NHK「放送100年企画」の目玉でもある大河ドラマ『べらぼう』についてプロデューサーに聞いた
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』1月』スタート!
大河ドラマといえばNHKの看板番組だが、2025年は同局が年間通して取り組んでいく「放送100年企画」の目玉として位置づけられている。2025年1月5日からスタートする『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~』だ。
このドラマについて藤並英樹チーフ・プロデューサーに話を聞くとともに、「放送100年企画」の中でどんな位置づけなのかについても担当責任者に話を聞いた。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は江戸中期、田沼意次の時代を描いたドラマで、主人公の蔦屋重三郎は江戸文化の担い手として知られた人物だ。藤並チーフ・プロデューサーがこう語る。
「大河ドラマは、立身出世した人や偉人を描くというだけでなく、時代を描くという面もあると思います。私がちょうど就職活動したのが就職氷河期と言われた時期で、その頃も閉塞感というか、平和なんだけど鬱屈した感じがあると思っていました。そこから20年経って、今の日本も、平和な感じはするけれど、見えないところに格差があったり、閉塞感があります。
特にコロナ禍の時期に『不要不急』と言われて、エンタメに対する見方が厳しくなりました。表現も含めて窮屈な時代だと思っていたんですが、大河ドラマを企画することになって、今の時代と江戸の中期というのが、閉塞感という点で重なるなと思ったのです。
1700年代後半から『田沼の時代』と言われ、一見華やかなんですが、疫病が流行したり、噴火や地震があったりして、その後飢饉も始まり『寛政の改革』に繋がっていくわけですね。あの時代の流れが今の時代と重なる部分があるんじゃないかと思ったのと、大河ドラマでこの時代を描いたことがなかったようなので、描いてみたいと思いました。
当時、時代の寵児となった人物は2人いて、1人は田沼意次、もう1人は蔦屋重三郎ではないかと思います。蔦屋重三郎は、今の日本のカルチャーの原点とも言える浮世絵とか、黄表紙とかで歌麿や写楽を生み出した人物で、歴史の教科書に名前は載っていないのに、業績がすごく際立った人物なのですね。この人物を取り上げて、閉塞感のある中で、時代の寵児に駆け上がっていく姿を描いていきたいなと思いました」
横浜流星さんや渡辺謙さんなどキャストをどう決めていったか
撮影は2024年5月末から始まっていたという。キャストなどをどのように決めていったのか、さらに聞いた。
「脚本を森下佳子さんにご依頼したのが、2022年夏頃です。当時、ドラマ10『大奥』に取り組んでいたのですが、森下さんと『大奥』が終わったら次はこの大河ドラマをやりましょうとお話しました。それから1年ぐらいかけて専門家の方にお話を聞いたり取材を重ねたりして大まかなプロットを作りました。森下さんには23年の秋頃から執筆をしていただいていました。
主なキャストが決まったのは2023年で、4月27日に主役の横浜流星さんらを発表し、第2弾が10月発表でした。蔦屋重三郎ってどういう人物だろうと森下さんと話をしていく中で、キャラクターとして森下さんがよく言われたのは『責任感と覚悟の人物だ』ということでした。当時の吉原のことや、出版を手掛けたこともそうですが、その時代に誰もやらなかったようなことを、自分が背負って走っていく。そういう躍動感があって、時代を駆け上がっていく人物はやっぱり、若い20代の俳優さんにお願いした方がいいなと考えまして、どなたがいいだろうかとなった時に真っ先に浮かんだのが横浜流星さんでした。
美形で男前ですが、そのお芝居を見ていると、彼の目の力だったり、お芝居に対する向き合い方というのがすごく画面を通して伝わってきます。人の心をつかむ魅力があるなと思ったのです。横浜さんのそういうお力をお借りできたらいいなと思って出演を依頼しました。
横浜さんは、大河ドラマはもちろん、NHKのドラマ出演自体初めて、時代劇も初めてです。舞台では宮本武蔵を演じていたりしていますが。ただご本人は武道をやってらしたので体幹も良いし、着物が似合います。動きや所作がきれいですね」(藤並チーフ・プロデューサー)
