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習近平は何を提案したか―中国の新アフリカ戦略の3つのポイント

六辻彰二国際政治学者
中国・アフリカ協力フォーラム出席者と習近平国家主席(2018.9.4)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
  • 北京で第7回中国・アフリカ協力フォーラムが開催された
  • 習近平国家主席はアフリカ各国に、「一帯一路」構想とアフリカ開発を結び付けること、アフリカからの輸入を増やすこと、安全保障協力を増やすこと、を提案した
  • これらは中国主導の経済圏にアフリカを引き込む意志を、これまでになく鮮明に打ち出している

 中国のアフリカ政策のプラットフォームである中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)で、習近平国家主席は中国主導の経済圏にアフリカを引き込む意志を、これまでになく鮮明に打ち出した。中国のアフリカ進出は、新たなステージに入る。

資金協力の頭打ち

 9月3日、北京で2日間の予定でFOCACが開催された。2000年から定期的に開催されてきたFOCACは、今回で第7回目となる。

 今回、習近平国家主席は3日の開会式の基調演説で、3年間で600億ドルの資金協力を約束した。これは2015年の第6回会合で提示された金額と同じ額である。

 この背景には、貿易戦争の影響などによって中国経済に負荷がかかっていることもあるだろうが、日本との関係も無視できない。

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 日本はアフリカをめぐり2000年代から中国と「援助競争」を繰り広げてきたが、援助額がエスカレートする負担から、2010年代半ばにアフリカ向け援助額の増加にブレーキをかけ、さらに昨年には日中共同プロジェクトの実施に合意した。つまり、それまでほど日本と援助競争をしなければならない状況でもなくなったことが、増え続けていた中国の援助額の高止まりにつながったとみられる。

第7回FOCACの3つのポイント

 ただし、とかく資金協力の金額が注目されやすいものの、それに劣らず重要なのは中国のアフリカ戦略の内容である。FOCACは中国のアフリカ進出のプラットフォームで、ここで中国の歴代国家主席は援助や協力の内容を示し、アフリカ政策の方針を明らかにしてきた。

 今回の習氏の基調演説を過去6回の会合に出席した中国側の責任者の基調演説と比べてみると、中国主導の経済圏にアフリカを引き込む意志が、これまでより鮮明になったといえる。それは主に、以下の3つのポイントから読み取れる。

  • 「一帯一路」構想と結びつけたアフリカ支援
  • 貿易関係の深化
  • 安全保障協力の本格化

これらについて以下でみていこう。

「一帯一路」の先のアフリカ

 ユーラシア大陸をカバーする経済圏「一帯一路」構想は2014年に発表されたが、2015年に開催された第6回FOCACの基調演説で習氏は一度もこれに触れなかった。

 今回、3日の基調演説で習氏は4回にわたって「一帯一路」に言及し、「一帯一路とアフリカ開発の連動」、「アジア・インフラ投資銀行や(「一帯一路」を促進するための)シルクロード基金などのリソースを活用したアフリカ支援」などを強調した。

 今回「一帯一路」が強調されたことは、既成事実が追認されたに過ぎないともいえる。

 2000年代から中国はアフリカでも大規模なインフラ建設を進めており、鉄道だけに限っても、これまでに2017年1月にはエチオピアとジブチを結ぶ総延長752キロメートルのアディスアベバ‐ジブチ鉄道を開通させた他、ケニア、アンゴラ、ナイジェリアなどでもプロジェクトを完成させている。

 これらは基本的に「一帯一路」と無関係に進められたが、もともと「一帯一路」構想にはユーラシア大陸だけでなくアフリカ東岸も含まれていた。そのため、2017年5月に中国で開催された「一帯一路」国際会議には、エチオピアやケニアからも大統領が出席している。

 つまり、習氏がFOCACの場で「一帯一路」を強調したことは、既に自明だったアフリカ進出と「一帯一路」の結合を追認したに過ぎないが、東岸だけでなくアフリカ全域を中国主導の経済圏に引き込む戦略を公式に認めるものでもある。最高責任者のゴーサインが出たことは、中国の国営企業などがこれまで以上にアフリカ進出を加速させるとみられる。

