配信や映画との連動で戦略的意味が増している民放各局のドラマの現状を追った
2025年1月2日、2024年の年間視聴率(2024年1月1日~12月29日)についてテレビ朝日が開局以来初めて、個人視聴率で三冠王(全日・ゴールデン・プライム)となったことが発表された。テレビ朝日の好調ぶりについては、午前から午後にかけての情報番組の快走が大きな要因で、これについては下記記事に書いた。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/142af3fcef3465b668db56e974073abed6d59d4e
情報番組ぶっちぎり快走のテレビ朝日『グッド!モーニング』日曜進出と『有働Times』の狙い
そしてもうひとつ、秋以降のテレビ朝日の好調ぶりを大きく牽引しているのがドラマの強さだ。2024年は年末に『劇場版ドクターX』公開もあり、例年以上に盛り上がった。
ドラマは近年、配信の再生回数も多く、リアルタイムだけでないストックコンテンツとしても重視されている。各局とも深夜を含めて、ドラマの本数を増やし、注力している。それらテレビドラマをめぐる2024年秋以降の現状を追ってみよう。なおNHKについては、大河ドラマを中心に下記記事に書いたので参照いただきたい。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/99d27df9a77a0171df5ca0d32535fb82688c09a0
NHK「放送100年企画」の目玉でもある大河ドラマ『べらぼう』についてプロデューサーに聞いた
秋改編のテレビ朝日ドラマが絶好調
秋の改編ではテレビ朝日のドラマが好調だが、2024年もそうだった。秋改編時の民放ドラマ視聴率ランキングで見ると、トップが『相棒season23』、2位が『ザ・トラベルナース』と、同局がトップ2を占めている。コア視聴率といった別の指標を使うとランキングは変わってくるのだが、いずれにせよ、テレビ朝日のドラマが絶好調であることは間違いない。
テレビ朝日コンテンツ編成局の三輪祐見子ストーリー担当局次長に秋改編の連続ドラマの現状を聞いた。
「盤石なラインナップになっていると思っています。水曜21時の『相棒season23』は民放連続ドラマ1位でスタートしているし、木曜21時の『ザ・トラベルナース』もそれに次ぐ勢いです。このドラマは今回がシーズン2ですが、前回視聴率も評判も大変良かったので、もう一度放送しようという話になりました。
火曜21時の『民王R』は、主演の遠藤憲一さんの好演が大きな話題となっています。
23時台の金曜ナイトドラマの『無能の鷹』は、初回見逃し配信数が213万回という同枠で最高の数字を記録しました。土曜23時の『私たちが恋する理由』も配信が回っています。23時以降のドラマに関しては、配信をどれだけ回すかというのが番組自体の評価の基準にもなっており、その点では順調と言えます」(同)
12月6日には、テレビ朝日の人気ドラマを映画化した『劇場版ドクターX』が公開され、先頃亡くなった西田敏行さんの最後の出演になることも含めて、大きな話題になった。制作スタッフなどはテレビドラマと同じチームで、テレビ朝日としては「全社をあげて取り組んでいます」(三輪担当局次長)と言う。「長い間ずっと支えてくれたコンテンツですからね」
「月9」を始めフジテレビのドラマも底力
かつて一世を風靡した「月9」のブランドイメージを含め、ドラマについては底力を示しているのがフジテレビだ。2023年10月改編で金曜夜9時に新設したドラマ枠を、2024年秋、火曜夜9時に移行させた。現在、月曜夜9時の「月9」、火曜夜9時の新設枠、水曜夜10時の「水10」、木曜夜10時の「木10」と基本4枠。そのほか関西テレビ制作の月曜夜10時と土曜深夜の東海テレビ制作枠などを含めるとかなりの本数を放送している。
この1年は「月9」で7月期に放送された目黒蓮さん主演の『海のはじまり』が大きな話題になった。2年前、目黒さんが出演した『silent』が人気を博したが、村瀬健プロデューサー、風間太樹監督、脚本が生方美久さんという同じチームによる作品だった。まずはその話から編成総局ドラマ・映画制作局の牧野正ドラマ制作センター室長に聞いた。
