Yahoo!ニュース

三田佳子さんの次男・高橋祐也君の裁判と、新たに逮捕された容疑者と交わした会話

篠田博之月刊『創』編集長
前回の初公判めぐる報道

 12月13日、高橋祐也被告への判決の前に、私のところへもテレビ局などから取材が入った。逮捕後の祐也君に会ってやりとりしているのはメディア関係者では私だけだからだが、実は私は、祐也君に薬物を渡したとして12月7日に逮捕された境谷誠容疑者とも面識があり、祐也君の逮捕後にも彼と話している。祐也君の判決後の報道で、境谷容疑者についての報道もなされると思うので、ここで実情を書いておきたいと思う。それと、週刊文春デジタルが公開した、沖縄での祐也君の動画についても、コメントしておきたい。

 今回、テレビの報道が境谷容疑者を実名報道どころか送検時の動画まで公開していることについては、ちょっと疑問も感じているのだが、ここだけ匿名にする意味もあまりないので、とりあえず実名で書くことにしよう。恐らく警察は薬物ルートを解明しようと逮捕に踏み切ったのだろうが、今後、起訴まで行けるかどうかについては今のところ不明だ。祐也君の逮捕から3カ月経っての逮捕というのは、正直、どうして今頃?という気もしたが、警察がどの程度証拠を押さえているのか、あるいは自供目当てでとりあえず逮捕したのかわからない。きっかけは祐也君が境谷容疑者から薬物をもらったことを供述し、11月29日の初公判でも認めたことなのだろう。ただ普通に考えて、境谷氏もこれだけ時間が経てば、ガサ入れに備えて証拠は全て処分しただろうし、立件は思われるほど簡単ではないかもしれない。

 私が境谷氏と初めて会ったのは、この春、スナックで祐也君とかなり長い時間、話をした時のことだ。この間の報道でバーとされている、実態はスナックに近い飲み屋でのことだ。店は、祐也君と境谷氏が共同経営していた会社が所有していたもので、その店で初めて境谷氏を祐也君に紹介された。今回、元関東連合と報道されているのを見て、かなり怖い男性を想像する人が多いと思うが、会った印象はなかなかしっかりした人物で、むしろ祐也君に「もっとしっかりしなきゃだめだ」と説教する立場だった。

 祐也君は法廷証言で報じられているように、昨年、奥さんが子どもを連れて家を出てしまい、家族に会えない寂しさに耐えかねて薬物に手を出すことになってしまった。その時に、薬物を渡したのが境谷氏だったというわけだ。もしかすると、落ち込んでいる祐也君を見て、手をさしのべたのかもしれないのだが、冷静に考えれば、へたをするとそれが祐也君を破滅に追い込みかねないのは明らかだ。結局、祐也君は苦しい現実から逃避するために薬物にはまりこんでいくことになった。

 私が、境谷氏が祐也君に薬物を渡した人物だと理解したのは、祐也君に2度目に接見した時に、薬物入手ルートを尋ねたところ「同僚から」という返事がなされた時のことだ。その日、祐也君の父親も接見に訪れており、詳しい話を聞いた。

 実は私はその時まで、祐也君が境谷氏から薬物を渡されたと供述していたのを知らずに、9月11日、祐也君逮捕のすぐ後に、境谷氏に連絡していたのだった。その時点で私は、祐也君に接見禁止がついているだろうと勝手に思い込んでいたので、まず祐也君と親しい彼に、逮捕に至る状況を聞こうと思ったのだ。

 その後、境谷氏から返信メールがあって、電話で話したのは9月21日だった。境谷氏は捜査が自分に及ぶ可能性を知っていたわけだから、今思うとよく私に連絡してきたなという感じだ。私が祐也君に接見していることを知って、祐也君がどんな供述をしているか知ろうとしたのかもしれない。だからその時、彼と交わした会話は、後で思うとなかなか微妙な内容だった。

 私は祐也君の逮捕で可哀そうなのは8歳になる彼の子どもだ、という話をしたのだが、それに対して境谷氏は「そうですよねえ。僕の子どももテレビで彼の映像を見て、『あ、○○ちゃんのお父さんが映ってる』と言ってましたから」と語っていた。その後彼自身も逮捕されてしまい、彼の子どもがその映像を見てどう思ったか考えると何とも複雑な思いになる。

 境谷氏逮捕については下記の文春オンラインの記事がわかりやすく書いている。記事中の「三田家の知人」というのは私ではないから誤解なきように(笑)。私はこの事件に関して週刊文春の取材は受けていない。

http://bunshun.jp/articles/-/9978

 祐也君逮捕以降のこの薬物事件の報道で、一番よく取材して事実関係に踏みこめているのは『週刊文春』だと思う。ただしその週刊文春が、デジタルで公開した沖縄での祐也君の動画については少々思うところがあるので書いておこう。

