Yahoo!ニュース

日テレ、TBS、テレ東…世界的市場拡大のアニメをめぐるテレビ局の戦略とは…

篠田博之月刊『創』編集長

 アニメは今やテレビ局にとって重要な戦略的コンテンツとなっている。日本テレビやTBSなど、アニメ事業については後発と言われた局が次々と新たな組織を立ち上げ、本格的なアニメビジネスを展開しつつある。ここでは日テレ、TBS、テレビ東京を中心にアニメ事業の現状をみていこう(冒頭写真は右が『株式会社マジルミエ』C:岩田雪花・青木裕/集英社・マジルミエ製作委員会、左が『地縛少年花子くん2』)

好調なアニメをめぐる日本テレビの取り組み

 この間、注目されるのは、日本テレビが金曜23時台のアニメ枠新設など、グローバル展開を見据えたコンテンツ強化を行っていることだ。同局はもともと、コンテンツ戦略を意識的に進めてきたのだが、それがこの1~2年、アニメに集中的に表れている。

 そこでコンテンツ戦略本部コンテンツビジネス局次長の佐藤貴博スタジオセンター長の話から始めよう。スタジオセンターは2023年6月にアニメ・映画・ドラマなどストーリーコンテンツ製作陣を集結させてできた部門だ。アニメ・映画・ドラマを連動させて海外市場を見据えたコンテンツ戦略を展開するという日本テレビの意思がよく反映されている部門といえよう。

 23年の10月改編で日本テレビが新設したのが金曜23時台のアニメ枠「フラアニ」こと「FRIDAY ANIME NIGHT」だ。「金曜ロードショー」の後に続くこの枠で23年秋から放送したアニメ『葬送のフリーレン』は大ヒットを記録。24年4月からは大人気作品『転生したらスライムだった件』を放送した。

 もうひとつ日本テレビは土曜深夜24時55分のアニメ枠でも23年10月から『薬屋のひとりごと』を放送して大ヒットさせた。金曜土曜の2枠でヒットを放ったことで日本テレビのアニメは大きな存在感を誇示することになった。

『葬送のフリーレン』と『転生したらスライムだった件』の次の放送時期については発表されていないが、『薬屋のひとりごと』については、25年1月から「フラアニ」枠での放送が発表されている。

『株式会社マジルミエ』(C:岩田雪花・青木裕/集英社・マジルミエ製作委員会)
『株式会社マジルミエ』(C:岩田雪花・青木裕/集英社・マジルミエ製作委員会)

 

 そして2024年10月期の「フラアニ」枠では『株式会社マジルミエ』という『少年ジャンプ+』連載の魔法少女もののアニメを放送している。まずはその現況から佐藤スタジオセンター長にお聞きした。

「『葬送のフリーレン』は東宝アニメが幹事、『転生したらスライムだった件』はバンダイナムコが幹事です。今放送中の『株式会社マジルミエ』はまず1クール放送で、電通と日本テレビが幹事です。『フラアニ』で日本テレビが、共同ですが幹事をとる初めての作品になります。1月からの『薬屋のひとりごと』は東宝アニメが幹事ですが、日本テレビも海外セールスなど大きな役割を果たしています。

 現在のアニメは放送だけではなく、海外や配信、商品化など様々なビジネスを複合的に進めていきますので、その座長となる製作委員会幹事は大きな責任を伴います」

 日本テレビが今回、「フラアニ」枠でも委員会の中心をとることになったのは大きいが、ただ全作品でそうなるところまでは至っていない。

「『フラアニ』については『葬送のフリーレン』はその高い作品性が高評価につながり、視聴率もビジネスも好調な素晴らしいスタートとなりました。この作品については、時期は未発表ですが、第二期の製作も発表されています。

 今は各局も23時24時台にアニメ枠の新設が続いていますが、視聴率およびリーチ(到達人数。多くの人にどれだけ見られたかという指標)では、『フラアニ』が圧倒的です。また『葬送のフリーレン』も『転生したらスライムだった件』も配信でも多くのサイトでトップになるほど非常に観られています。