「確かに『海のはじまり』は『silent』に出演の目黒蓮さんと制作チームも同じだったので、始まる前からの期待値がものすごく高かったですね。実際に視聴率も良かったし、見逃し配信回数も『silent』に次ぐ過去2番目の多さでした。ただ『silent』は『木10』でしたから放送枠は違いますが。
『海のはじまり』は7話以降、右肩上がりで伸びていったのですが、これは最近あまりないことです。我々の課題でもあるのですが、入り口のところで力を入れて初速が良くても、そのまま続くとは限りません。ドラマ枠がこれだけ多くて選択肢も多いから、視聴者の皆さんはシビアなのです。時間をかけて入念に作っていかないと、持続して最終話まで観てもらうのはなかなか大変です。『海のはじまり』は、そこの部分がうまく観てる人にはまって上がっていったという、その意味でも成功例かなと思います。
『silent』の配信回数の多さは衝撃的だったので、今回も同じ座組ということで期待しました。ただ配信は大事なのですが、地上波の個人視聴率も取らないといけない。特に月9は地上波の数字をより意識したラインナップを考えています。
配信ということで言えば、現在の『木10』の『わたしの宝物』も再生数は多いですね。不倫ものや大人の恋愛ものは地上波でリアルタイムに観づらいという事情があるのでしょうが、配信ですごく回ります」(牧野室長)
2024年10月期の「月9」『嘘解きレトリック』の現状についても聞いた。
「これもすごく好評です。東野圭吾さん原作の『ガリレオ』シリーズの制作チームで、西谷弘といううちの看板監督で作っています。時代設定が昭和初期というのが魅力的で、鈴鹿央士さんと松本穂香さんという主人公の2人が若いキャストですが、若い人から年齢が上の人まで幅広い層に観てもらえています。西谷監督の演出力と原作の力が相まって、独特の世界観を生み出しています」(同)
火曜夜9時に新設したドラマ枠の現状はどうなのだろうか。
「『オクラ~迷宮入り事件捜査~』という作品を放送しています。久しぶりに反町隆史さんというスターを迎えて、わかりやすい刑事ものですが、滑り出しは好調です。この枠には刑事ものとかいわゆる職業ものというジャンルの観やすいドラマを置いていくことになります」(同)
水曜夜10時の枠はどんな位置づけか。
「水曜日は配信を意識してるところもありますが、エッジの立ったチャレンジングな作品ですね。10月期には黒岩勉さん脚本の『全領域異常解決室』という企画性の高い作品を放送しています。7月期には宮藤官九郎さん脚本の『新宿野戦病院』を放送しましたが、これも宮藤さん独特の世界観によるチャレンジングな作品でした。
配信が戦略的に重要になり、IPの開発という意識も強くなっています。フジテレビは以前からドラマと映画の連携に力を入れていますし、例えば水曜夜10時枠のようなエッジが立ったチャレンジングな企画でも映画に繋がるようなものを考えていこうと思っています。
近年は海外市場も意識しており、例えば『全領域異常解決室』はNETFLIXでも観られます。こういうケースは今後も増えていくと思われますし、より海外を意識した取り組みにもチャレンジしていきたいと思っております。
配信については、地上波で放送した直後からFODで次週の回も観られるという先行配信の試みもやっています。2023年10月期『パリピ孔明』という作品からですが、先行配信と地上波という新しい関係ができつつあると思います。
配信で人気が出ると、それがまた地上波に戻ってくる感じもあるんです。入り口が増えていると言えますね。もちろん中身がしっかりしていることが基本で、ドラマの本数が各局これだけある中で選んでもらうためには、より一層それを求められている感じがします」(同)
配信との連動進める日本テレビ
日本テレビのドラマは23年まで水曜22時、土曜22時、日曜22時30分の1時間ドラマのほか、月曜24時30分の「シンドラ」(関東ローカル局)、金曜24時30分「金曜ドラマDEEP」という、配信を意識した30分の深夜ドラマ、それに読売テレビ制作の木曜24時の深夜ドラマがあった。それが今はどうなっているのだろうか。コンテンツ制作局の道坂忠久局次長に話を聞いた。
