賃上げより「忍上げ」求める企業とは? 企業格差がさらに広がる恐れ
■賃上げより忍(にん)上げ?
「これじゃあ、賃上げどころか忍上げだ!」
ある部長が激しく憤っていた。
「さらに忍耐力を上げろと言うのか? 我慢にも限界がある」
無理もない。
「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」
そう岸田首相が発言すると、経団連会長をはじめ多くの経営者は賃上げに意欲を示した。
年初からこのような報道が相次ぎ、賃上げ気運は高まっている。にもかかわらず、
「もう少し様子を見たい」
と言葉を濁す社長がいるのだ。
業績が下降線をたどっているのなら仕方がない。ところが円安の追い風もあり、売上が過去最高を記録した。なのに、
「2023年も何が起こるかわからない。もう少し我慢してくれ」
と社員に「忍上げ」をお願いしたという。
このように賃上げよりも、社員に忍上げを求める企業はまだまだ増えそうだ。そうなると、さらに企業間格差は広がっていきそうな気がする。
好業績でも賃上げより忍上げに踏み切る理由はどこにあるのか? そしてなぜ企業間格差は広がっていくのか? 今回は「忍上げ企業」にスポットを当てて解説する。ぜひ最後まで読んでいただきたい。
■忍上げを求める社長は「リスク」を勘違いしている
賃上げムードが高まる中、そのムードをスルーする企業がある。コロナや原材料高のせいで業績が下降しているのなら仕方がない。
しかし業績がいいのにもかかわらず、賃上げする気がない。それどころか、さらなる忍耐を社員に求める「忍上げ」の企業もある。その多くが中小企業だ。
理由は2つある。
①リスクに対して勘違いをしている
②変化耐性が低い
まず①の理由について解説する。リスクに対する勘違いだ。リスクに関して正しく理解していない経営者は多い。
リスクとは大きく分けて2通りの意味がある。「危険性」と「不確実性」の2つだ。
情報セキュリティや労務問題を扱う場合のリスクは「危険性」という解釈でよい。いっぽう、企業の成長に繋がる可能性があるのなら「不確実性」と解釈すべきだろう。
たとえばセキュリティ対策や、労務問題を対処しなければ「危険性」しかない。だからリスクヘッジは必要だ。
賃上げはどうか?
「賃上げしたら、人件費が上がって収益がダウンする」
と言う経営者はいる。たしかに収益のダウンは危険だ。
しかし賃上げは収益を圧迫するだけでなく、従業員のやる気を促し、労働生産性をアップさせる材料にもなる。そこが「不確実」なだけである。この「不確実性」にどう対応していくのか。これこそが社長の手腕である。したがって、
「まだ不確実だから、様子見する」
というのなら、永遠に賃上げを決断できない。
■忍上げを求める社長は「変化耐性」が低い
①の理由は正しく知識を習得することで解決する(だから経営者は常に学び続けなければいけない)。
その点②の「変化耐性」は深刻だ。理屈では何ともならない。経営者としての資質、体質に関わることだ。
誰だって変化は怖い。現状維持バイアスは誰でもかかる。
しかし経営は「波乗り」のようなもの。絶えず大波、小波に見舞われるものだから、経営者は波の大きさ・強さを正しくキャッチし、経営の舵取りをしていかなければならない。
そういう意味で考えたら、賃上げは「想定の範囲内」の出来事だ。これぐらいの変化にビビッていては経営者は務まらない。
にもかかわらず、体が受け付けない。
「簡単に言いますけど、賃上げは大変なこと。もう少し様子見したい」
とついつい言ってしまう。まさに経営者の体質と言える部分である。
■なぜ大企業のほうが舵取りしやすいのか?
そう考えると大企業のトップのほうが、健全な舵取りをしやすいと言える。上場していれば株主、そうでなくても社会の目がある。従業員が多ければ、ネットへの書き込みも無視できない。常に変化を迫られ、独善的な意思決定もしづらい。
いっぽう中小企業の場合はどうか。実質的な権限が経営者に集中しているケースなら、経営者の資質や体質に委ねられる。
意外と厳しいのが、事業力があり、安定して経営ができている中小企業だ。長く安泰な時期が続いていると、知らぬ間に「ゆでガエル」になっている。そんな経営者も多くいる。
企業のサイズは関係がない。これからはリスクをとって変化に立ち向かう姿勢が重要だ。ますます「不確実性」の高い時代になっていくからだ。そうでないと、いつまでも従業員に「忍上げ」を求めることになる。
労働者の7割を占める中小企業。その中小企業が、どこまで賃上げに踏み切ることができるか。今後最も注目されるポイントである。
【参考記事】