 日本テレビのアニメ枠は火曜日と土曜日と金曜日にありますが、火曜日は深夜25時台という放送としては深い時間帯なので、作品としてもよりコア層に刺さる作品や将来を見据えての挑戦的な取り組みを選んでいます。土曜日は全国同時ではありませんが(日本テレビでは24時台放送)、全国の放送局で見られる枠です」(佐藤スタジオセンター長)

 土曜深夜枠は2024年10月期から高橋留美子原作の往年の人気マンガ『らんま1/2』のアニメを放送している。それを1クール放送した後には『Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。』という異世界ものを放送する。『らんま1/2』の前には『ザ・ファブル』が放送されていた。この土曜深夜枠も好調だ。『ザ・ファブル』は日本テレビが幹事となって実写映画も作られており、アニメ・実写映画ともにシリーズ継続が期待されている。

「今土曜深夜に放送されている『らんま1/2』は原作が約20年前に描かれた作品ですが、高橋留美子先生の作品はどんどんリブートされていくんじゃないでしょうか。多分今の若い子たちが見ても新しいと思えるんだと思います。土曜深夜でありながら視聴率も好調で、『ザ・ファブル』も含めて他局の23時台を上回るリーチを取っています。

『らんま1/2』は一定期間、ネットフリックスの独占配信です。『ザ・ファブル』もディズニープラスでの独占配信でした。『葬送のフリーレン』や『転生したらスライムだった件』は全方位配信。全国ネットで放送後、あらゆるサイトで配信します。作品の特性や、製作委員会としての戦略を加味して、それぞれにとってベストな配信プラットフォーム戦略をとっていきたいと思います」(同)

 日本のアニメは海外でも人気が高く、ビジネスとしては国内よりも海外でどのくらい値が付くかに関心が持たれているのが現状だという。

アニメ・ドラマと実写映画の連動

 映画についても話を聞いた。

「実写映画の大きな作品としては12月に公開された『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』があります。福田雄一監督のもと松山ケンイチさん、染谷将太さんを始め超豪華キャストが集結した大爆笑コメディー映画です。お正月映画として大ヒットを目指しています。

 アニメで幹事社になることもそうですが、やっぱり自分たちでオリジナルIP(知的財産)を持たないことには、グローバルに出ていった時もビジネスとして大きくなっていきません。オリジナル作品をどうやって生み出していくかという意味では、地上波ドラマをもっと活用すべきと思っています。グローバルにまず我々日本のドラマを知ってもらうためにはネットフリックスやアマゾンプライム、ディズニープラスなどグローバルプラットフォームとの連携をもっと進めていかなければと思っています。

 アニメや映画は原作モノでないとなかなかヒットに繋がらない状況ですが、なんとか地上波ドラマとグローバルプラットフォームの連携を活用して韓国ドラマのように世界中の人に日本発のストーリーの面白さを知ってもらって日本テレビによるオリジナルストーリーの大ヒットを生み出していきたいと思います」(同)

TBSのアニメ事業めぐる大きな進展

 2023年7月にアニメ事業部が新設されて1年半、TBSのアニメ事業は拡大路線を継続している。24年10月改編で日曜午後4時半に全国ネットのアニメ枠を新設、『七つの大罪 黙示録の四騎士』を皮切りに話題作を放送してきた。また、木曜深夜帯を系列局のMBSと連携してアニメゾーンとして改編を進め、現在は午後11時56分『アオのハコ』、0時26分(MBS枠)『ダンダダン』、1時28分『さようなら竜生、こんにちは人生』、1時58分『トリリオンゲーム』と4本のタイトルが放送中だ。

 そうした中で、2025年は全国枠でTBS幹事作が続々と放送されるという。アニメ映画イベント事業局の渡辺信也アニメ事業部長に話を聞いた。

C:あいだいろ/SQUARE ENIX.『地縛少年花子くん2』製作委員会
C:あいだいろ/SQUARE ENIX.『地縛少年花子くん2』製作委員会

「日曜午後4時半の全国ネット枠でようやく自分たちの幹事作が放送されることになりました。それが1月クールの『地縛少年花子くん2』で、2020年に第1期を深夜枠で放送したところ若年層の女性を中心に支持をいただいたので、第2期は日曜夕方に編成することにしました。第1期が日本のみならず北米で非常に人気が出たことも第2期を製作する後押しになっています。