貿易関係の深化

 これに関連して重要なのが、習氏の基調演説の2つ目のポイント「貿易関係の深化」だ。

 基調演説のなかで習氏は「アフリカからの輸入」に関して3回触れた。あまり多くないようにみえるかもしれないが、前回までのそれぞれの基調演説では毎回のように「貿易の促進」が述べられていたものの、「中国がアフリカからの輸入を増やす」という主旨の発言はこれまで一度もなかった。これに比べると、今回の方針は大きな変化である。

 中国にとって貿易の活発化は他国との関係を築く基盤で、いまやアフリカにとっても最大の貿易相手だが、多くの国では中国側の出超になりがちである。IMFの統計によると、例えば2017年段階で、アフリカ全体から中国向けの輸出額が約486億ドルだったのに対して、アフリカ全体での中国からの輸入額は約680億ドルにのぼる。中国の大幅な輸出超過に対して、アフリカでは2000年代から既に不満が表面化し始めていた。

 これを受けて、中国は2006年から段階的にアフリカの商品の関税を免除し、既に97パーセント以上の輸入品目を無関税輸入の対象にしてきたが、中国の輸出攻勢がすさまじいことに加えて、天然資源を除けばアフリカの主要商品(コーヒー豆、カカオ豆など)に対する中国側の需要が大きくないこともあり、状況は大きく改善してこなかった。

 今回、習氏があえて「アフリカからの輸入」を強調したことは、アフリカ側の不満を和らげ、ひいてはアフリカ各国に中国主導の経済圏に目を向けやすくするものといえる

 これに加えて、トランプ政権が各国に貿易戦争をしかけ、保護主義が蔓延するタイミングで「アフリカからの輸入の増加」を強調することは、もともと貿易依存度の高いアフリカを中国に向かいやすくする。

安全保障協力の本格化

 最後に、安全保障協力である。今回の基調演説で習氏は「安全保障」に関して13カ所で触れた。これは第6回FOCACまでと比べて目立って多く、習氏は演説のなかで「平和・安全保障基金」の設立も表明している。

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 南シナ海などで海洋進出の印象が強いものの、中国にとって海外での軍事展開にはリスクも高い。中国はアフリカ進出のなかで「内政不干渉」を強調して他国の紛争や内政に関わることを避け続け、2011年に発生したリビア内戦でも欧米諸国の軍事行動を「帝国主義」と批判することで、自らを差別化してきたからである(この点は第7回FOCACでも強調されている)。

 とはいえ、進出が本格化するにつれ、中国企業が紛争やテロに巻き込まれる事態も増えているため、アフリカの平和と安全は中国にとっても重要な課題となりつつある。

 その結果、中国は国連PKOへの参加を増やしてきただけでなく、リビア内戦で中国人労働者を救出するために艦艇を派遣したのを皮切りに、2013年に発生した南スーダン内戦では停戦を呼びかけ、2015年にはジブチに中国海軍が基地を構えるなど、安全保障上のプレゼンスも段階的に高めてきた。

 第7回FOCACに先立ち、6月に中国国防部はアフリカの50カ国から軍高官を招き、中国・アフリカ防衛・安全保障フォーラムを初めて開催した。これは「一帯一路」の加速とともに今後ますますアフリカの紛争が中国に及ぼす影響を念頭に、中国とアフリカの軍事協力を深める一歩であり、第7回FOCACで習氏はその方針を内外に公式に示したのである。

 こうしてみたとき、今回のFOCACで習近平体制は、中国主導の経済圏にアフリカを引き込む意志を、これまでになく明確に打ち出したといえる。その行方は、「一帯一路」の成否にも関わり、ひいては中国のグローバルな影響力にもかかわる。中国のアフリカ進出は、新たなステージに入りつつあるといえるだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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