なでしこリーグで頭角を現した新戦力も。2020年最後の代表活動で示した競争力と一体感
11月23日から29日まで、なでしこジャパンが福島県のJヴィレッジで年内最後となる活動を行った。7カ月ぶりの活動となった10月の合宿に続き、攻守とセットプレーを強化。
男子のふたば未来学園高校(○4-0)といわきFC U-18(○3-2)とのトレーニングマッチが組まれた。
3-2で男子ユースに逆転勝利。なでしこジャパンが2020年最後の活動で得た手ごたえ
合宿時に高倉麻子監督と選手たちに話を聞いた。
(※)取材はすべてオンライン会議ツール「Zoom」で行いました。
監督・選手コメント
高倉麻子監督(最終日)
ーー全日程を終えて、今回の合宿の収穫を教えてください。
コロナ禍の状況で10月、11月と連続でキャンプができたことをありがたく思いますし、選手が積極的に取り組んでくれて、攻守ともにチームとしてやりたいこと、個人への要求を積み重ねることができました。それぞれのプレーの特徴を、速いスピードの中でどれだけ発揮できるかということを見てきました。対応が早い選手もいれば、時間をかけながら自分のものにしていく選手もいる中で、いろんな観察ができましたし、オフでも選手同士が非常に明るい雰囲気を作ってくれて、本当にうるさかったです(笑)。練習でもそうですが、お互いに声をかけ合ったり要求を出し合うことが、今まで以上によくできていたと思います。
ーー去年のW杯以降、五輪に向けてはフランス(W杯)に行っていたメンバーが中心になるということでしたが、10月、11月と新しいメンバーが加わり、練習試合で目立つ選手もいました。五輪が一年延期されたことで選考にどのような影響がありますか。
19年のW杯が終わり、そこから五輪までの期間を考えたときに、それまでやってきたことが間違った方向性ではないと考えていたので、W杯のメンバーがベースになると思いながらチームを作ってきました。でもやはり1年延びたことで、リーグを含めて出てきた選手がたくさんいます。そういった選手を呼んでいく中で、新しい選手がまったく引けを取らないパフォーマンスを見せてくれているので、選手たちは厳しいところ(競争)に身を置くことになると思います。ただ、チームの根幹は変わっていないので、それを体現し続けている選手はこれからも呼び続けると思いますし、プラスアルファで成長を見せてくれる選手やプレーの幅が広がった選手はもちろん呼びます。また入れ替えが少しありながらチームを作っていく形になると思います。
ーー来年の活動のイメージと意気込みを教えてください。
来年は五輪の後にWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)がスタートするということで、待ちに待ったプロリーグのスタートを楽しみにしながら、その前の期間は、リーグ戦が継続的に続くことがないので、代表活動の期間は多めに取りたいという希望は出しています。できれば毎月活動していきたいと思いますし、多くの日数をかけてチームを作り上げていけるのではないかと思っています。
DF 熊谷紗希(オリンピック・リヨン/2日目)
ーーフランスも新型コロナウイルスが再拡大していますが、どのような過ごし方をしていたのでしょうか。久々の代表合宿はいかがですか。
フランスは日本に比べてもコロナが拡大していて、国としてはロックダウンという形を取っています。その中で、幸運にも試合と練習は続けることができていて、私自身の生活は大きく変わっていません。このような状況の中で合宿ができること、海外から戻ってきてダイレクトで合宿に参加できたことに感謝していますし、リフレッシュもできています。
※スポーツ庁からの特別措置により2週間の隔離措置が免除された。
ーー東京五輪に向けての思いと、積み上げていかなければいけないと思うことを教えてください。
五輪が開催されることを期待して、そのための準備をあと8カ月ぐらい、代表活動はもちろんですが、自分自身ができることを全力でやり続けたいという気持ちです。チームとしては戦術的な準備、個としては球際の戦いをもっと増やしながら、勝てる力をつけていかなければいけないなと思います。
ーーオリンピック・リヨンでは今年のUEFA女子チャンピオンズリーグ決勝でゴールを決め、新しく始まったシーズンでも出場機会を掴んでいますが、好調の秘訣を教えてください。
コロナ禍でなかなかトレーニングできなかった時に、チームからもらったメニューなど、やるべきことをやり続けた結果が、チャンピオンズリーグのゴールや今の好調にもつながっていると思います。コロナ禍のなかでもサッカーができる喜びに改めて感謝していますが、特別大きく変えたことはないです。
ーー代表で取り組んでいる、前からボールを奪いに行く守備について、手応えや課題を教えてください。
高い位置でボールを奪えた方が攻撃に繋がるし、球際で戦えることは私自身の特徴も生かせると思います。それを90分のゲームの中でどれだけ続けられるかは、見極めていかなければいけないと思います。日本人相手なら、前から奪いに行っても(繋いで)はがす努力をしてくるでしょうけど、海外はもっと早い判断で(裏に)蹴ってくると思うので、一発でやられるぐらいならプレッシャーをかける位置を下げなければならない場面も出てきます。そこで、(裏に蹴られないために)球際で蹴らせないようにしたり、ボール保持者にどれだけプレッシャーをかけられるかがポイントになると思います。ラインコントロールや背後のケア、GKとのコミュニケーションなど、やることは山積みですが、前から奪う形を作ることで次のステップに行くことができると思います。
DF 遠藤純(日テレ・東京ヴェルディベレーザ/2日目)
ーー代表活動再開後、合宿には久しぶりの参加ですが、個人としてどのようなテーマで臨んでいますか?