 また木曜夜『news23』後に設けた全国同時放送の午後11時56分枠も、現在放送中の『アオのハコ』が『週刊少年ジャンプ』の人気原作のアニメ化で話題を呼び、枠の認知度が徐々に上がってきたように思います。この枠では来年4月クールにTBSと楽天さんとの共同幹事による『ロックは淑女の嗜みでして』という作品を放送します。原作は白泉社の『ヤングアニマル』で連載中の人気コミックです。

 レギュラーの放送枠でなるべくTBS幹事作品を増やし、大きな売上になる海外販売の窓口を持つなど、主体的に二次利用ビジネスを運用していきたいと考えています」

 アニメ事業部の陣容も拡大しており、キャリア採用によりこの1年で4人増員している。

「業界での経験が豊富な面々を迎えまして、すでにTBS幹事の企画を通したプロデューサーもいます。プロパーのメンバーとキャリア組が刺激しあって良いシナジーが産まれつつあると感じています。群雄割拠のアニメ界にあって、放送局の僕らとしては枠を育てることは勿論ですが、一番大事なのは人を育てて、優れたプロデューサーやセールス人材を揃えることだと思っています。人が育つには経験や場数が必要で、そのためにも幹事作品を増やすことは重要ではないかと」(渡辺部長)

新展開の『五等分の花嫁』『たべっ子どうぶつ』

 アニメの二次利用ビジネスの中で商品化も大きなカテゴリーだが、TBS作品で大きな成功を収めたのが『五等分の花嫁』である。テレビシリーズを2シーズン放送後、2022年に公開された劇場版で原作のラストまでを描いたにもかかわらず、2023年も2024年も新作映像を制作し、イベントやグッズ販売を継続している。

「『五等分の花嫁』は今も根強い人気があり、こんなにも長くアニメプロジェクトを継続できていることが非常に稀有だと思います。2024年も9月に新作映像を全国の映画館で先行上映しスマッシュヒットしました。年末にはTBS地上波での放送を控えています。新作映像に伴って展開される商品化のアイテム数と売れ行きに毎回驚かされています。五つ子それぞれにファンがついていることも商品化のボリュームを押し上げているようです。

『五等分の花嫁』は2025年3月にTBS主催で舞台化もされます。これはアニメ事業部の隣にあるライブエンタテインメント部という部署が進めていますが、同じ原作でTBSがアニメと舞台の両方をやるのは珍しいケースかもしれません」(同)

 そのほかアニメ事業部が今注力しているのは『たべっ子どうぶつ』というキャラクターだ。

「『たべっ子どうぶつ』はギンビスさんの国民的お菓子ですが、そのパッケージに描かれた動物のキャラクターたちが大変な人気で、グッズの売れ行きも良く関連イベントも盛況です。うちのプロデューサーが、このキャラクターたちに設定や物語をつけて劇場用アニメーションにする企画を立てまして、現在絶賛制作中です。全編3DCGによるハイクオリティな映像になっておりまして、子ども向けと思われがちですが、大人の鑑賞にも耐えうる感動作に仕上がりそうですのでご期待いただけたらと思います。来年のゴールデンウィークに公開予定ですが、お菓子のIP(知的財産)からアニメ映画を作るというのは前代未聞のチャレンジだと思います」(同)

 TBSはグループ内にセブン・アークスというアニメ制作スタジオを抱えている。今年7月にはこのスタジオが制作したテレビアニメ『ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』がTBSで放送された。アニメ事業部で企画・出資する作品をグループ会社のスタジオで制作するという、将来を見据えた戦略が一歩ずつ動いているようだ。

アニメに強いテレビ東京の新たな取り組み

 テレビ東京といえばアニメに強いというイメージがある。この1~2年、各局がアニメを拡充し、熾烈な闘いを繰り広げているが、テレビ東京アニメ事業の現状はどうか。丸茂礼・アニメ局長に話を聞いた。

「2024年4月に新設した日曜23時45分のアニメ枠で、10月から『ぷにるはかわいいスライム』を放送しています。原作はコミック配信サイト『週刊コロコロコミック』で連載中です。土曜の23時枠で放送した『SPY×FAMILY』は、お子さんと親御さんの両方に人気となりました。