「金曜日の『ドラマDEEP』は2024年秋改編で火曜24時台に移りました。その金曜24時台の枠では今、『Friday’s EDGE』という枠があって現在はドラマをやっていますが、その枠はドラマをやるとは限りません。
また4月から土曜日の21時と22時にドラマ枠が連続して置かれました。21時は『放課後カルテ』、22時は『潜入兄妹 特殊詐欺匿名捜査官』を放送しています。昨年まで水曜22時に放送していた枠を土曜21時に移したのです。
日曜22時30分は現在『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私』が放送されています。翌日の月曜日からまた学校や仕事が始まる方々に見てもらうということも意識した作り方をしています」
最近はドラマ、特に深夜枠については配信を意識していると言われるが、具体的にどういうことなのか。
「配信プラットフォームとの連携でいうと、日本テレビはHuluがグループなので、Hulu独占配信というのを全作品ではないですが、毎クールやっています。10月期で言うと『放課後カルテ』はネットフリックスでも配信しています。
最近は認知度アップに繋がるというので、初回の一部をTVerで先行配信する試みも行われています(YouTubeでの先行配信や地上波推し番組での先行放送も)。
ドラマで視聴習慣をとってもらうためには初回が本当に大事で、TVerのお気に入り登録というのがあるのですが、初回が始まる前に、そのお気に入り登録がどれだけ多いか、というのが大事になっています。
日本テレビで言うと、2023年放送の『ブラッシュアップライフ』は配信の再生数がすごく多く、いろいろな賞も受賞したのですが、2025年1月から同じチームで脚本もバカリズムさんの『ホットスポット』というドラマが放送されます。先日発表されたのですが、大きな期待が寄せられています。ドラマはリアルタイムの視聴率と配信の再生数が両輪として意識されています」(道坂局次長)
深夜帯のドラマでは最近、女性が一人で観ていると思われる不倫ものなどが配信で大きな再生数を獲得するのが話題になっているが、日本テレビのドラマでも2023年4月放送の「金曜ドラマDEEP」枠の『夫婦が壊れるとき』が人気を博したという。
『日曜劇場』始めTBSドラマ枠の位置づけ
TBSは火曜22時、金曜22時、そして日曜21時にドラマを放送している。日曜21時は「日曜劇場」という名称で王道のドラマを展開、2023年は7月期の『VIVANT』が大ヒットして話題になった。24年10月期は、金曜ドラマ『アンナチュラル』や『MIU404』、24年公開の映画『ラストマイル』を制作した脚本・野木亜紀子、プロデューサー・新井順子、演出・塚原あゆ子の3人が制作する『海に眠るダイヤモンド』を日曜劇場らしい大作として制作。初回視聴率が秋のドラマランキングで3位になるなど話題になった。現在、火曜22時は『あのクズを殴ってやりたいんだ』、金曜22時は『ライオンの隠れ家』を放送中だ。コンテンツ戦略局の中井芳彦コンテンツ戦略部企画プロデュース室ドラマ統括に話を聞いた。
「火曜ドラマは女性の30代40代をターゲットにしています。元々はラブストーリーをやる枠であるということで定着していましたけれども、大ヒットした『逃げ恥』(逃げるは恥だが役に立つ)あたりからラブコメディの枠として『恋は続くよどこまでも』などの視聴者の皆様に愛される作品が数多く生まれました。現在はラブと言ってもコメディに限らず男女の愛だけでなく、家族の愛とか、広い意味でのラブストーリーを考えています。
金曜ドラマは火曜ドラマよりもターゲットは少し上ですね。30代から50代の女性です。
日曜劇場はオールターゲットですね。そういえば12月30日には、2019年に放送して大ヒットした『グランメゾン東京』の劇場版『グランメゾン・パリ』が公開されましたが、前日の12月29日夜9時から2時間スペシャルで、『グランメゾン東京』の新作も放送しました。木村拓哉さん、鈴木京香さんらキャストや、プロデューサーの伊與田英徳さん、監督の塚原あゆ子さんなどは2019年の放送時と変わりません。新作ドラマは前回のドラマの4年後という設定です」
