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快進撃が止まらない新入幕・翔猿に優勝の予感? 大混戦の秋場所を盛り上げる平幕力士たち

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

新入幕で優勝の予感!?

入門から約5年半。今場所新入幕の翔猿(追手風部屋)の勢いが止まらない。

十日目は、上背のある竜電との対戦。立ち合い低く当たって右下手を差すと、左からおっつけて相手にまわしを取らせない。前への圧力を加えながら2回出し投げを打ち、さらに攻め込みながら、最後は見事に下手投げが決まった。常に上体を起こさず、相手の形にさせない素晴らしい相撲で、この日堂々の勝ち越しを決めた。

取組後、勝ち越しのインタビューでは、まだ肩を弾ませながら受け答えした。

「体が動いて、結果的に自分の相撲を取れていたのと、気持ちが前に出ていてよかったと思います。(幕内で相撲が取れることは)いままで見ていた人と取れるからうれしいですね。二桁を目指して、一番一番集中して頑張ります」

ここまで、負けた相撲も含めて、非常に彼らしい、いい相撲が取り切れているように見受けられる。2敗の優勝候補が少しずつ離脱していくなか、さわやかな笑顔で先頭を走る。

新たな小兵力士の台頭に期待

現在十両の兄・英乃海の影響で、小学1年生から相撲を始めた。小学生までは、相撲だけでなく野球や水泳にも取り組み、さまざまなスポーツに親しんで運動センスを磨いてきた。

中学から相撲一本に絞ると、埼玉栄高校、日本大学と、名門の相撲部で稽古を積んだ。小さな体で土俵を大きく使い、すばしっこさと持ち前の運動神経で大柄な相手にも果敢に向かっていく姿が、アマチュアの頃から印象的だった。

昔から明るく、少しやんちゃな性格が魅力の28歳。174cm、120kgと、決して大きくはない体だが、埼玉栄高校の同級生である北勝富士をはじめ、同世代の活躍には鼓舞されてきただろう。まさに「翔猿」の四股名の通り、猿のように土俵上を飛び回り、光る運動センスで国技館を沸かせてくれている。新たな小兵力士の登場と同時に、新入幕による優勝争い。もしも新入幕で優勝となると、なんと106年ぶりの快挙になるそう。翔猿の活躍が、相撲界がますます活気づく契機となるか。非常に楽しみな存在である。

平幕力士が大活躍

翔猿のほかに、8枚目の若隆景、9枚目の阿武咲も、十日目で勝ち越しを決め、優勝争いに食い込み続けている。若隆景は、柔らかい体と強い足腰をもつ21歳の琴勝峰に対し、引かれても足を出して前に落ちず、左からおっつけながら押し込み、左のまわしを取ると同時に前へ出た。

取組後、「集中して相撲を取れました。引かないように相手の下手を殺しながら前へ出ようと思いました。一日一番頑張ります」とコメントしている。

阿武咲は、大関経験者の高安を相手に思い切りぶつかり、相手が少し引いたところをすかさず前に出る。そこから素早くはたき込み。気合の乗ったいい相撲だった。

今場所は元来の元気な相撲を見せている阿武咲だが、先場所は初日から13連敗と苦しい場所だった。「これ以上つらいことはないと思って、できることはひとつひとつやっていこうと取り組んできました。原点に戻って、また一から積み上げてきて本当によかったと思います。明日からも、自分のやることは変わらないので集中して頑張ります」というコメントに、目頭がじんわりと熱くなる。

十一日目の今日は、2敗同士の翔猿と阿武咲が対戦する。先頭を走る二人が当たるのは、いささかもったいない気もするが、本調子の二人のぶつかり合いは、星勘定を除いても必見といえるだろう。

―十日目終了現在の結果―

2敗=貴景勝、正代、若隆景、阿武咲、翔猿

3敗=朝乃山、照ノ富士

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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