 今回の作品も『コロコロコミック』を読んでいるお子さんとその親御さん、そしてアニメ好きな人がターゲットです。

 そのほか10月にスタートしたのは、テレビシリーズ第7期の『夏目友人帳』が月曜24時、『BLEACH千年血戦篇―相克譚―』が土曜23時。前者の原作は白泉社『LaLa』連載、後者は『週刊少年ジャンプ』で、いずれも大きな作品です。

 土曜23時は私たちも大切にしている枠ですが、2024年の4月クールでは『怪獣8号』を放送して反響も大きく、配信もすごく回りました。25年には次のシーズンも予定されています。今放送中の『BLEACH千年血戦篇―相克譚―』は3期目ですが、4期まで予定されています」

 日曜23時45分の『ぷにるはかわいいスライム』は初アニメ化の作品だが、グッズやゲームとの連動も本格化する。

「そういう事業展開はもちろん多くの作品で考えています」(丸茂局長)

 平日深夜はアニメ作品がずらりと編成されているのだが、水曜24時の『新テニスの王子様』のように長期にわたって展開されている作品もある。

「今は『新テニスの王子様』と『新』がついていますが、確かに原作もアニメも息の長い作品で、ミュージカルも長期にわたる舞台になっています。

『夏目友人帳』も既に1期から6期までアニメが放送され、2018年に映画化もされています。今のは第7期と、これも息の長い作品ですね」(同)

 昨今、アニメは世界中に配信するグローバル展開が当たり前になっているが、テレビ東京は以前から海外配信に力を入れてきた経緯がある。

「テレビ東京は元々、海外の売り上げが大きいし、その比率はそれほど変わっていないですね」(同)

 平日の深夜帯と週末の朝帯にアニメを編成する局が多く、テレビ東京も週末に何本かのアニメ枠がある。それらの棲み分けはどうなされているのだろうか。

「夜に編成しているアニメ作品は、1クールの放送ですが、変則2クールというケースもあります。例えば『SPY×FAMILY』がそうで、4月と10月に放送しました。間の7月と1月クールには、別の人気作品を持ってきています。

 一方、週末の朝帯は比較的4クール続けて放送しています。玩具メーカーやゲームメーカーと組んで作品を安定的に供給することも大切なので、タカラトミーさんやバンダイさん、ガンホーさんといった会社と組んで、4クール1年通して放送する作品が多いです」(同)

キャラクター中心の新たなビジネス展開

 アニメについてはこの何年か、フジテレビの『ちいかわ』のようにキャラクターをビジネス展開していく例が増えている。テレビ東京の場合はどうなのか。

「リッチな30分のアニメコンテンツを4クールにわたり作り続けるのは大変なんです。最近は短い尺でアニメを流し、そのキャラクターでビジネスを展開するという例が業界全体で増えています。

 テレビ東京でも『PUI PUI モルカー』というモルモットと車のキャラクターが登場するアニメがあり、とても流行りました。人形をストップモーションでちょっとずつ動かして映像にしたものでしたが、それを2期放送して、今度は11月29日公開で『PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX』というアニメ映画になります。

 また『かいじゅうせかいせいふく』という作品を2025年4月から1年間放送します。これはテレビ東京が手がける短編キャラクタービジネスアニメです。キャラクターを好きになってもらい、グッズの購入につながれば…という企画です。

 今テレビ東京では、土曜の朝7時に『イニミニマニモ』という枠があって、いろんな短編を集めて30分で放送しているんです。そこに『モルカー』も入っていますし、『かいじゅうせかいせいふく』も、さらに海外から購入した作品のローカライズ版のようなものも入ります」(同)

 サウジアラビアのアニメの放送という異例の取り組みも行っている。

「2024年11月から始まった『アサティール2』ですが、サウジアラビアは、エンタメコンテンツ、特にアニメとスポーツに力を入れています。サウジアラビアの会社と東映アニメーションが作ったアニメをテレビ東京が放送するという新しい展開ですね」(同)

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

篠田博之の最近の記事