「週刊少年ジャンプ」の“早売り” 徳島の“ローカルルール”見直しとは
毎週月曜日に発売される集英社の人気マンガ誌「週刊少年ジャンプ」ですが、徳島県では長年にわたって土曜日に読めていた……という徳島新聞の記事がヤフートピックスにも取り上げられ、話題になりました。
【参考】週刊少年ジャンプの県内発売日が土曜から月曜に SNSで徳島県民の嘆き節相次ぐ(徳島新聞)
記事によると、飯泉嘉門知事も定例会見で「(ジャンプが)日本で一番早く出る県」などと触れており、ネットでも土曜日発売を肯定しているように徳島県の人には周知の事実のようですね。念のため、徳島出身の知人に尋ねてみると「イエス」という答えで、上京したときにジャンプの月曜日発売を見て違和感があったそうです。
ちなみに広島県の地方で暮らした私の場合、月曜日発売のジャンプが土曜日に売っている小さな店があり、さらに金曜日の昼に入手する「裏技」もありました。駅の改札にいる駅員さんにこっそりお願いすると、ジャンプを金曜日に売ってくれたのです。堂々とではなく、個人間取引のようで、ネットの普及してない時代の話です。
「駅」と言うのがポイントでして、徳島の知人が言うには、やはり徳島県でも駅で金曜日にジャンプが買えたそうです。地方の場合ですが、貨物列車で輸送しており、結果として駅がフライングの“拠点”になっていたのではないでしょうか。同じように「早売り」のジャンプを買っていた人は少なくないはずです。
もう一つ言えば、東京でもジャンプを金曜日に入手できました。また発売日前の入手ができるのは他のマンガ誌でも同様でした。雑誌を「早売り」している店を探し出すのですが、出版関係者も仕事として情報収集を兼ねて、同様の店で書籍を買うわけです。
ジャンプで連載されアニメ化もされた「花さか天使テンテンくん」の作者・小栗かずまたさんが、ジャンプの「早売り」の思い出について、マンガにしていますね。
◇四国への流通は大変
マンガ誌の「早売り」について、「出版社がキチンと発売日を守らせろ」という見方もあるかもしれません。しかし徳島新聞の記事にある通り、ジャンプを発行する集英社は「徳島で土曜に発売しているのは知っていたが、各書店などとの取り次ぎには関わっていないので何とも言えない」と答えています。つまり出版社が取引をするのは、書店ではなく流通です。そして流通は、一次(大手)から小規模までさまざまな場所で販売しています。隅々まで監視してルールを守らせるのは、物理的に無理があるのです。
さらに言えば、「四国への配送は大変なんです」というのは、関係者らが口をそろえています。そもそも論でいえば、商品を全国で同時に発売することが難しく、実行しようとすれば、遠い地方ほど前倒しで発送する流れになります。そして商品が入荷すれば、店がその気になれば並べて売ることができるわけです。着荷のタイミングをすべて合わせるのも大変な負荷がかかります。関係者に聞く限りでは、徳島の「早売り」は流通の兼ね合いで起きているのでは……ということでした。
また地方に行くほど、メーカーの統制が緩くなる……という実情もありますし、地域ごとの商慣習もあるでしょう。せっかくうまく行っているところに、頭ごなしに「発売日を守れ!」と圧力をかけるのも得策ではありません。
なお徳島でのジャンプの発売日もすべてが月曜日になるわけではなく、引き続き土曜日に売ることもあるようです。土曜日の休配日が(年間32日)が増えるため、月曜日発売になる……という仕組みのようです。
【参考】2021年度 年間発売日カレンダー(日本出版取次協会)
そもそも出版社からすれば、発売日を厳守させるために小さい店まで細かくチェックしたとして、得るものがあるとはいえません。出版業界は、割とおおらかなところもありますから、そうした気風も影響しているのかもしれません。
さらにいえば書籍流通の負荷は今でも大きく、部数の多いコミックスが出るときは、同日発売のコミックスの配送を前倒しにして負荷を分散させている現実もあります。逆に地方でコミックスが発売日通りに出せないこともあり、問題になっていることもあります。
余談ですがゲームソフト会社は、販売店が発売日より前にパッケージゲームを売ることを厳しく制約しています。ゲームソフトはマンガとは違い、1本あたりの売り上げ、利益も高いため、シビアになるのでしょう。
「国土が狭い」と言われる日本ですが、そうはいっても広いのですよね。当たり前に思える雑誌の発売ですが、流通関係者の日々の努力があってこそ、全国にいきわたっている現実が見えてくるわけで、感謝したいと思います。