舞台『西遊記』で中山美穂と紅二点の柳美稀 「考えないでやるほうが面白いと気づきました」
日本テレビ開局70年記念舞台として、11月から各地で公演中の『西遊記』。堤幸彦が演出、孫悟空役が片岡愛之助、三蔵法師役が小池徹平など重厚な布陣の中で、柳美稀が三蔵一行と関わる兄妹の妹・高翠蘭役で出演している。女性キャストは中山美穂と2人だけ。尖った役で名を馳せ、今年は主演含め4本の舞台に出演した彼女が、この大型スペクタクルにどう挑んでいるのか?
キツい口調が笑ってもらえるみたいで
――『西遊記』開演前のオスカープロモーションYouTubeチャンネルで、地方公演は「ごはんが楽しみ」と話されていました。大阪、福岡ではおいしいものを食べに行けました?
柳 大阪では時間がなかったんですけど、福岡では屋台も行ったし、水炊きもラーメンもうどんも食べました。特に水炊きはめちゃくちゃおいしくて、2回行ったんです。スープから最高で、一生飲んでいました(笑)。
――舞台自体はどんな手応えでした?
柳 ここまでコメディ要素が散りばめられた舞台は、私は初めてなんです。「笑わせようとしなくていい」と言われてましたけど、大阪のお客さんは観劇慣れしている感じで、福岡の方は温かくて、声を出して笑っていただけました。それだけに「ここで笑ってもらわないと」という気持ちがインプットされてしまって。初めての感覚かもしれません。
――翠蘭の笑わせどころも多いわけですか?
柳 笑ってもらえるところばかりです(笑)。若い女の子がキツい口調で話していると、お客さんは引いちゃうかなと思ったんですけど、やってみたら笑ってくださって。私はふざけるより、真面目にやったら面白いみたいです。皆さんのシリアスなシーンのあとに出ていって、フーッと心を休憩してもらえたらいいなと思っています。
――「日本テレビ開局70年記念舞台」で全70公演とか、規模も大きいですよね。
柳 私にとっては今までで一番大きいです。キャストの皆さまが大御所や舞台を第一線でやられている方々ばかりで、稽古からずっと緊張しています。神様みたいな方たちの足を引っ張らないようにしないといけなくて。
「カラオケで歌ってます」とは言えません(笑)
――主演の片岡愛之助さんや松平健さんと話したりもしているんですか?
柳 愛之助さんは一度、若手メンバーをごはんに連れて行ってくださって、やさしいお方です。健さんはなかなかお話しする機会がありませんけど、ちょっと話し掛けたら笑顔で返してくださって。あと、(中山)美穂さんは女神のようです。「こんなにも人を包み込める方がいるんだ」と感じたほどでした。
――会見では「女性キャストが2人でオイシイ」という話が出てました。
柳 オイシイですね。美穂さんと私の2人でビックリしましたけど。この舞台が決まって、両親の第一声が「ミポリンと一緒なの⁉」という(笑)。ずっと美穂さんを見ていた世代なので、「本当にすごいんだから」とプレッシャーを掛けられました(笑)。
――柳さんの世代だと、中山美穂さんはどんな存在ですか?
柳 80年代のトップアイドルですよね。私自身もその時代の方の歌をよく聴いていて、カラオケで『世界中の誰よりきっと』を歌ったりもしていたので、雲の上の存在です。ごはんを一緒に行かせていただいたときも「歌ってます」とは言えませんでした(笑)。
――一緒にごはんに行ったんですね。
柳 「お願いします」と甘えさせていただきました。マネージャーさんたちも一緒にお鍋に行ったんですけど、食べ方ひとつ取っても上品で素晴らしいなと。人格も何もかも完璧です。
「しゃべらなければいいのに」という役で演じやすくて
――昔の『西遊記』のドラマは知ってました?
柳 堺正章さんのほうを存じ上げてなくて、香取慎吾さんのほうが世代でした。もちろんお話は有名で知ってましたけど、開局70年記念でこんな大きな舞台だから、シリアスめになるのかと思ったら、全然そうでなくて(笑)。
――翠蘭役は指名が掛かったんですよね?
