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ソレダルの重要性とは。この町がロシア軍の手に落ちると、バフムトはどうなり、ウクライナ戦況はどう動くか

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

ソレダルで、ドニプロに避難して家族と合流しようとするテチアナ・ホンチャロワさん (67歳) を支援する BASE UA のボランティア。2022年12月29日。

バフムトで大変厳しい戦闘が行われているのは、周知のとおりである。

「最も血生臭い戦線」との描写は、複数のメディアで目にしている。

戦線が動きにくい塹壕戦になっており、それは第一次世界大戦という、人間史上初めての大量殺戮が起こった戦争の暗い歴史を、ヨーロッパ人に思い起こさせるものだ。

このバフムトの隣町が、ソレダルという所である。北東わずか10キロの所にある。

5月中旬からワグネルの民兵(傭兵)が激しい戦闘を繰り広げている。

ウクライナ軍は塹壕戦に埋もれながら抵抗し、ほとんど譲ってこなかったが、ここ数日、ワグネル民兵とチェチェン連隊の支援を受けたロシア軍が、バフムトとソレダルで進撃しているという。

前線の町ソレダルから攻撃のために煙が上がっている。バフムトから見た光景。1月5日。
前線の町ソレダルから攻撃のために煙が上がっている。バフムトから見た光景。1月5日。写真:ロイター/アフロ

ソレダルでは、「ウクライナ軍は2日間撤退を余儀なくされ、町の半分弱を支配しているだけと言われている」と、この紛争に近い観察者が付け加えている。彼によると、「ロシア軍はさらに北のクラスノポリフカと南のソレダルとバフムトの間の空間全体に押し寄せている」という。『ル・フィガロ』が伝え

このことは、ウクライナ側も認めている。

ハンナ・マリアー国防副大臣は、1月9日、ロシア軍は、バフムト攻勢のために長年の目標であったソレダルの町の攻略を再び試みたと報告した。

「ワグネル・グループの最高の予備軍で編成された多数の突撃隊」を投入して損失を回復したとも述べている。

ウクライナ側は、ロシア軍が戦術を変更して、部隊を再編成して追加移送したために、ソレダルへの新たな攻撃は強力なものになると予想している。『キーウ・インディペンデント』が報じ

アメリカのシンクタンク・戦争研究所も、ワグネルのトップ・プリゴジン氏が、1月9日、ワグネルグループの部隊がソレダルで地盤を固めていると強調していること、ワグネルの戦闘員が現在「市行政の建物のために激しい戦い」を繰り広げていると指摘したと報告している。

ソレダルには、大きな塩鉱山がある。

ソレダルという町名は、文字通り「塩を与える」という意味だという。国営企業アルテムソルが年間約700万トンの塩を採掘している。

ソレダルの町にある深さ288メートルの塩山につくられたコンサートホールで演奏するドンバス交響楽団。2004年10月2日。
ソレダルの町にある深さ288メートルの塩山につくられたコンサートホールで演奏するドンバス交響楽団。2004年10月2日。写真:ロイター/アフロ

バフムトやソレダルを含むこの地域全体は、塩だけではなく、石膏、粘土、チョークなどの豊富な鉱床もある。

アメリカのシンクタンク・戦争研究所は、傭兵集団ワグネルのボスであるエフゲニー・プリゴジンが、この地域の鉱山から塩や石膏を採取して、財政目的にしようとしていると推定している。

これは、ワグネルの民兵がアフリカでやり慣れている方法だという。ホワイトハウス関係者の話として伝えている。

位置の戦略的な重要性

バフムトとその周辺は、2つの主要道路が交わる、物流と鉄道の重要な分岐点である。何より、バフムトの陥落は、ウクライナ人にとって不可欠な都市であるスロヴィアンスクとクラマトルスクへの道をロシア軍に開くことになるという。

その意味で言えば、ソレダルが陥落すれば、バフムトのウクライナ軍は北、東、南からのロシア軍との挟撃戦に巻き込まれることになる。

しかし、「バフムトは、数ヶ月の砲撃で廃墟になってしまっていますが、そこを占領しても、ロシア軍は、高地と、クラマトルスクに向かう新しいウクライナ軍の防衛線に直面するために、決定的なものはもたらさないでしょう」と、軍事史家のセドリック・マス氏は、フィガロ紙にコメントを寄稿した。

バフムトの今

バフムトはどうなっているのだろうか。

「ロシア軍は街の東側で少し前進して、南側でも前進したようである。特に南西の作戦は成功し、バフムトとクリチフカ(Кегичівка)の南の間の地域を占領した後、この最後の地域を包囲したのだろう」と、戦術・地政学専門家のオリビエ・ケンプフ氏は週報で述べている。

ドネツク州の親ロシア派分離主義者は1月9日、バフムトの近くの村「バフムトスケ(Бахмутське)」を制圧したと発表し、町を「解放」したと述べた。一方でワグネルは、先月に既に、ワグネルの手によって「解放」されていたと、SNS上の声明で述べている。

人道支援組織「UAフューチャー」は、地下シェルターに住む子供たちにクリスマスのプレゼントを届ける。1 月バフムートで。オレクサンドラちゃん (3 歳) と姉のクリスティナちゃん (4 歳) 。
人道支援組織「UAフューチャー」は、地下シェルターに住む子供たちにクリスマスのプレゼントを届ける。1 月バフムートで。オレクサンドラちゃん (3 歳) と姉のクリスティナちゃん (4 歳) 。写真:ロイター/アフロ