 この動画、テレビでも公開された。

https://www.nicovideo.jp/watch/1543339502

 この動画がどういう状況下で撮影されたかというと、祐也君は保釈された翌日、沖縄に飛び、そこの薬物依存克服のための民間団体「ガイア」で生活している。もちろん治療の一環としてだ。ガイアは、もともと「ダルク」から独立した人物が主宰している団体だが、実は祐也君は前の逮捕事件の後も、ガイアで治療にあたった。その時、沖縄の自然のもとでトレーニングやマラソンなどをして汗を流した体験が気に入っていたようで、今回もガイアで治療を受けようということになった。

 週刊文春デジタルが公開した動画は、治療中のイベントで、祐也君が周囲に冗談を言ったりしてふざけているシーンをスマホで撮影したものだ。イベントは、ガイアが他の団体と合同で行ったもので、初対面の人も多かった。

 ダルクやガイアなどの団体は、薬物依存者の相互扶助組織で、いわば元薬物犯罪経験者の集まりだ。それゆえ薬物をイメージするような冗談も交わされる。その一断面をとって、こいつらはまだ薬物への反省が足りないと指弾するというのは、何だかなあという感じだ。しかも、その動画を撮って雑誌に売り込んだのが同じく薬物依存治療に参加していた人だったというのも残念だ。

 イベントに参加してみたら、思いがけずマスコミで話題になっている三田佳子の息子がいたので、それをスマホで映して週刊誌に持ち込んだということなのだろう。週刊文春デジタルは、反省の足りない祐也君を告発するといった大義名分を掲げているが、たぶん撮影し人たが「週刊文春」にそれを持ち込んだ動機は単純なものだろう。

 治療中のふざけている場面をこんなふうに隠し撮りして週刊誌に持ち込むといった行為がなされると、どう考えても参加者は治療に専念できなくなる。薬物依存治療にとってマイナス以外の何物でもない。この動画をテレビも使用していたが、そのあたりのことをよくよく考えてほしい。

 祐也君はこの沖縄でのガイアの生活が気に入ったらしく、事件について決着がついたらいずれ沖縄に住んで、ガイアの仕事に関わっていこうかと言っている。私が関わって裁判で情状証人にもなった田代まさしさんも、今はダルクの仕事に従事し、自分の体験を踏まえて薬物依存治療のサポートをしている。祐也君も今後の更生をかねて、ガイアのスタッフとして働くというのも、良い選択肢だと思う。

 週刊文春には私は日頃から、その取材力に敬意を表しているのだが、今回の動画公開には率直に言って疑問を感じる。薬物依存治療中の人をこんなふうにさらしものにすることに正義や大義はないように思えるからだ。確かに動画を見ると、情けない姿にも見えるが、祐也君も前回の公判での証言など、彼なりに心の内をさらけ出して率直に対処しようとしているように思う。

 祐也君が沖縄で治療に従事してきた過程で、一番うれしかったのは、離れていた妻と子どもが会いに来てくれたことだという。もしかすると三田さん夫妻の思いやりによるサプライズだったのかもしれない。ダメと分かっていながら薬物に逃避したことでもわかるように、祐也君は、突然子どもと会えなくなってしまったことに精神的にかなりのダメージを受けていた。だからこういう状況下で、子どもが会いに来てくれたことは何よりもうれしかったに違いない。

 この記事を書いているのは12日夜だが、社会的注目を受けている裁判だけに、裁判所もどういう裁定をくだすか、あれこれ考えているに違いない。薬物依存対策が、昔のようにただ刑務所にぶちこんでおけばよいという原始的な対処でなく、刑の一部執行猶予を含めて、何とか治療に専念させて少しでも再犯防止につながるようにするという方向に、司法を含めて大きく舵が切られつつある。そのことが社会的メッセージとして少しでも伝わるような裁判所の判断を期待したい。

 薬物依存というのは、本当に深刻な社会的問題だ。今回の騒動をきっかけに、社会が少しでも薬物依存に理解を深め、他人事でなく多くの市民が一緒に薬物依存にどう対処すべきか考え、議論してほしいと思う。

なお、祐也君の今回の事件については既に3本、ヤフーニュースに記事を書いている。下記にリンクを貼ったので参照していただきたい。

 

三田佳子さん次男の高橋祐也君に20年間つきあってきた者として今回の逮捕に感じた痛み

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20180913-00096644/

三田佳子さんの次男、高橋祐也君保釈騒動。接見したその日に渋谷警察署前で見た光景

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20181008-00099761/

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20181011-00100100/

三田佳子さんの次男、高橋祐也君「保釈」騒動の最中に本人から掛かってきた電話

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

篠田博之の最近の記事