自分の殻を破って、レベルアップした姿をこの合宿で見せることを目標にしています。パフォーマンスがいい時は得点や得点に絡むプレーが増えていますが、気持ちが安定しない中でプレーしたり、ミスが続くと下を向いてしまい、それがプレーにも出てしまうと感じています。その殻を破るためにも、いろんな人とコミュニケーションをとって、連係してプレーをしながら前向きに捉えていきたいです。オンとオフの部分でもさらに発信していくことや、伝えられたことを実行できるようにしていかなければいけないなと感じています。
ーー今季はリーグで自己最多得点(8点)を決めています。代表でも発揮したい部分を教えてください。
ベレーザではサイドハーフやサイドバックでプレーして、前後や横の選手と連動しながら攻撃を組み立てたり、崩しに入ることを意識していました。それは代表でも変わらずやっていきたいです。
ーーコロナ禍で東京五輪が1年延期され、大学生活とサッカーの両立をしながら、日々どのような意識で過ごしてきましたか?
大学には毎日通っていましたが、コロナの影響でオンライン授業になり、こういった状況が初めてなので混乱した部分はあります。両立がさらに難しくなったと感じていますが、その中でサッカーにフルパワーで取り組み、自分の得意な部分を伸ばしながらパフォーマンスを落とさないことはすごく意識していました。
ーー自分からの発信や殻を破るという言葉から強い思いが伝わって来ますが、危機感もあるのでしょうか。
そうですね。新しい選手たちとプレーする中で、自分が持っていないものを持っているなと感じているので、危機感もありますし、五輪は18人という少ない枠ですから、強い思いがあります。(五輪が)1年伸びたことで、自分がチャレンジできることや磨かなければいけないことを長く練習できるとポジティブに考えています。代表でもベレーザでも安定して、レギュラーとしてプレーできるようにさらに磨きをかけて、五輪のメンバーに選ばれるように、この期間を大事にしていきたいと思います。
MF 水谷有希(浦和レッズレディース/2日目)
ーー今季は浦和がリーグ戦で優勝しましたが、森栄次監督のサッカーで新たな発見や、個人として成長できたことはありますか?