このあたりも、よくわからない複雑な話である。

最近、ロシアは、ドネツクとルハンスクの「分離主義者」の兵力を、正式にロシア軍に編入するのが完了したと発表したはずである。

ロシアとしては、公式にドネツクとルハンスクを9月に国土として一方的に併合した時から、当然の経緯ではある。

このことは小さなニュースだったが、ある種の感慨をもたらした。

2014年のクリミア併合から、ロシアはウクライナ東部の「分離主義者」を、彼らが自発的にロシアのために紛争を行っているのであり、さも自分たちとは別個の直接には関係のない存在であるかのようにして、独仏を含めた政治交渉を進めてきたからだ。

ワグネルとロシア正規軍との複雑な関係はよく報じられているが、そこに分離主義者の軍(民兵?)も加わって、いっそう複雑化しているようである。

ウクライナ軍の苦戦

1月8日、ゼレンスキー大統領は、当面の間、バフムートとソレダルは「どんなことがあっても持ちこたえる」ことができると宣言、さらなる部隊派遣を約束した。

この地域での戦闘の重要性を証明するように、ウクライナ地上軍司令官オレクサンドル・シルスキーは同日にバフムトとソレダルを訪れた。この戦線に従事する戦闘員たちを激励し、前線での現在の状況について、バフムートとソレダーを守る部隊の司令官と話し合った。

フェイスブックの投稿で「作業中に、実際的な提言がなされて、防衛能力を強化するためのさらなる行動が決定されました」と述べている。

ウクライナ軍地上部隊による、フェイスグックの投稿。
ウクライナ軍地上部隊による、フェイスグックの投稿。

同日、東部ウクライナ軍のセルヒィ・チェレヴァティ報道官は、ロシア軍はソレダルを支配していないと断言した。

戦争研究所が引用したウクライナの公式情報では、自国軍がバフムト付近のロシア軍陣地をいくつか奪還したとも伝えている。

(戦争研究所の情報は素晴らしいが、すべてではないし、この研究所はこの研究所の立場でものを言っている。バフムトの地理上の戦略的価値には重きを置いていなかった)。

バフムート郊外で、ロシアによる攻撃の中で、迫撃砲弾をロシア軍の陣地に向けて発射する前に準備するウクライナ軍人。 2022年12月30 日。
バフムート郊外で、ロシアによる攻撃の中で、迫撃砲弾をロシア軍の陣地に向けて発射する前に準備するウクライナ軍人。 2022年12月30 日。写真:ロイター/アフロ

しかし、残念ながらウクライナ軍が苦戦しているのは事実であるようだ。

クレミンナはどうなっているのか。あちらでウクライナ軍が勝利を確実なものにすれば、戦況はまたひっくり返るかもしれない。

◎参考記事:激戦地・補給路66号幹線道路の攻防。ウクライナの勝利が間近か

それにしても、この戦況の急激な変化である。クリスマスの休戦と言っているそばから、ワグネルの兵士の投入。もしかしたら地面が凍ったのだろうか。

比較的暖冬で霜がおりないために、地面がぬかるんで戦況は進みにくいと言われていた。

クリスマス(旧暦を使うので1月7日に祝う)の頃、寒波が襲ってきて、とても寒いクリスマスを過ごしているとのニュースがあった。東部でもマイナス10-12度くらいまで下がるとの予報だったので、何か戦況に影響を与えるのではと、ちょっと頭をよぎったのだが・・・。

最前線バフムートで、ロシアの攻撃が続く中、ELEOS正教会の慈善団体が提供する救援物資を求めて、避難所から出てきた人々。1月5日。
最前線バフムートで、ロシアの攻撃が続く中、ELEOS正教会の慈善団体が提供する救援物資を求めて、避難所から出てきた人々。1月5日。写真:ロイター/アフロ

しかし、やはりクリスマス停戦は真っ赤なウソだった。実に卑怯だ。だから、ロシア正規軍ではなくて、「ワグネルの民兵を大量投入した」とか「分離主義者が町を奪取したと発表」を強調したいのだろうか。

ドンバス地方のロシア占領地域(ロシアから見ると紛争→併合地域)の兵士は、「大砲の餌食」と呼ばれて、モスクワの政権に良いように使われてきた経緯がある。

町を奪取したのは、分離主義者の民兵という意味で、リスクを避けて、8日に停戦が終わった後の9日に発表という念の入れ方をしたのだろうか。

戦争の中にも最低限の秩序や人権はあるように、戦争の中にも人間としての信用の問題はあるのだ。

避難列車に乗るソレダルの住人オルハさん60歳。ドニプロで降車予定。1月8日。
避難列車に乗るソレダルの住人オルハさん60歳。ドニプロで降車予定。1月8日。写真:ロイター/アフロ

1月7日、クリスマスの36時間の停戦が宣言されても、ロシアのウクライナへの攻撃が続く中、枯れたひまわりに雪が見られた。
1月7日、クリスマスの36時間の停戦が宣言されても、ロシアのウクライナへの攻撃が続く中、枯れたひまわりに雪が見られた。写真:ロイター/アフロ

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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