『グランメゾン』は新作のスペシャルドラマと映画の制作と、この間、両方進めてきたわけだ。
深夜ドラマをめぐるテレビ東京の取り組み
テレビ東京のドラマについては、コンテンツ戦略局の工藤仁巳局次長兼コンテンツ編成部長に聞いた。
「2024年の話題で言えば、7月期の月曜深夜のドラマ『夫の家庭を壊すまで』の配信がものすごく回りまして、作品総再生回数が3000万回を突破し、テレ東ドラマの記録を塗り替えました。『不倫ホラー』という刺激的な内容で家族みんなで観るような番組ではないのですが、それゆえ配信でよく見られ、狙い通りだったと思っています。象徴的なシーンを短く切り取って動画クリップを作り、TikTokで流したりとか、そういう宣伝活動に力を入れたこともあり、回を追うごとに再生数が増えていきました。TikTokで切り出した動画が1億1600万回見られたりしました。10月期の『Qrosの女』も良い数字です。この枠と金曜の『ドラマ24』の枠は〝尖った〟作品を選んでいます。
『ドラマ24』は、この10月期はこれまでの『孤独のグルメ』と趣向を変えて『それぞれの孤独のグルメ』を放送しています。主人公の松重豊さんがひとりで喋っているのではなく、今回は毎回ゲストが登場し、主人公よりもご飯を食べて喋るシーンが圧倒的に長いのが特徴です。多少変化球というか、違うパターンも試してみようということですね。2025年1月には映画も公開されます。これを核にして、周辺でマネタイズしたり、IPとして強化したいと思っています」(工藤局次長)
配信との関わりについては、執行役員でもある和田佳恵・配信ビジネス局長に聞いた。
「もともとテレビ東京ではアニメ以外のコンテンツのライツビジネスを手掛けているコンテンツ事業局という部署があったのですが、配信ビジネス局という組織ができたのは3年前です。配信の中心はやはりドラマになりますが、サスペンスチックな不倫とか復讐とかそういったドラマは配信と相性が良いのですが、うちの強みであるグルメドラマやホラーを含め、今後ジャンルを広げていきたいと作品開発をしています。
『孤独のグルメ』については今のクールで趣向を変えた内容で放送していますが、1月10日から初めての映画が公開されますので、それに向けてTVerで過去作も配信をし、映画公開に向けてブームアップしたいなと思っています。
『孤独のグルメ』の映画は開局60周年記念作品ですし、非常に力を入れています」
ドラマと映画の連動については積極的に取り組んでいるという。
「配信ビジネス局には同じ部署内に映画担当もドラマ担当もいますので、内容もそうですが、ビジネスについても一つの部署の中で練って展開できています」(和田局長)
新たな取り組みについても聞いた。
「配信ビジネス局として、ショートドラマにも積極的に取り組んでいます。ショートドラマの配信アプリ『BUMP』でオリジナルドラマの配信を始めました。1話が3分前後の連続ドラマで10話から30話で構成されます。1話ごとに課金する仕組みで、これまでの映像販売のビジネスとは違う形になります。SNSで多くのフォロワーを獲得しているこねこフィルムと一緒にSNSアカウント『aimaiMe(アイマイミー)』を立ち上げ、縦型のショートコンテンツを配信する取り組みも始めています。どちらも若手社員からの提案ですが、新しいマネタイズの形で、新しいユーザーをターゲットにしています」(同)
配信の影響で重要度が増しているドラマだが、各局の取り組み、今後どうなるのだろうか。ドラマ以外のジャンルについては、例えばテレビ局のアニメ事情については下記記事を参照いただきたい。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c2e64bc86506e9ad8a5461d7897bdf92164cbfd8
日テレ、TBS、テレ東…世界的市場拡大のアニメをめぐるテレビ局の戦略とは…
また発売中の『創』1月号特集「テレビ局の徹底研究」は激変するテレビ各局の内部事情を特集しているので興味ある方はご覧いただきたい。