Yahoo!ニュース

AI革命の代償:水と電力を食うデータセンターの実態

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
データセンター(写真:アフロ)

世界でますます増え続けるデータセンター


 人工知能(AI)の進化に伴い、データセンターが増え続けている。しかし、その裏で消費される膨大な水の量について、どれほど知られているだろうか?

 世界の半導体市場は、人工知能(AI)の普及やデータ需要の増加に伴い、今後も成長が見込まれている。世界半導体統計(WSTS)は、12月のレポートで2025年の世界半導体市場を6,970億ドル(約104兆円/前年比11.2%増)と推計する。けん引役はデータセンター用のAI半導体だ。

 同時に、世界的なデータセンター建設市場も成長を続けており、2023年の市場規模は2,188億6,000万ドルで、2024年には2,365億ドルに達すると予測されていた。MCデジタル・リアルティの畠山孝成代表取締役社長は、「25年の市場見通しとして、AI時代が本格化しデータセンター需要は加速度的に拡大する」(『電波新聞』2024年12月23日)と語っている。

米バージニア州ラウドン郡にデータセンターが集積した理由


 世界各国のデータセンター数は、米国が圧倒的に多く、2024年3月時点で5,381(『令和6年版情報通信白書』)。とりわけバージニア州は世界最大のデータセンター集積地。アマゾン、グーグル、マイクロソフト、メタなどいわゆる「ビッグ・テック」のデータセンターが軒を連ねている。

 バージニア州ラウドン郡にデータセンターが集積した理由を、米ジョージ・ワシントン大学のジョン・E・ビショフ博士は以下のように分析する。(『IT Leaders』2016年5月18日

1)高速ネットワーク接続環境:1980年代後半から1990年代初めにかけて、UUNETがバージニア州アッシュバーンに大規模な光ファイバーのインターネットエクスチェンジ(MAE-East)を設置。高速で信頼性の高いネットワーク接続が可能となり、多くの企業がデータセンターを設立するきっかけになった。

2)安価な電力供給:ラウドン郡では、全米平均より34%も安価な電力が供給される。電力コストの削減を求める企業にとって魅力的な条件。

3)再生水プロジェクトの推進:同郡が推進した再生水プロジェクトにより、データセンターの冷却に必要な大量の水を安定的かつ環境に配慮して供給できる体制が整った。

データセンター建設の条件として、ネットワーク環境、電力、水の3つが必須とわかる。つまり、データセンター建設が増加すると、これらの3つの需要も拡大することになる。


水消費量が約63%増加

 今年8月、バージニア州ラウドン郡での水の急増について、『フィナンシャル・タイムズ紙』が今年8月に"US tech groups’ water consumption soars in ‘data centre alley’"と報じている。記事によると、バージニア州の「データセンター・アレー」と呼ばれる地域では、2019年から2023年にかけて水消費量が約63%増加。2023年には少なくとも約70億リットル(700万トン)に達したという。

 この増加は、人工知能(AI)の需要拡大に伴うデータセンターの増加に関連している。データセンターでは、コンピュータ機器の冷却に大量の水を使用。特に、ラウドン郡では、データセンター用地が2019年以降で2倍以上に増加し、さらに多くの施設が建設中だ。安い電気と豊富な水がデータセンターを集めたが、それらは無限にあるわけではない。

マイクロソフトの新方式は救世主か

 企業は、水使用量の削減や再生水の利用など、水資源管理への取り組みを強化している。マイクロソフトは今年、データセンターに「クローズドループシステム」を採用し、水が蒸発しないようにしながら冷却を行う新方式について発表した。

 従来の方式(空冷式)では、熱を取り除くために、冷たい空気をサーバールームに送る。この空気がコンピューターの熱を吸い取ると、空気は温かくなり、また冷やされるために空調機に戻る。空調機では温かい空気の熱を水に移して「温水」を作る。この温水は冷却塔に運ばれ、さらに冷やされる。冷却塔の中では、温水が通るパイプに水をかけ水を蒸発させる。水が蒸発するときに熱を奪う(気化熱)ので温水が冷たくなるのだが、水が蒸発して減るため、常に水を補充する必要がある。

 新方式のデータセンターでは水が蒸発しないように密閉された状態で冷却を行う。そのため、新しい水を補充する必要がない。サーバールームで発生した熱は、冷却液を通じて熱交換器で取り除かれる。温められた冷却液は、別の熱交換器や冷却装置で再び冷やされる。この冷却には外部の空気や別の冷却システムが使用される場合もあるが、液体自体は密閉された状態で循環する。これにより、世界中のマイクロソフトのデータセンターで年間約1億2500万リットルの水を節約できるという。その一方で、冷却設備の電力消費が増える可能性がある。クローズドループシステムのような技術は、水を節約できる一方で、冷却設備に必要な電力消費の増加という新たな課題も生じる。このトレードオフをどう解決するかが、今後の持続可能なデータセンター運営の鍵となるだろう。

環境配慮型の技術の採用、運用ルール、評価が求められる

 また、日本国内で進むデータセンター建設ラッシュは、地域経済やデジタル基盤の強化というメリットが大きく取り上げられる一方で、電力や水の使用増加が引き起こす潜在的な課題は十分に議論されていない傾向がある。日本におけるデータセンターの水消費量は、2024年には約835.9億リットル(8359万トン)に達し、2029年には年平均成長率6.5%以上で約1154.2億リットル(1億1542万トン)に達すると予測されている(「日本のデータセンターの水消費量に関する調査 - 成長動向と予測/2024年〜2029年」)。たとえば四国地方など水資源が限られている地域で、データセンターが増えると農業用水や住民の飲料水との競合が生じる可能性があるだろう。

 データセンターの建設は地域経済に恩恵をもたらす一方で、水や電力といった資源への影響を無視することはできない。企業は環境配慮型の技術を積極的に採用し、行政は規制やインセンティブを整備する必要がある。また、地域住民、企業、行政が連携し、持続可能なデータセンター運営を実現するための総合的な評価と対策が求められている。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

橋本淳司の最近の記事