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PFAS報道が抱える3つのリスクと私たちの課題

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
国土交通省資料 https://www.mlit.go.jp/mizukokud

各地の水道水源から「PFAS検出」と報じられているが、実際には調査対象となっているのは主にPFOSおよびPFOAである(「水道におけるPFOS及びPFOAに関する調査の結果について」国土交通省)。このような報道には以下のリスクが存在する。

1)「すべてのPFASが有害である」という誤解を生むリスク

 PFASは1万種類以上の有機フッ素化合物の総称であり、有害性が認められる物質もあれば、安全性が確認されている物質も含まれる。たとえば、高い耐久性や安全性を持つフッ素樹脂製品まで有害とみなされるなど、誤解や不安を煽る可能性がある。この誤解は実際のリスク評価や規制に基づいた適切な対応を妨げる恐れがある。

2)新たな有害物質が判明した際の理解困難リスク

 現在、日本ではPFOS、PFOA、PFHxSが規制対象(化審法)となっているが、国際的な研究の進展により、PFASのなかに新たな有害物質が特定される可能性がある。その際、「すでに有害とされたPFAS」という漠然とした理解が、新しい規制物質への理解や対応を妨げる可能性がある。

3)経済的影響や社会的コストの誤解拡大リスク

 有害性がない物質も含め、PFAS全体が一括して規制されることで、産業や経済活動に大きな影響が及ぶ可能性がある。例えば、医療機器や半導体製造で不可欠なフッ素樹脂が使用できなくなれば、技術革新や産業競争力の低下を招く。また、これにより規制への批判が強まり、環境保護への支持が低下する可能性もある。

 これらのリスクに対応するためには、正確な情報発信と市民への教育が不可欠である。「PFAS」という総称を使用する際には、その中に多様な物質が含まれること、現時点で調査されているのは主にPFOSやPFOAであることを明確に伝える必要がある。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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