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失言、失言、また失言。それでも東京五輪に森喜朗は必要か

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
第一次森内閣発足の記念写真、2000年4月(写真:ロイター/アフロ)

20年も続く森喜朗の失言

 またも、森喜朗氏による失言です。森喜朗氏といえば失言、というぐらいに失言が多く、昨今も失言の多い政治家はいるものの、これだけの失言を世に放った政治家は、やはり森喜朗氏を置いて他にはいないのではないでしょうか。かつては「日本は天皇を中心とする神の国」「無党派は寝ていてくれればいい」「子どもを一人もつくらない女性」などといった失言を連発したほか、東京五輪組織委員長に就任してからも、「(ソチ五輪における浅田真央選手の演技について)大事なときには必ず転ぶ」「国民がどうしようかという時期に、なぜ調査」などといった失言が記憶に新しいところです。

なぜ森喜朗は「チェンジ」できないのか

 かつては内閣総理大臣をも務めた森喜朗氏は、なぜ今東京五輪組織委員長を務めているのでしょうか。早稲田大学時代にラグビーに明け暮れるはずが、縁あって雄弁会に入ったところから森氏の政治人生は始まりましたが、衆議院議員時代からもスポーツ振興に最も力を入れていた議員の一人であることは、永田町では有名な話です。スポーツ振興を所管する文部科学大臣にもなった森氏ですが、公職以外でも日本体育協会会長や日本ラグビーフットボール協会会長を務めたほか、2009年には、第9回ラグビーワールドカップ大会(2019年)の誘致に成功しました。招致委員会の評議会議長を務めたこともあり、海外のスポーツ関係者にもよく知られている日本スポーツ界の第一人者という点においては、国内での評価と裏腹に高い評価があることもまた事実でしょう。

 言い換えれば、国際世論の動向を注視しなければならないコロナ禍においても、組織委員会の屋台骨である森会長を代えることは、東京五輪開催のための体制をちゃぶ台返しするようなもので、再度の組織組み直しは相当難航するものとみられます。また、コロナ禍においてIOCバッハ会長との交渉パイプ役を担ってきたのも森会長であり、森会長に代わる人物を会長にした場合に、日本側の意見を正確に伝えられるだけのコミュニケーションをはかるだけの再度の信頼構築を、どの程度スピーディーに行うことができるのかなどの課題は尽きません。今後、大会延期に伴う費用の話や大会開催における観客の有無、またそもそも開催するのかどうかといった重要な議案が2〜3月に矢継ぎ早に決まっていくはずです。この状況下で、もはや森会長に代わる人物はいない、というのが組織委員会の本音でしょう。

 また、IOC(国際オリンピック委員会)からしても、森氏の辞職は避けたいところでしょう。すでに東京オリンピックに関する協議については、バッハ会長と森会長とのパイプラインが確立されており、コロナ禍において様々なステークホルダーが関与する中でも、最終的な意思伝達ラインは明確です。ところが、森氏が仮に辞職するようなことがあれば、後任の組織委員会会長を選任するには時間がかかることが見込まれます。

安倍・森ラインと清和政策研究会

 昨年3月の安倍内閣において、バッハ会長と安倍首相(当時)との「1年延期」を決定したテレビ会議の直前に、安倍首相が相談した相手も森会長でした。ここで森会長は安倍首相の考えであった「1年延期論」について、「2年ではなく本当に1年でいくのか」と述べたとされています。森氏の腹案は確実な開催が見込める「2年延期」であった一方、安倍首相が「1年延期」に賭けた構図となり、この安倍・森会談の直後、結果的に「1年延期」が決定したことは今に知る通りです。安倍首相が持病の再発により辞職した今、この「1年延期」という約束や決定過程を日本側で見守ることができるのも森会長だけであり、もはや代替は効かないというのが本音でしょう。

 安倍・森ラインの話に関連すると、清和政策研究会(細田派)の影響力も、森氏の辞職に繋がらない理由に挙げられるでしょう。安倍元首相・森元首相の出身派閥でもある清和政策研究会は「文部科学大臣」ポストの指定席としても知られ、2013年に東京五輪の開催が決定してからの文部科学大臣6人のうち、下村博文氏、馳浩氏、松野博一氏、柴山昌彦氏、萩生田光一氏と実に5人が今の細田派(旧:町村派)です(例外は安倍首相と同じ山口県出身の林芳正氏)。今でも党内でプレゼンスの大きい清和研を中心に、現体制を守ろうという動きがあることも、森氏を会長のまま据え置いている理由でもあります。

 ここまで色々述べてきましたが、森氏の失言は(何度繰り返されるとしても)到底許されるものではありません。これらを糾弾する様々な記事も出ていますが、一方で「代わりとなる組織委員会会長候補」という記事がほとんど出てこないのも、会長辞職・更迭の動きが弱い理由でしょう。組織委員会会長の選定プロセスにあたっては、当初財界などから選ぶところ、人選が困難を極めた結果、森会長に決まったという過程があります。コロナ禍という不景気の現状やそもそも開催するかどうかもわからないという不確定要素が多い中で財界関係者がこの要職を引き受けるとは考えにくく、また公職者が就任することも難しいでしょう。国際的な場における高度な政治力が要求されることを考えれば、選手OBなどから選任することも容易ではありません。いずれにせよ、この失言問題はこのままいったんは幕引きする可能性が高くなってきましたが、更なる失言や不測の事態に備え、組織委員会の体制をどうするのか、3月の開催可否最終決定までに政府も含めた対策が急務になります。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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