個人的にはゲームを読む力が一番伸びたと思います。森さんのサッカーをやっていく上で、「すごいプレーをしなくてもチームに貢献できるんだと」いうことをすごく感じています。パスを繋いだり、ボールを奪う上で、何気ない、当たり前のような(基本を丁寧にこなす)プレーの積み重ねがチームの流れを引き寄せたり、勝利につながるということを改めて感じました。
ーー代表初選出となりましたが、どのような思いでこの合宿に参加していますか? 監督からは水谷選手について「変化を生む、という意味では人にないものを持っている選手」という評価もありました。
自分の持ち味を出して、「いつも通りの当たり前のプレーを当たり前にやる」ということを発揮したいです。攻撃面でリズムの変化をつけるところで、私の良さを生かせればいいなと思っています。
ーー代表の雰囲気やプレーはイメージしていたことと比較してどうでしたか? 浦和は前線が流動的ですが、それは代表にも生かせる部分があるのではないでしょうか。
雰囲気は予想とあまり違わなかったのですが、レベルは、予想していたよりも遥かに高いですね。代表の戦術を今回知って、普段一緒にプレーしていない選手たちのプレースタイルも知りながら、探り探りでプレーしています。戦術は理解していて、頭は追いついていますが、同時にやることが多く、ピッチ上では追いつくのに必死です。チームの戦術を遂行しながら技術を発揮して自分のストロングポイントを見せたいと思っているのですが、なかなか難しいですね。
ーー東日本大震災が起きた2011年までJFAアカデミー福島でプレーしていましたが、Jヴィレッジに戻ってきてどんな思いがありますか。
6年間過ごすはずだった場所で2年間しか過ごすことができず、震災から長い間帰ってこられなかったことを考えると、この場所でサッカーをすることにすごく懐かしさがありますし、当時の自分を振り返れば、ここまで成長したんだな、とも感じます。(中学生時代に)生活していた寮が見えるピッチで練習しているのですが、通っていた場所なので懐かしいですね。応援してくださっている福島の方々の分も頑張らなくては、と思いながらプレーしています。
FW 浜田遥(マイナビベガルタ仙台レディース/3日目)
ーー今季得点ランク2位の15ゴールを挙げましたが、量産できた要因と、どのような取り組みをしてきたのかを具体的に教えてください。
今年は本当に結果にこだわって、「2桁得点」という目標を達成するために何をすべきかを考えました。それで野球の大谷翔平選手がやっている「目標達成シート」を使って、真ん中に「2桁得点」と書いて、そのために練習や私生活で何をすべきか、具体的に言語化して取り組んだんです。その結果、試合に出られるようになり、得点も取れるようになりました。家の中の見えるところにその紙を貼って、自分の中でそれが達成できたかどうかを日々自問自答しながら過ごしていたので、感覚的にも、去年とは違う自分になれたかなと思います。
ーーリーグ戦では得点だけではなく、前線でボールを収めて攻撃の起点になったり、アシストでも貢献していたと思います。そうした特徴は代表でも生かせそうですか?
ボールを収めることはすごく意識してきました。しっかりと収めた上で、自分の長所である背後への動き出しが生きてくると思うので、代表でも、まずはそこをミスなくできるように頑張りたいと思います。
ーー年代別ではサイドバックなどいろいろなポジションでプレーしてきた経験がありますが、FWをやる上でプラスになりましたか?
そうですね。FWが守備で相手にプレスをかければディフェンダーは助かりますし、ディフェンダーのしんどさがわかる、という意味でいい経験をさせてもらいました。攻撃だけでなく守備でも貢献したい気持ちが強いのは、若いときにいろんなポジションを経験させてもらったからだと思います。
ーー初招集の感想と、呼ばれなかった時期の代表への気持ちや、東京五輪への思いを教えてください。
呼ばれたときは本当に嬉しかったです。本当にレベルの高い選手が多くて、毎日の練習で学ぶことが多くて練習が楽しいです。自分は他の選手のように足下の技術が高い選手ではないですが、運動量や前への推進力には自信があるので、全力でボールに食らいついていけたらと思います。これまでは実力不足で、本気で「悔しい」と思えるほど結果を出せていなかったので、「もっとやらなければいけない」と思っていました。今回呼んでいただけて、「結果を残せば呼んでもらえるんだ」と思えましたし、五輪は延期になりましたが、自分にとってはチャンスだと思っています。合宿に参加して、改めて来年の五輪に絶対に出たい、という気持ちに変わりました。
GK スタンボー華(INAC神戸レオネッサ/3日目)
ーー初選出された率直な気持ちと、練習に参加しての感想を教えてください。
本当にびっくりしました。今年から試合に出られるようになって、このタイミングで呼ばれたことを本当に嬉しく思います。チームは、練習に入る前は和やかですが、練習が始まった瞬間に目の色が変わるというか、雰囲気がガラッと変わる感じが、「世界で戦ってきた人たちなんだな」と感じました。(2人のGKの先輩/池田咲紀子・松本真未子について)キャッチやキックやポジション取りなどの基礎的な部分がすごく高いですね。私はまだまだ雑な部分が多いのですが、2人はしっかり抑えて、なおかつ自分の味を出しているのですごいなと思います。
ーーシーズンを通して試合に出たことで見えてきた自分のストロングポイントと、課題を教えてください。
試合に出られるようになって、シュートストップが通用するんだなとわかりましたし、前から守備に来る相手を裏返すキックが、(以前より)うまくできるようになったと思います。コーチングは思うように味方に伝えられていない部分があるので、もっと判断を早くして正確に伝えられるようにしていきたいです。ハイボール対応は、目測を誤ることがあるので、予測を鍛えていきたいです。
ーー持ち前の明るいキャラクターで、物怖じせずに盛り上げていると思いますが、同世代も多い中、これからどんな存在になりたいですか?
