動物病院で余命宣告を受けた元野犬。リンパ腫でも「この命を絶対に救いたい」と飼い主が取った行動とは?
98 /100元野犬のえるもちゃんは、リンパ腫になり動物病院から余命宣告を受けました。飼い主の「この子を絶対に救いたい」との思いで、遠方でも筆者の動物病院へ。保護犬でも、大切にされている様子を見ていきましょう。
首のところにゴロゴロしたものが見つかり近くの動物病院で診てもらうと、リンパ腫であり、そのうえ「治療しなかったら余命は1カ月、治療をしても1年」と宣告を受けました。
飼い主のYさんは、獣医師の言っていることをすんなりと受け入れることができず、寝ずにずっとネットで「リンパ腫」について検索したり知り合いに尋ねて、その結果、他府県である筆者の動物病院に来ました。
飼い主の「この子を絶対に救いたい」との熱意と治療の甲斐もあり、えるもちゃんは、いまのところ安定して、食欲もあり「遊べー」と催促するほどになっています。
えるもちゃんの母犬は野犬(後述説明)でしたが、なぜ、このように愛情たっぷりで治療してもらえる飼い主であるYさんと出会えたかを見ていきましょう。
Yさんは「生体販売には抵抗があったので保護犬を」
Yさんは、大きい犬が好きでいつか飼いたいと思っていました。Yさんは、飲食店を開業する計画があったので、この機会に犬を迎えようかと里親募集のサイトを見ていました。すると、上の写真にあるような顔(困り顔)で見つけてしまい、居ても立っても居られなくなりそのサイトの動物愛護団体に見に行くことになりました。
その動物愛護団体の人の話によりますと、えるもちゃんの母犬は、野犬だったということです。野犬は野良犬と違って、山に住んでいて人里にいる犬とは違って、自分で小動物などを食べて暮らしているのです。野犬も野良犬も飼い主がいないことは同じなのですが、人とは関係性を持たない犬です。
一方野良犬は、人の近くに住んでいて餌をもらったりしています。公園などで見かける犬が野良犬です。そして、以前、飼い犬だったけれど遺棄された場合も野良犬になります。
動物愛護団体の人が、子犬を産んだばかりの野犬を保護して、その子犬は人の手によって離乳が終わるまで育てて、里親募集に出されたのです。筆者は、治療で注射をしますが、えるもちゃんは「嫌だけれど、我慢している」との程度で噛んだり、暴れたりしません。「できたら、治療は早く終わってもらって、飼い主のところに行きたいのですが」という程度の治療のやりやすい犬です。
Yさんによりますと、えるもちゃんは「大きな音や騒々しい」ところは苦手ということです。筆者が想像するには、えるもちゃんは静かな環境で愛情一杯に育てられたのでしょう。
高速道路を使っても片道2時間はかかる動物病院へ
えるもちゃんは、近くの動物病院でリンパ腫という診断をもらい治療をしても1年しか生きられないと言われて、Yさんはえるもちゃんの保護先の動物愛護団体に相談しました。
すると、他府県だけれども、がんを中心に治療をしている動物病院があると筆者の動物病院を紹介されました。
それで、Yさんは、高速道路を使っても片道2時間はかかる筆者の動物病院へえるもちゃんと一緒に来ているのです。
筆者は、血液検査でわかる「リンパ球クローナリティ検査※」をしました。この結果からリンパ系の細胞が腫瘍化している、そして臨床的に体表のリンパ節が腫大していることから、えるもちゃんはリンパ腫と診断しました。
えるもちゃんは遠方なので、急変したときにすぐに来ることができる距離ではないので、近くの動物病院で抗がん剤の治療をしてもらい、筆者の病院は主に食事療法と免疫の治療をしました。定期的に注射やサプリメントを送ったりしています。
Yさんは、えるもちゃんの血液検査や抗がん剤治療の詳細をメールで知らせてくれています。それを見て、筆者はどのようにするか治療方針を考えています。
※クローナリテー検査とは血液のがんの一種であるリンパ腫などのリンパ系腫瘍では、構成される細胞群が均一なもの(クローナルである、といいます)かどうかを判別します。他の診断方法(病理検査、画像診断など)とともに確定診断の一助とします。
現在のえるもちゃん
えるもちゃんは、飲食店を経営しているYさんから、ビーツと紫キャベツを料理してもらい、もりもりおいしく食べているそうです。
Yさんからは次のようなメールが届きました。
「ごはん代も医療費もものすごいので楽しいことばかりではないですが
でもやっぱり、えるもは私たちにとってかけがえのない存在です。
本日も飲食店の営業中に庭でうろうろ
勝手に看板犬をやっていました。(また明日も)」
えるもちゃんの様子を知りたい人は、インスタグラム@drums.elmoで配信されています。
えるもちゃんは、ペットショップで買われた犬ではありませんが、リンパ腫という悪性腫瘍になっても遺棄されたり、治療放棄されたりすることなく、近くの動物病院と他府県の筆者の動物病院と2カ所を受診されて懸命に治療をしています。
野犬も野良犬も人間が終生飼育をせずに遺棄したために生まれた犬です。ひとりでも多くの人が、野犬や野良犬に関心を持ち、まず保護犬を迎えようか、という選択肢を持つ時代になれば、殺処分される犬の数はもっと少なくなることでしょう。