柳 何人か候補がいた中で、お声を掛けていただいた感じです。今年4月に出させてもらった『なんだコイツ』という舞台を、堤さんが観に来られていたみたいで。頭がブッ飛んだ役だったので、翠蘭のキャラクターに合うと思っていただいたのかもしれません。
――「しゃべらなければいいのにね」というところが、柳さん自身と重なるそうで(笑)。
柳 まさにそうですね。学生時代から、めちゃめちゃ言われていました。誉め言葉と取ってますけど(笑)、女の子らしさが一切なくてガサツだったので。翠蘭は思ったことは全部口に出す役で、すごく演じやすいです。
――柳さんも翠蘭のように毒を吐く感じだったんですか?
柳 そこは私と違います。私は言いたいことを飲み込んで、波風立てないタイプなので。思ったことをあれだけ相手に伝えられるのは、羨ましいです。台詞では、お兄ちゃんに「グズ」とか、猪八戒に「ブタ野郎」とか言わせてもらってます(笑)。
大御所の皆さんも笑ってくださって
――稽古から、翠蘭の演じ方に試行錯誤はありませんでした?
柳 最初はいろいろ考えもしたんですけど、これは考えないでやったほうが面白いと気づきました。大御所の皆さんも見ていて笑ってくださったので、感じたままを素直に出すのが正解かなと。
――本番でもそうしているんですか?
柳 ガチガチに決め込まず、相手の方の台詞の言い方も毎回変わるので、感じたままに返して成立しています。翠蘭=柳として、「私だったら」というところを全面に出している感じです。
――堤さんの演出は独特な感じがしますか?
柳 堤流みたいなものは感じました。お芝居に関しては大まかなことだけ伝えてくださって、細かいところは役者に任せられていて。演出では台詞の間やテンポを注意してくださいます。私は間を取りたくなるところで、もっと詰めるように言われることが多いので、そこは意識しています。お芝居をどうしようかと思ったときは、戸次(重幸)さんとか経験豊富な先輩方に聞いていました。
アクションは本番だと痛さが消えます
――アクションもあるんですよね?
柳 そんなに場面は多くないですけど、しっかりやらせてもらっています。
――『動物戦隊ジュウオウジャー』以来ですか?
柳 あのときは意外とアクションはやってませんし、7年前ですからね。普段も運動は、たまにパーソナルトレーニングに行くくらいでした。
――今回は中国拳法的な動きをするんですか?
柳 蹴りが多いです。衣装がヒラヒラしているので、脚を使ったほうが映えるということで。踏み込んで二段蹴りとか旋風脚とか、「素人ができるんですか?」と思って、めちゃくちゃ手こずりました。
――最初はどんな感じでした?
柳 1人でずっと蹴っていて、「全然できてない」と言われ、どうしたらいいのかもわからなくて。アクションをやられているアンサンブルの皆さんに教えてもらいながら、日々やり続けました。だんだん体のどこを使えばきれいに蹴れるのか、わかってきました。
――家でも練習したり?
柳 家だと狭くて、ものが壊れてしまうので(笑)、イメージトレーニングをしました。自分の動画を観て「この動きは気に入らないから、今度はこうしてみよう」とか「もっと腰を落とさないと」とか。
――体が痛くなったりもしました?
柳 なりました。膝裏とか腿とか、筋肉痛とお友だちになって(笑)。でも、本番が始まった瞬間、アドレナリンが出て、痛さがどこかに行っちゃうんですよね。人間の不思議なところです。
台詞を間違える夢を何回も見てます
――年末年始は地元の名古屋で公演があるのは、良かったですか?
柳 ありがたいです。今年は実家に帰れないかと思っていたので。公演が終わったら実家に行って、夜に会場近くのホテルに戻って、また公演をやって……という形になりますけど、お雑煮は家で作ってもらって、食べ尽くそうと思っています(笑)。
――ゆっくり休むのは東京公演まで終わってから?
柳 そこまで乗り切らないと、なかなか心が休まりません。福岡公演から名古屋公演までの間も、舞台のことを考えないようにしても夢に出てくるので(笑)。台詞を間違えるという怖い夢を何回見たことか。
――それは舞台に出ると、よくあることなんですか?
柳 今回が初めてです。稽古中は毎日疲れ果てて熟睡してましたけど、たぶん名古屋公演まで稽古もないので、忘れるのが怖いんだと思います。台本を見ても、台詞がいっぱい変わっているので意味がなくて。名古屋公演が近づいてきたら、動画を観て「こうだったな」と頭を整理します。
イクラが常に家にある状態にしています
――今年1年を振り返ると、柳さんの中でどんなことが大きかったですか?