(代表にきて)自分自身が変わることはなく、この明るい感じで、「ちょっとしつこいな」と思われるぐらい話しかけにいっています。実際に「しつこい」とか「だるい」と言われたりもしますが(笑)、これが自分なので、それで覚えてもらえればいいなと思っています。自分の持ち味を生かして、明るくチームを盛り上げていけるような選手になりたいと思っています。
ーー175cmの体格生かす上で、構え方など、自分の体をうまく使うために意識していることはありますか。
私は父がドイツ系アメリカ人なので、日本人とはちょっと骨格が違う部分があるので、膝を曲げて構えると力が入りづらく、跳べないことがあります。それで、自分にあった構え方を学んで、骨盤を上げたり、肩幅よりちょっと広めに取るなど、細かいところで立ち方を変えて、今の立ち方になり、シュートストップができるようになりました。
FW 高瀬愛実(INAC神戸レオネッサ/4日目)
ーー今季はリーグ戦で途中からFWに復帰して、3試合連続ゴールも決めました。ゴールの感覚を取り戻したきっかけはありましたか?
(10月11日の第14節)マイナビベガルタ仙台レディース戦で、久しぶりにFWで出場しました。ゴール前に入っていく感覚は良く、それでも点を取る部分はまだしっくりきていなかったのですが、チームメイトが決めるだけという状況を作ってくれて、ゴールを取れたことがきっかけで、3試合連続ゴールにつながったと思います。
ーー代表は久しぶりですが、経験を重ねて感じることや、久しぶりの代表招集で、離れていたからこそ自分にとってプラスになったと思うことはありますか。
他のポジションも経験させてもらって、今までより落ち着いてプレーできるようになったと思いますし、年齢を重ねて前よりもミスを怖がることがなくなりました。しばらく代表から離れましたが、常に意識はしていましたし、チームでやるべきことをしっかりやろうという姿勢を継続できたことは、サッカー選手としてすごくプラスだったと思います。
ーー若いからこそ物怖じせずにいけるところもあると思いますが、経験を重ねて怖さがなくなるというのはどのような感覚ですか?
若い時は、先輩方がすごく上手でしたし、緊張しやすくて、「失敗して迷惑をかけたらどうしよう」と、自分の技術やメンタルの至らなさが気になっていました。でも、年上の選手が(引退などで)抜けていく中で、本当はすごく伸び伸びやらせてもらっていたんだな、と気づきました。失敗しても「次だよ」と言ってもらったり、いいところをすごく褒めてもらったり。こんなにやりやすい環境を作ってくれていたのに、なんで私はあんなにビビっていたんだろう、と思いました。今は、若い選手たちも上手だし、(自分は)年上なんですけれど、「そこに甘えてもいいかな」という気持ちで、精神的に少し大人になって、失敗を怖がらなくなったのかなと思います。自分がトライしてエラーする、そういう姿勢を見てもらうことで、若い選手たちに思い切ってプレーしてもらえたらと思っています。
ーー2016年のリオ五輪予選敗退を経験しましたが、東京五輪に向けてどのように過ごしたいですか。
4年前の(出場を逃してしまった)出来事はすごくショッキングでしたし、それからなかなか代表でチャンスを掴めませんでしたが、そうした出来事があったことで今、自分がここにいると思っています。一つひとつの試合や1回の練習だったり、いつも「今が勝負」だと感じているので、8カ月後に向けてそれを積み重ねて、その結果がどうなっているかはわからないですが、継続してやっていきたいと思います。
※文中の写真はすべて筆者撮影