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消費増税撤回を問うて、衆参ダブル選挙!?

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
安倍晋三首相は、衆参ダブル選挙に打って出るか(2016年参議院選挙時の安倍首相)(写真:アフロ)

今年末までに取りまとめられる2019年度予算政府案は、2019年10月に消費税率を10%にすることを前提に編成作業が進んでいる。税率引上げ後の消費の反動減対策をどうするか、プレミアム商品券とかキャッシュレス決済でのポイント還元とか、議論がたけなわだ。

今年末に来年度予算政府案を閣議決定すれば、予定通り2019年10月に消費税率を10%にすることを、安倍晋三首相も認めたことになる。それまでは、いつ増税を撤回するかわからない。

他方、安倍政権は来夏衆参ダブル選挙に打って出るとの噂が、最近出回っている。しかも、消費増税を撤回することを理由に、来年夏の参議院選挙時に合わせて衆議院を解散するという噂である。

ただ、今年末までに衆参ダブル選挙(つまり衆議院の解散を来年夏にすること)を宣言することはできまい。解散を宣するにしては早すぎる。2019年6月28日・29日にはG20サミットを大阪で開催するという、安倍首相の晴れ舞台を、解散を宣して(衆院議員の議席がなくなる)宙ぶらりんの首相として迎えるわけにはいかない。

2019年度予算の審議は、2019年1~3月の通常国会で行われる。衆議院の解散を宣言してから、その予算審議に臨むことなどてきない。解散を宣したなら、予算審議は選挙を終えてからだ、と野党からいわれ審議を拒否される。ましてや、2019年春に衆議院選挙をすれば、ダブル選挙ではなくなる。

ダブル選挙にすると宣するにしても、来年4月以降(7月選挙なら6月頃)だろう。

その時、もう既に消費税率を10月に10%に決めた予算が執行されている状況で、消費増税の見直しを問うてダブル選挙に打って出ることは、実務的に無理である。

それはなぜか。

来年4月1日になれば、新税率適用開始まで6か月を切っている。消費税制には、経過措置がある。この経過措置により、住宅の請負工事や予約販売する書籍や通信販売などで、6か月を切って新税率適用後に商品の授受が行われる契約は新税率にしなければならない。だから、2019年10月に10%になると決まっていて、4月に入れば、10月1日以降に商品の授受が行われる契約は、10%の税率を前提に契約を結ばなければならない。

だから、そんな契約が既に結ばれている中で、衆議院を解散する口実に消費増税を撤回する、と言われれば、商取引が大混乱する。仮に撤回を宣言しても、法改正が必要だ。現行法では、消費税率は2019年10月に10%になると書かれている。法律が変わっていない段階で、企業が勝手に、早合点して税率は10%ではなくなったことを前提とした契約を結ぶわけにはいかない。消費税率を10%にしないという法律を変えるにしても、選挙の後にしかできない。

来年4月以降に、消費増税撤回を問うて、衆参ダブル選挙をすることは、事実上不可能だ。

ちなみに、消費増税の先送りを表明したのは、過去2度とも新税率適用開始予定日の6か月以上前だった。安倍首相が、2015年10月に予定されていた引上げを延期すると表明したのは2014年11月。2017年4月に予定されていた引上げを再び延期すると表明したのは2016年6月である。安倍首相は、消費税の経過措置をご存じなのだ。

来年の通常国会に提出する2019年度予算政府案を、会期中に撤回するなら別だが、それは政権の責任問題に発展する。消費税率を10%に上げることを盛り込んだ2019年度予算政府案を今年末に閣議決定すれば、それで予定通りの消費増税は確定といってよい。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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