その寄付、実は「強制徴収」かも 学校がPTAからの寄付を受けてはいけない理由
PTAの予算から現金や物品等を学校に「寄付」することは、なぜ問題なのか? また現状、「寄付」はどの程度行われ、何に使われているのか? 筆者がWeb上で行ったアンケートをもとに解説する。
- 本稿は、教育管理職のための総合研修誌『月刊 教職研修』2019年11月号特集「公立学校の『お金』マネジメント」に掲載されたものです
その寄付金は、本当に自発的なお金か?
PTAなどから受け取る「寄付」を前提に運営している学校は、今もまあまああります。「善意のものなんだから、受け取っても問題ない」と思われているかもしれませんが、そうは言い難いところがあります。というのは、PTAなどからの寄付は、本当の「寄付」といえないことがよくあるからです。
寄付とは自発的な意思に基づいて行われるもの。しかし今も多くのPTAは加入意思確認がなく、保護者を自動的に会員として扱っています。そのため保護者たちは、学校の必要経費と錯誤してPTA会費を払っていることが多々あります。そのように集めた会費による「寄付」は、保護者の自発的な行為とはいえません。
ときどき、学校がPTA等からの寄付を受け取ることをしっかりと禁じている自治体もあります。たとえば東京都。PTAのお金を頼る公立の学校は、他の自治体に比べるとかなり少ない印象です。
東京都教育委員会が昭和42年に発行した通達には、こんな記述があります。
「従来、父兄を主たる会員とするPTA、後援会、その他の団体から、学校後援のための寄付が行われてきた。こうした慣習は、おうおうにして、強制にわたる懸念もあり(中略)、今後はこの種の寄付は受領しない」
「寄付」とはいっても、PTA等の会費は実際には強制徴収されている可能性があるので、受け取るのは問題がある、ということがはっきり指摘されています。東京都の学校では、こういった認識が50年以上も前から共有されてきたため、「寄付」に頼る傾向が少ないのでしょう。
地方財政法にも、このような条文があります。
「第四条の五 国(中略)は地方公共団体又はその住民に対し、地方公共団体は他の地方公共団体又は住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、寄附金(これに相当する物品等を含む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなことをしてはならない」
自発的な意思によらない「寄付」は、本来やはり認められないものなのです。
*「PTAのお金」だけではない
学校がPTAのお金に頼るのは良くない、という指摘は戦後何度も繰り返されてきました。ですから東京都以外の自治体でも学校がPTAの寄付を受けないところはときどきありますし、受けているところでも、昔よりはだいぶ規模が小さくなっているようです。とはいえ、ゼロにはまだまだほど遠いのが実状です。
寄付にあてられるのは、PTA会費だけではありません。バザーやベルマーク、資源回収など「母親たちの労働力」をお金に換えて寄付を行うところもたくさんあります。お金でなければ一見よさそうですが、PTA活動も会費と同様、本人の意思によらない強制が多いので、やはり推奨できるものではないでしょう。
さらには、PTA以外からの「寄付」もあります。学校や自治体によっては、PTAのほかに「〇〇後援会」「〇〇振興会」など別団体をつくって会費を集め、学校予算にまわしているケースも少なからずあります(特に中学校の部活動の費用)。こういった会費もたびたび強制的に徴収されており、やはり問題があるといえます。なお最近は学校支援地域本部や学校運営協議会が「学校ファンド」を設けて募金活動等を行う例もありますが、これもPTAなどと同様の「強制寄付」を行わないよう気を付ける必要がありそうです。
*PTAからの「寄付」の実態
こちらは筆者が2017年7月~18年3月にネット上で行ったアンケート結果です(全国から143件の回答、うち9割は保護者)。「PTA予算から学校への寄付は行われていますか?」という質問には69件の回答があり、うち3人に2人が「行われている」と答えています(「わからない」が2割弱と多いのは、予算の用途を一般保護者に詳しく伝えないPTAがあるためでしょう)。
具体的に寄付の内容を問うたところ、さまざまな回答がありました。