横浜流星さんともうひとり重要なキャストが田沼意次役の渡辺謙さんだ。
「このドラマのみどころは、主役の横浜流星さんともうひとつ、渡辺謙さん演じる田沼意次の政治劇のような部分です。渡辺謙さんにお願いすることも早々に決まりました。
田沼意次という、その時代の中心になる人物を渡辺さんがやってくださって、すごく存在感があります。同時に渡辺さんは軽やかさもあるので、面白い意次になっていると思いますね」(同)
今回の大河ドラマは「少年漫画の主人公の物語みたいなもの」
ドラマの見どころについても聞いた。
「今回のドラマは、少年漫画の主人公の物語みたいなものと思っているんです。何者でもない若者が夢を抱いて、経済の中心である日本橋に出て、当時の出版カルチャーのある種の寵児となっていく。若者が自分の身分を超えて大きくなっていくという、成長譚を楽しんでいただけたらと思います。
浮世絵とか吉原の華やかな面も、たぶん蔦屋重三郎のセンスの原点になっていると思うので、丁寧に描いていけたらと思います。その吉原で生まれ育ったという、格差とか搾取があるという、“光と影”の影の部分が、彼のその生きざまだったり、『責任と覚悟』というものの原点になっていると思うので、そのへんを丁寧に描いていきたいと思います」(同)
大河ドラマといえば、舞台となった“ご当地”が地元の自治体を中心に盛り上がっていくことで知られるが、今回はどうなのか。
「このドラマのご当地は東京なんです。
話が吉原で台東区、あとは浅草ですが、いずれも東京です。田沼意次のゆかりの静岡や、平賀源内のゆかりの香川も、ご当地ではないですけれど、ゆかりの地としてうまく連携していけたらいいですね。大河ドラマはNHKの中核になるコンテンツですから、全国の視聴者に楽しんでもらえるように、地域放送局とも連携しながら企画を考えていこうと思っています」(同)
大河ドラマといえば時代考証を丁寧に行うことでも知られている。
「蔦屋重三郎については文献や資料がほとんどないので大変でしたが、研究者の鈴木俊幸先生と、黄表紙の研究をされている棚橋正博先生にお話を伺って、台本の中身についてもアドバイスをいただいています。
田沼意次に関しては牧之原市に資料館があって、そこの学芸員さんたちがいろいろ資料をお持ちなので、そうした資料にもあたっています。学校の教科書とかだと、賄賂政治家みたいなイメージなんですけれど、ちょっと違った側面も描けていけたらいいなと思っています。
基本は史実に基づきつつ、そこから着想を得てドラマとして面白いものにしないといけません。森下さんに脚本をお願いしたのも、やはりエンターテインメントとして時代劇を楽しんでもらうことが大事だと思ったからです。
俳優さんたちのお芝居がノッたものになるかどうかも、脚本次第のところもありますし、幸い森下さんの台本を俳優の皆さんも面白がってくださっているので、生き生きとしたお芝居が収録できていると思います」(同)
「放送100年プロジェクト」と3つの核
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』が「放送100年プロジェクト」の一環として放送されることは前述したが、プロジェクト全体はどういうものなのか。
NHKは2025年3月に放送開始から100年という節目を迎える。スタート時にはテレビはなくラジオだけだったが、その100年の歴史は日本の放送そのものの歴史と言える。それを記念してNHKは、「放送100年プロジェクト」として様々な企画を予定している。キャッチコピーは「ひとりを思う、みんなのメディアへ。」だ。いくつかのキャッチコピー案の中から同局の職員スタッフや出演者による投票で決めたという。
その「放送100年プロジェクト」を統括するNHKコンテンツ戦略局の松岡大介エグゼクティブ・プロデューサーに話を聞いた。
「『ひとりを思う、みんなのメディアへ。』というプロジェクトのロゴの100という数字は赤と緑と青の色がついていますが、赤は娯楽、緑は教育・福祉、そして青は報道といった多様なコンテンツをイメージしたデザインになっています。『ひとりを思う』というコピーは、多様性が求められる時代の中で、一人ひとりの思いを大切にしていくということですね。私たちのある種の覚悟として表現したものですが、このロゴやキャッチコピーが今後1年間、いろいろな媒体に出ていくことになります」
