が「教会が新型コロナの拡散に悪影響を与えている」と過度に認識している点も明らかになった。
「新型コロナ確診者(感染者)のうち、教会発の感染がどの程度の割合になると考えるか」という質問については平均で「44%」という答だった。
他方、今月21日に韓国の疾病管理庁が発表した資料によると、全確診者の中で宗教施設を経路としたものの割合は11%だった。
この結果について研究所は「(市民が)実際の数値よりも4倍も誇張した認識を持っていることが分かった。教会の積極的な国民に対する広報と、メディア対策が必要な部分」と指摘した。
少し説明を付け加えると、昨年1月に初の確診者が見つかって以降、韓国での感染拡大の大きな要素として教会の存在があるというのは、ニュースを通じ社会にすり込まれてきた。
昨年3月の『新天地』、8月15日の光復節での大集会を行った『サラン第一教会』、そして今年になって拡散に影響を与えている『インターコープ宣教会(BTJ列邦センター)』『IM宣教会』などはいずれもプロテスタント系教会と受け止められているのが大きい。
実際のところ、『新天地』はプロテスタント系教会界から「異端」とされ、『サラン第一教会』についても所属する『大韓イエス教長老会合同教団』内部から強い反発がある。『インターコープ宣教会』や『IM宣教会』についても創設者の経歴が問題となっており、主流とは到底言えない組織だ。
だが、こうした事情はあまり理解されず印象で判断されているフシがある。話題となるタイミングも関連しているだろう。政府の集合禁止命令に背き礼拝を強行するという「過激な姿」は、新型コロナの拡散が落ち着く頃になると報じられる。政府の防疫を邪魔し市民の努力を水の泡にする存在として認識されているのだ。
●国が宗教の自由を制限できるか
また、「国が公共の利益のために宗教の自由を制限できるか」を聞く質問には、86%の者が「制限できる」という立場を示した。
昨年8月、『大韓イエス教長老会合同教団』が実施した別の世論調査『新型コロナ以降の教会生態系の変化調査』では、「制限できる」と答えた者は59%だった。大幅な上昇が見て取れる。背景には上述したような理由、つまり「教会が防疫を邪魔しているという認識」があると見てよいだろう。
世論調査からは今後の課題も明らかになった。「今後、韓国の教会が集中すべき分野」について「自教会中心から抜けだし、韓国の教会全体をながめる教会の公共性」を挙げる回答が最も多かった。信徒では39%、非信徒では49%にのぼった。
今回の世論調査の結果を発表する中で、『牧会データ研究所』は昨年11月27日から12月7日まで、信徒1000人、非信徒1000人を対象に行った調査の結果も引用している。
この時には「(教会は)今後、地域社会と韓国社会に仕える公的な役割を強めなければならないか」という質問に「そうだ」と答えた信徒は80%、非信徒は83%だった。また「(教会が)今後、韓国社会の理念葛藤(左右の対立)を解決し韓国社会を統合する責任がある」という質問に「そうだ」と答えた信徒は72%、非信徒は63%だった。
こうした数値の背景には、朴槿惠(パク・クネ、在任2013年2月〜17年3月)前政権時代末期から「ろうそくデモ」への反発として勢力を伸ばした保守派教会を中心とする「太極旗デモ」が、文在寅政権発足以降は先鋭化し続け、今や社会に不満を持つ人々の拠点となりつつある事態への憂慮があるものと見られる。
●研究所「教会はもはや嫌悪の対象に」
『牧会データ研究所』は一連の調査結果をまとめた今回のレポートの末尾に載せた解説の中で、教会が直面する問題への危機感をあらわにした。
まずは、新型コロナの拡散により教会が大きく萎縮したとし、その具体例として「信徒たちの教会生活が萎縮することで個人の信仰生活の危機が迫り、教会への献金が減少することで教会は生存の苦痛に直面せざるを得なかった」とした。
新型コロナにより教会に集まって行われる対面礼拝が禁止または縮小されたことで、礼拝時に行われていた献金が減ったという現実は、韓国メディアでも繰り返し報じられている。このため、教会は政府の指針を破り対面礼拝を強行する、という図式だ。
研究所はさらに「より大きな危機」として「教会が一般国民から嫌悪の対象と言っていいほどに忌避の対象になってしまった」点を挙げた。
そして「『伝道(キリスト教の伝播)』の対象となる非信徒の誰もが教会に肯定的なイメージを持っていないという事から、韓国社会で当分のあいだ『伝道』が難しいだろうという不安が大きい」とした。
研究所はまた、前述したような「韓国社会ですでに形成されたキリスト教に対する否定的な認識」を取り上げ、これを「私たちの責任」とした。
その上で、昨年一年を振り返りながら「メディアを相手にする際に未熟な点があった」としながら「教会の代表的な連合機関を中心とする『対メディア常設機構』運営の必要性」を訴えた。
他方、今後の信頼回復に向けては「教会が真心をもって教会本来の機能と社会的な役割を果たすことを、長期にわたって持続的に行う以外に方法はない」と明かした。
そして最後に、「聖堂や寺で新型コロナ防疫対策を統一して行えるのは、カトリックや仏教における中央の統制力がキリスト教よりも強いため」と指摘し、教会界の指導力や権威を受け入れる自覚を、信徒や各教会に促した。