柳 ゲーム実況のチャンネルを開設させていただいたのは、長年の念願だったので、一番大きいですね。最近は配信できていませんけど、リアルタイムでファンの方とお話しできて、距離が近づきました。素の柳で好き放題やって、純粋に楽しんでいます。
――仕事以外で思い出になったこともありますか?
柳 今年は舞台一色でしたからね。1年で4本もやらせていただいて、気づいたら年明けから春が来て、夏が終わり、冬が始まって。一瞬で季節が過ぎていった感じ。室内にいることが多くて、あまり四季を感じられませんでした。ただ最近、筋子を近くのお魚屋さんで一気にふた腹とか買って、イクラのしょうゆ漬けにして食べて、秋を感じました。
――急にイクラに目覚めたんですか?
柳 昔から大好きでしたけど、近所で売ってるとは知らなかったんです。今は家に常にイクラがある状態をキープしていて、『西遊記』の稽古中もずーっと食べていました。「ただいま」って帰ってきたら、スプーンでひと口。「海の宝石だ」と言いながら、最高ですね(笑)。
――それで大変な稽古も乗り越えたと。
柳 やっぱり食べ物は幸せになるひとつの手段です(笑)。
人を不幸にする役をやりたいです(笑)
――新年の目標は立てるタイプですか?
柳 あまり立てません。強いて言うなら、あまり気負わず自分らしく、今を生きていこうと。
――具体的な何かに向かって、ガムシャラにやるというよりも。
柳 いただいたお仕事はひとつひとつ、しっかりやっていきます。どれだけしんどかろうが、ちゃんとやるぞという気持ちでいます。
――今年もしんどいことはありましたか?
柳 そうですね。『SHINE SHOW!』が終わって『西遊記』の稽古に入るまでが短くて、休んだ感覚はほとんどなく、ちょっと大変な感じはしました。でも、楽しさのほうが勝っていて。お客さんが笑って楽しんでくれると、頑張ってきて良かったと思います。
――来年も舞台が中心になりそうですか?
柳 どうですかね。舞台が多いのはとてもありがたいですけど、映像も頑張りたいです。
――前回の取材では「不倫相手を奥さんから奪う役をやりたい」とのことでした。
柳 それは変わりません。いじめる役、人を不幸にする役をやりたい(笑)。実際の柳美稀の人生では、不倫も人を不幸にすることも一切やる気はなくて、みんな幸せであれと思ってます。
魔法は使えるようになるはずです
――年明けには『西遊記』の東京公演も始まります。
柳 福岡公演までで、まだ70公演の半分も終わってないのが衝撃でした(笑)。最後に控えた東京公演はヤマ場。寒くなってくるので、体が堅くなったりしないように、改めて気を引き締めていきます。
――千秋楽まで完走したら、何かしようと考えていますか?
柳 ちょっと旅行しようかなと。姉とUSJに行く話を進めています。なぜかと言うと、『モンスターハンター』の20周年記念のアトラクションが3月から始まるので。絶対に狩りに行かなければと、使命感に駆られています(笑)。あと、『ハリー・ポッター』も大好きなんです。
――オスカーチャンネルで「イギリスで聖地巡礼をしたい」と話されてました。
柳 私はホグワーツ魔法学校の入学届けが、手違いでまだ来てないだけだと思うので、魔法は使えるようになるんですよ(笑)。『ハリー・ポッター』好きは芸能界にもめちゃめちゃいるから、DVDもいっぱい観返して、もっと極めて、来年は仕事にも活かせたらいいなと思います。
Profile
柳美稀(やなぎ・みき)
1997年8月24日生まれ、愛知県出身。2016年にドラマ『動物戦隊ジュウオウジャー』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『ふたりモノローグ』、『賭ケグルイ』、『インベスターZ』、『24JAPAN』、映画『刀剣乱舞‐黎明‐』、舞台『世界でいちばん美しい~鎌倉物語~』、『なんだコイツ』など。
日本テレビ開局70年記念舞台『西遊記』
2023年12月27日~2024年1月2日 御園座
2024年1月6日~28日 明治座