約1年間のプロジェクト企画の最初の番組は2024年11月26日放送の『みんなのベスト紅白』だった。
「これは『NHK紅白歌合戦』の特番です。視聴者の皆さんに、心に残ったあの歌、あのシーンを募集して、実際に番組で、懐かしい曲やシーンを紹介するというもので、11月26日火曜夜にキックオフしました。
2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、放送100年企画と銘打って放送していきます。
それともう一つ、その『べらぼう』と連動する形で『新ジャポニズム』という年間を通したシリーズが始まります。1回目の放送は、1月5日の『べらぼう』初回の後のNHKスペシャルです。
『べらぼう』の主人公の蔦屋重三郎は江戸文化を花開かせメディアの礎を築いたことから江戸のメディア王とも評されますが、『新ジャポニズム』は日本文化の素晴らしさをもう一度見つめ直そうというプロジェクト企画です。これを1年間にわたっていろいろな番組で展開していきます。
この3つを核として、いろいろなプロジェクトが動いていきますが、特に3月にはかなりの数の特集番組を放送します。
NHKには膨大な映像資産がアーカイブとしてありますので、それを、番組を通じて視聴者に還元したいと思っていますし、報道からスポーツ、エンターテインメントなど、様々な100年プロジェクトが既に動き始めています」
8月の戦争関連番組もプロジェクトと連動
ラジオでは2023年から既に「ラジオ100年プロジェクト 100人インタビュー」という企画が放送されている。またNHKでは例年、8月にドラマやドキュメンタリーなど戦争関連の番組が集中的に放送されているが、2025年はそれが100年プロジェクトと連動して大きく展開されるようだ。
「2025年は太平洋戦争終戦80年という節目で、そのチームも既に動いています。そことも『放送100年プロジェクト』は連携しており、NHK全体で取り組むので、関連づけられるものは関連づけてやっていこうとしています。例えばスポーツ100年、報道100年といった企画もできるでしょうし、2025年はかなりの数の番組を100年プロジェクトとして放送することになると思います」(同)
NHKはまさに局をあげて100年プロジェクトを進めており、本部だけでなく地域局を含め、多くの職員・スタッフが関わることになるという。
「コンテンツ制作現場だけでなく、全局的に取り組むプロジェクトになります。どういう企画が進んでいるかについては、今後少しずつ発表していきます」(同)
「放送100年」とNHKの編成戦略
NHKは「ロイヤルカスタマー」と呼ばれる60代以上の視聴者に加えて、50代以下にも視聴者層を広げていくために、様々なコンテンツの開発に取り組んできた。例えば土曜深夜24時台に「レギュラー番組への道」という枠を設け、新しい企画を試しながら好評なものを定時番組にしていくという試みもそうだ。そのあたりの編成方針全体についてコンテンツ戦略局の小山好晴編成主幹に聞いた。
「新たな視聴者の獲得、特に若年層の方に見てもらえるような新番組の開発を、『レギュラー番組への道』を始め、平日23時台の枠を通じて継続してやっています。もちろんほかの時間帯もいろいろ開発をしていますし、通常の時間帯でも空いた時間帯に関しては、新しい挑戦的な番組の開発を行っています。
例えば『フロンティアで会いましょう!』という番組を水曜23時から放送していましたが、最新の科学の情報を新しい演出でお届けしようと挑戦をしてきたものです。また『LIFE!』のような番組も、過去のアーカイブスを見やすく再編集して放送したところ、とても多くの視聴者に見られて手応えを感じています」
そうした模索や挑戦は「放送100年」という節目の中でどう生かされていくのだろうか。
そのほか2024年4月からNHKが大きなチャレンジとして取り組んだ平日午後の『午後LIVEニュースーン』の現状など、いろいろな話も聞いたが割愛しよう。もともとこれは発売中の月刊『創』(つくる)2025年1月号の特集「テレビ局の徹底研究」の一環として取材したもので、NHKを始め各局の詳しい現状について興味ある方はそれを参照いただきたい。