「式典や玄関の花代」「掃除用具」「通知表のファイル代」「入学説明会資料郵送代」「臨海学校に付き添う学校看護婦の弁当代」「カーテンクリーニング代」「教育誌購読料」「パイプ椅子」「図書室の本」「卒業証書筆耕代」「野菜の苗代」「体育館の緞帳」「修学旅行下見交通費」「うさぎのエサ代、小屋代」「園庭遊具」「運動会用テント」「地域コーディネーター職員の手当て」「ピアノ調律費」「プール消毒薬代」「健康診断用の医療機器の滅菌消毒代」「行事のバス代」「学校で呼んだ講師の謝礼」「植木代」「保健室の備品」「川辺の学習で使うライフジャケット」「会費集金の事務手当」「鼓笛隊の備品」「子どもたちの文化鑑賞費」「学力テスト代」「子どもの机」「空調設備維持管理費」「エアコン」「全国大会に進んだ部を応援する横断幕」「体育祭に着るハッピ」「ピアノ」「児童に配る授業用プリントの用紙代」「卒業式や入学式等来賓へのお茶菓子代」「時計」「教室の扇風機」「フットサルのゴール」「ラジカセ」「ドッジボール」「スリッパ」「側溝清掃費」等々……。
「スクールカウンセラーの給与」「各種修繕費」など、明らかに地方財政法に反すると考えられるものもありました。
このほか、部活動関連の費用をあげた回答も複数見られたほか、「学校にお金を渡しているが、使途は不明」とする回答もいくつかありました。なお個人的に唯一「これはいいな」と思った用途は「校外学習費用が出せない家庭の補助」でした(これも強制徴収のお金をあてていたら問題がありますが)。
同アンケートで、PTA予算から寄付にあてられる額はどれくらいか(金額または割合)を尋ねたところ(回答数70)、多かったのは5~20万円程度という回答でした。ただし、50万円以上という回答も6件あり、うち2件は100万円超えでした(関東と九州の公立小学校)。もし「〇〇後援会」など別団体からの「寄付」も加えれば、50万、100万円を超える学校は、もっと多くなると考えられます。
さらに、こちらはPTA会費の年額を尋ねた結果です(回答数92)。2~3千円台のところが約6割ですが、なかには5千円や1万円を超えるところもときどきあります。
なお、学校が「寄付」を受け取らない東京都は、3千円未満が半数弱と、PTA会費も額が低い傾向がありました。
*「寄付」以外の方法を
「寄付」に問題があるとはいえ、学校に予算が足りないのは事実です。「寄付」がなくなったら、その分をどうすればいいのか? 強制的に集めなければ「寄付」の続行もありかもしれませんが、ただし「寄付」を学校運営の前提にしている限り、強制は起きそうです。こういったことを考えるとやはり、本特集で紹介している各種方法(*)で資金調達を試みるのがよいのではと思われます。
- *市教委や県教委への交渉、無駄な支出のカット、企業やNPOの活用、クラウドファンド、等々
保護者や地域住民は、公費を拡充させるよう市議会等に働きかける必要もあるのではないでしょうか。PTA役員の人たちは、校長から「学校はお金がないんですよ」と言われると、すぐにお金やモノ、保護者の労働力を差し出しがちですが(無意識に恩を売りたい気持ちもあるかもしれません)、これではいつになっても公費はつかず、永遠にサポートし続けなければなりません。学校も保護者に気を使い続けることになってしまいます。
あるいは保護者は「寄付」の代わりに、学校の支出を減らす方向に働きかける必要もあるかもしれません。日本の学校は、保護者や地域住民との関係のなかで、本来学校の業務とは言い難いグレーな業務(例/部活動や一部の行事等)を膨らませ続けてきましたが、保護者側からやめるよう働きかけないと削減は難しそうです。あるいは少なくとも、学校側が「やめる」と判断した際には理解し、邪魔しないことが求められるように思います。
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<参考 関連する法令>
◎学校教育法
- 第五条 学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学校の経費を負担する。
◎地方財政法
- 第二十七条の三 都道府県は、当該都道府県立の高等学校の施設の建設事業費について、住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、その負担を転嫁してはならない。
- 第二十七条の四 市町村は、法令の規定に基づき当該市町村の負担に属するものとされている経費で政令で定めるものについて、住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、その負担を転嫁してはならない。
◎地方財政施行令
- 第五十二条 法第二十七条の四に規定する経費で政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
- 一 市町村の職員の給与に要する経費
- 二 市町村立の小学校、中学校及び義務教育学校の建物の維持及び修繕に要する経費